『その数学が戦略を決める』 イアン・エアーズ 文春文庫

 訳語では「絶対計算」といういかめしい名前が付けられているが、要するにデータマイニングによる統計処理を用いた様々な戦略決定の事例紹介。紹介されている分野はマーケティングや政策決定など多岐に亘っている。様々な企業で商品企画やプロモ戦略の立案のために実施している、アンケート調査はまさにこれに当たる。
 なんでこんな本をよんだのかというと、先日『ビジョナリーカンパニー2』を読み終えた余勢をかって ― という訳では全然なくて、単に訳者が山形浩生だったから。彼が翻訳する経済学系の本はハズレが無くてどれも面白いんだけど、残念ながら専門書が多くて値段が高いのであまり読めないのだ。今回は珍しく文庫におちたのを本屋で見かけたので、買ってさっそく読んでみた。

 後半は少しだれる所もあるが、前半は自分が普段やっている仕事にドンピシャということもあり、内容が頭にサクサク入ってきてゴキゲンに読めた。回帰分析やタグチメソッドにより最適値を求めるくだりなどは、(ある程度は)統計手法や品質管理手法を知っている方がより楽しめると思う。まあ別に知らなくても、何となく雰囲気だけ味わえばそれで構わないんだけどね。どんなことが書いてあるか、参考までに前半の3章分を以下に要約すると…
 第1章:社会的問題への統計手法(回帰分析など)の適用による解決、意思決定
 第2章:タグチメソッドと無作為抽出による各種戦略の効果の数値的(客観的)判断方法。
 第3章:回帰分析によるユーザーのプロファイリングによって、対象者を絞り込む方法。
     ⇒言ってみれば「コンセプト商品のペルソナ(≒顧客イメージ)の作成」

 統計分析による商品企画で大事なのは、(著者が述べているのと同じく、)まさに「予断」を持たないことであって、なお且つ比較用に幾つかの案を考えるには、ある程度の「センス」が必要となる。そのためには仮説出しやアイデア出しの質がとても重要なカギ。つまり商品企画の担当者に求められるスキルは「数字の分析力」だけでは不足であって、仮説と検証を繰り返すためにはそれを仕掛けるための創造的な力が必要ということ。当然ながらそこいらが“知恵の出しどころ”だし、“普段からどれだけアンテナを高くはれるか?”と言う心構えの話になる。

 本書には「絶対計算」にまつわる様々なエピソード以外に、初心者の疑問や不安を解消するための説明にも多くのページが割かれている。前から疑問に思っていた事を2点ばかりピックアップしてみよう。

<心配ごと・その1>
 Q.専門家より正確に判断できるようになるので、人間は失業しちゃうのでは?
 A.失業を心配しなくても、人間が必要な作業はまだまだある。仮説やアイデア出し、
   質問の文章を考えるなど、人間が必要とされる創造的な作業に終わりはない。むしろ、
   機械でも出来るような簡単な仕事しかしてなかった人は自分を見つめ直すいいチャンス?

<心配ごと・その2>
 Q.商品特性を絶対計算することで得られる商品企画では、どうしようもない均質性が実現
   してしまうのでは?(=多数決で仕様を決めることになる?)
 A.確かにその懸念を完全になくすことは出来ない。データ分析の結果を悪く利用すれば
   つまらないものばかりが市場に出回ることになる恐れはある。しかし今の企業にとって
   最大の問題は「データ分析結果の利用による均質性」よりも、一部の人間(*)の憶測や
   思い込みによる判断の横行と口出しによって、データ分析の利用なんか比べ物にならない
   くらいヒドイ商品が世に出されていることの方では? むしろデータ分析はそれらの不当
   な介入を少しでも減らすための材料として使える。また、データを見てどのように意思を
   決定するかは担当者の判断なので、必ずしも全て同じ答えに至るわけではない。
    ―例えば3割の人がある機能を欲しいと言ったとしても、「3割しか」とみるか
     「3割も」と見るかで判定は180度変わる。

   *…大抵は企業の経営陣の場合が多いので余計にタチが悪い。(笑)

 よって本日の結論(笑)としては、「商品企画/マーケティング関係者はよく心して読むべし。」ということ。少なくとも前半部分については必読書といえるだろう。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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