『ビジョナリーカンパニー2』 ジェームズ・C・コリンズ 日経BP社

 直訳すると「ビジョンを持った会社」「先見性のある会社」ということだけど、正直なところいくら読んでも著者のいう「ビジョナリー」の定義がピンとこない。軽く「すごい会社」とでも言う感じなのかな? 要は明確な経営理念を持ち、独自の企業文化が社員の世代を超えて継承されていく会社のこと。本書はその「ビジョナリーカンパニー」についての研究書で、経営指南書としてアメリカでベストセラーになったシリーズ(の第2弾)。1作目はだいぶ前に読んでおり、仕事関係の人から2作目を借りる機会があったのでさっそく目を通して見たというわけ。

 以下、本書の内容について触れる前にまず断わっておきたい事がある。以前どこかで読んで感心した言葉について、ちょっと流用させてもらうが、それは「ビジネス書はすべからくファンタジー」だということ。
 どういう意味かというと、「読むとモチベーションは上がるが実業務で役立つ情報はないので、基本的にビジネスの役には立たない。あくまでも楽しみのひとつとして読むべし」ということ。
 いわゆる「ビジネス書」と呼ばれる本はそれほど多く読んでいる訳ではないのだが、言われてみると確かに「こうすれば成功するよ」とか「こんな風に考えよう」とかいう類の本がやたら多い気がする。別に科学的な根拠があるわけでもなし、心構え次第で道は開けるみたいなのを読むと、“ホントかいな?”と云いたくなってしまう。幾ら実用的であっても耳障りなことばかり書いてある本を読んでも楽しくないので、ファンタジーであるビジネス書ではあまり取り上げられないということか。
 そう考えると、ビジネス書を読んでいるうち頭の中にハテナ?マークが沢山浮かんできたり、ご都合主義的な作者の主張に辟易することが多いのも頷ける。仕事の役に立てようと思って読むからいけないんであって、最初から娯楽のつもりで臨めばそれなりに面白く読めるということだろう。

 本書についても、(前作と同様に)調査のサンプルとして選んだ企業の選定基準がかなり恣意的であるとか、著者の言う「偉大な会社」とはただ単に「株式の運用実績が良い」という事なの?とか、基本スタンス自体に色々と疑問はあるのだけれど、元々がアメリカ国内向けに書かれた経営学の本なんだし、ファンタジーとして割り切って考えるのであれば、不備をあれこれあげつらってみても仕方ない。そう割り切ってしまえば、そこそこ楽しむことは出来る。ただし本書の最後で著者がちょっと欲を出してしまい、「これを実践すればみんな成功できるよ」と書いていたのが少し気になったが。
 ファンタジーとしてではなく実用書として売り込もうとしているのなら、内容に問題があるのはやはり困る。そこで本書で不備と思われる点については以下に触れておきたい。その上で「自分の立場ならこの中から何ができるか」という風に考えるなら構わないが、鵜呑みにするともしかすると失敗するかも??

【疑問1:“後出しジャンケン”で評価を下してないか?】
 著者は企業が成功するための条件として、自らが「3つの円(*)」と名づけた3条件を挙げている。これを全て満たしたうえで、且つ出来る限り単純な経営戦略が作れた時、企業は大きな飛躍を始めるのだそうだ。(これはサンプル企業11社の調査により分かった“事実”だと説明されている。)
 しかしこの経営戦略が良かったかどうかの判断は、本書によれば企業の実績(=株価)によるものである。 飛躍できなかった企業も同じような経営戦略を立てているが、そちらは間違っていてビジョナリーカンパニーが正しいと言うのは、いわば“後出しジャンケン”による裁定ではなかろうか?という気がしないでもない。(笑)

   *…「3つの円」の3条件
     ①自社が世界一になれる部分。(これは必ずしも現時点での「コアコンピタンス
      /自社の強み」である必要はない。何年間も真剣に検討していれば自然に正しい
      判断が訪れるそうだ。)
     ②経済的な原動力になるもの。(キャッシュフローと利益のこと。)
     ③情熱をもって取り組めるもの。(経営者の思い込みでも構わないが世代を超えて
      経営陣に共有化できる価値観であること。)

 ちなみに①を決めるカギになるのが「針鼠の論理」と呼ばれる概念。深い理解に裏打ちされ、且つ明解な単純さをもっている経営者の「思いこみ」による戦略のこと。これを決めるのには調査したビジョナリーカンパニーでも平均4年かかったそうで、それでやっと(虚勢ではなく冷静な理解によって)「自分の会社は世界一になれる」と言う洞察に至るらしい。そしてその情熱を持ち続けた…(って、結果的に成功したから言えることであって、駄目なら単なる虚勢だったというレッテルをはられるのでは? そこらへんどうなんだろう。)

【疑問2:挙げた条件は本当に必要かつ十分なのか?】
 成功した会社から抽出した共通条件については、まあ間違いではないとしよう。同業者の中から比較企業を選んで、ビジョナリーカンパニーにあって同業者に足りない条件を見つけたのもまあ良しとする。問題は、成功した会社と同じことをしたのに失敗した事例が無いかについて未確認と思われること。もしそんな企業があれば、本書で挙げられた「成功への道筋」は単なる「必要条件」に過ぎないということになるかも知れない。
 またそれとは逆に、「3つの円」の条件を全く満足していないのに「ビジョナリーカンパニー」と同様の伸びを示した企業が存在していないかを調べるのも重要だろう。
 理想の調査は「必要十分条件」を捜す、つまり成功するために“やらなきゃいけない事”と、“やっていけない事”をそれぞれ明確にすること。もしもそれが無理であれば、せめて(無駄なことはしているかもしれないがとりあえず)“やらなきゃいけない事”くらいは明確にしておかないと、「実用書」としては怖くて使えないだろう。 この2つの検証結果がないと科学的アプローチであるとは言えず、「これら繁栄している企業の良いところはこんな点です」という紹介だけに終わってしまうと思う。それならまるで自己啓発の本みたいなもんで、「信じるか信じないかはあなた次第」、「自分に活かせそうな点があれば見習ってみたら?」という程度に終わる恐れも充分に考えられる。
 ― 何度も言うが、最初からそういった読み物(=ファンタジー)として読むなら本書は充分に面白い。

 「実用書」として利用する際の注意(と言うか問題)をさらにもう一点。もしも本書の「良いところ」だけを見習おうと思ったとして、それでも実行には様々な困難が伴うと予想される。今のところ考えついたのは以下の3つ。

 1.経営者が本書で言う「第5水準(=いわゆるビジョナリーカンパニーを作る原動力と
   なる、市場でも最高レベルの経営者)」なのか、それとも謙虚さのかけらもなく、
   自分が辣腕をふるっている間だけ企業が繁栄すれば、引退した後は知ったことじゃない
   というタイプなのか、一般株主など企業の外部からは、決して内部を伺い知ることは
   出来ない。
 2.社員なら訓示や社内会議における言動を通じて、経営者の資質を知ることが出来るかも
   知れないが、逆に社員には経営者を選ぶ権利は無い。(あるとすれば自分が勤める企業
   を選ぶか、ネットで愚痴る権利ぐらいか。)
 3.次期経営トップの候補者がどんな人物であるか、現在の経営層は予め知るすべはない。
   (もしかすると実際にトップに立つまで本人さえ自覚していない可能性もある。)

 ということで、ビジョナリーカンパニーとして飛躍する為に企業がすべき行動については、全ての判断が「事後」となるしかない。敢えて悪い表現をするなら、「キリンでもヒトでも、哺乳類の首の骨は全て7つ」とかいうトリビアと同じで、面白いけど役には立たない雑学知識に過ぎないのかもしれない。(もっとも社会科学は自然科学と違って、繰り返し試験/再現試験ができないので致し方ないところではあるが。)
いずれにせよ大事なのは、社会科学の限界を知った上で参考にするという姿勢だろう。

<追記>
 アメリカ人はサクセスストーリーが大好き。映画『ロッキー』のようなアメリカンドリームにいつも憧れている。だからたとえ主人公が本当の人間ではなく「法人」であっても、ある程度の感情移入さえできれば、逆境をバネにして成功していく様子を見て、胸のすく思いがするのかも。でもその陰には「あなたはこの会社には合わないから速やかに別の人生を見つけるべき」と言われている人がいる。その様子は本書の中で企業が生き残る上での「美談」として(企業側の視点から)説明されている。でもそれって本当に良い事なんだろうか? “企業の成功”って一体なんなのだろう、株式運用の利率が良いことなのかなあ?
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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