『死にとうない 仙和尚伝』 堀和久 新人物文庫

 唐突な話題で恐縮だが、もしも「好きな歴史上の人物を3人挙げよ」と言われたら誰を挙げるだろうか? きっとかなり迷うに違いない。しかし範囲を「好きな歴史上の宗教家」まで絞ればどうだろうか、2~3人くらい挙げることは割と簡単に出来ると思う。まず筆頭にくるのは(スーパースターの)空海だが、流石にこれは別格として、他にすぐ思い浮かぶのはアッシジの聖フランチェスコ、そして本書の主人公である仙義梵(せんがい・ぎぼん)といったところだろうか。
 本書には日本の臨済宗(禅宗)の高僧である仙和尚の生涯が描かれている。新潮文庫版がかなり前に絶版になっていて、2年ほど前からずっと捜していたのだが、ありがたいことに古本屋で見つけるよりも先に、新人物往来社が復刊してくれた。
 ただ、さっそく買って読んでみたところ少し予想と違っている。副題に「仙和尚伝」とあるので評伝だとばかり思い込んでいたのだが、実際には司馬遼太郎の作品のような歴史(時代)小説だった。この種の本はどこまでが史実でどこからが著者の創作なのか境目が分からない。好きな人はそれで良いかもしれないが、自分の場合は却ってフラストレーションが溜まるので、普段はなるべく手を出さないようにしている種類の本である。しかし今回は好きな人物なので仕方がない。既に買ってしまったんだし。(笑)
 で、読んだ感想を率直に言うと、とりあえずは満足。小説としての出来不出来は置いておくとして(*)仙という人が今まで以上に好きになった。

   *・・・とは言え、決してこの小説の出来が悪いわけではない。

 例えば出光美術館が所蔵している『○△□』や『指月布袋画賛』といった軽妙洒脱な墨絵をみるたび、このような絵を描ける仙という人は、一体どんな人物だったのだろうと思っていたので、本書によってまずはその生涯を知ることが出来ただけでも好奇心は満足できた。文庫で出版してくれたおかげで手ごろな価格で読めたわけだし、とりあえずは良しとすべしだろう。機会があれば、次にはきちんとした評伝を捜して読んでみたい。

<追記>
 仏教思想として一番すぐれている宗派は密教(真言宗)だと思うが、魅力的な人物を数多く輩出しているのは禅宗ではないだろうか。そして禅宗の中でも特に面白いのは座禅で有名な曹洞宗ではなく看話禅(かんなぜん)の臨済宗の方だと思う。風狂禅で有名な一休禅師しかり、そして仙しかり。いずれも臨済宗が生んだ名僧である。
 だいたい禅宗が掲げている「頓悟(とんご)」という発想からして凄いと思う。南方熊楠は思い切り罵倒していたが(笑)、何しろ難しい理論や修行によってではなく「公案(≒相矛盾するような無理難題を吹っ掛けること)」によって一瞬のうちに悟りを得ようというのだから。京極夏彦の『鉄鼠の檻』(講談社文庫)ではそのあたりが上手くかけていて面白かった。
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名人

仙崖义梵氏について中国のサイトで見てみたら、結構紹介されているようです。特に最近の記事ではよく仙崖さんが優しく弟子たちを教育した物語を紹介していましたね。夜中である弟子がこっそりと逃げ出して遊びにいったにもかかわらず、仙崖氏が怒鳴りするのではなく行動で弟子を感動させ、弟子に自分が悪い事をしたなと思わせたようです。
それとあるお金持ちの人から祝い事で掛け軸を書いてほしいと頼まれた時、仙崖氏は『父死,子死,孫死』と書いた物語りもありましたね。考え方は独特で面白いというか、賢いですね。v-47

Re: 名人

 禅僧は面白いですよー、悟りを得るために生きるか死ぬかの瀬戸際で修行してますからねえ。
 夜中に抜け出した弟子を諭すエピソードも本書に載っていますが、無明の状態が長く続き精神的に追い詰められた弟子を救う話です。そんな厳しい様子を微塵も見せない彼の絵が、またいい味だしてて好きなんですよ。
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