『河童駒引考』 石田英一郎 岩波文庫

 柳田の『山島民譚集』に収録された論文「河童駒引(かっぱ・こまびき)」を補足する形で、世界中から同類の神話や説話をあつめて論じている。元になった柳田の論文を読んでいないので偉そうなことは言えないのだが、「河童駒引」では河童が駒(馬)の手綱を引いている伝承が生まれた根拠を考察しているらしい。そして本書では更に踏み込んで、河童が馬や人を水中に引きずりこもうとする習性に注目し、それらの伝承がどのような背景で生まれたのか?について、膨大な資料に基づいて考察を行っている。
 先に結論を言ってしまうと、石田によれば河童は水神の一変形であり、河童が馬を引くという伝承は、過去の民族社会において馬を水の神に供えた儀式の名残ということらしい。このあたりは、「妖怪=零落した神」という一般にも良く知られた柳田の意見を踏襲している。(もちろん研究が進んだ今の目から見ると、例えば木偶から河原者に至る考察が抜けているなど、不充分な点はあるのだが、当時の水準からすれば立派なもの。)
 中身は大きく3部に分かれており、“水怪”を馬/牛/猿という3種類の動物に関する神話・説話から論じている。

 それぞれについて順番に概要を説明する。
 まず「馬」について。馬は神話においては霊界とのつながりが深い動物であり、竜と同一視される傾向もあるとのこと。水辺に出現する怪異の担い手として、不注意な乗り手を水の中に引きずりこむ話が世界各地に伝えられている。シンボルとして関係が強いのは遊牧文化/男性原理(父系的)/天の信仰(太陽)など。
 次に「牛」について。牛は馬よりも先から家畜化された動物であり、シンボルとしては農耕文化/女性原理(母系的)/月の信仰などと関係が深い。“豊饒の角(コルヌコピア)”のように大地や農業とのつながりがあることから「雨」そして「水」という流れができあがり、やがて新しく家畜に加わった馬と水辺のイメージを橋渡しする元となった。
 最後に「猿」について。猿は河童と同一視される場合も多く、(亀と同じく)河童の正体のひとつと考えられている。また厩舎を病害から守る“保護者”としても用いられており、牛や馬とのつながりもある。
 そしてこれら様々な伝承が総合された結果、水神の零落した姿である河童によって、同じく水辺に関係の深い「馬」という動物が、水に引きずり込まれるという伝承が生まれたのだと結論付けている。

 少し牽強付会のところもあるにはあるが、視野が日本国内だけでなく世界に向けられているので、聞いたことのない伝承を知るだけでもなかなか愉しかった。
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初投稿

3番目の猿が伝説の「河童」に近いような気がしてきました...v-63

Re: 初投稿

iriaさん、初コメントありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。m(_ _)m
河童は色んなものが合わさって出来た妖怪なので、元が辿れないくらいごちゃごちゃになってるんですよね。元ネタと思われる動物だけでもカワウソやカメなど色々ありますが、猿はその中でも有力候補の一つだと思います。(前の返信を間違って削除してしまい、書き直しました。すいません。)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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