『死者の書・口ぶえ』 折口信夫 岩波文庫

 柳田國男とならび称される代表的な民俗学者であり、国文学者・詩人でもあった折口信夫の文学作品集。収録作は代表作の「死者の書」と、同題の未発表草稿「死者の書・続篇」、そして“BL”(!)の世界を真正面から描いた自伝的作品「口ぶえ」の3作。
 しかしこの人の文章はすさまじいね、どうにも。まるで肌を撫でまわされるような、耳元に息遣いが聞こえてきそうな艶めかしさ。もしも文学に“湿った文学”と“乾いた文学”というものがあるとしたら(*)、“湿った”方の代表格には谷崎潤一郎や笙野頼子にならんで真っ先に折口信夫が挙がるのではないだろうか。ちなみに後者の代表格としては中島敦や梶井基次郎などが思い浮かぶ。(幻想文学の“乾いた派”では澁澤龍彦、稲垣足穂、倉橋由美子なども。)

  *・・・前者を「情念先行型」後者を「理念先行型」と言い換えてもよいかもしれない。

 この執拗なまでの皮膚感覚は、「死者の書」のような幻想的な小説の表現には実に合う。岩を水の雫が伝うときの、有名な「した した」という表現など、使われている言葉の選び方が半端じゃなく、随所でぞわぞわするような何とも言えない効果を生んでいる。
 内容はエジプト神話のイシスとオシリスの逸話から着想して、死者の蘇りと昇天を、当麻寺に伝わる曼荼羅の縁起に託して描いたもの。「続篇」の方は弘法大師・空海がテーマになっており、どうやら折口の構想は、色々なパターンで死者と生者の交感を描くことであったか。続篇が中断しているのが惜しい、この調子で最後まで読んでみたかった。(この2つはもろに好み!)
 ところがその勢いで3つめの「口ぶえ」になだれ込んだところ、「どっひゃぁー」とひっくり返りそうになった。この文体で思春期の同性愛が心の襞の細かいところまで描写されているので、その手の趣味が無い人間にとってはまるで拷問である。頑張って最後まで読み切ったが、体中に鳥肌が立つほどの感触であった。(でも作品としては幻想味もあり傑作だとおもう。)

<追記>
 この文のカテゴリはあえて「文学・文学史」ではなく「幻想・SF・ミステリ」の方にした。
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