『ぼくらが夢見た未来都市』 五十嵐太郎/磯達雄 PHP新書

 「未来都市」と聞いてまず思い浮かぶのは鉄腕アトムのオープニングのようなイメージ。空中に浮かぶハイウェイを、「スターウォーズ」に出てくるようなエアカーが疾走する風景が頭に浮かぶ。
 本書は「ダ・ヴィンチから現在まで、建築家たちやSF作家たちが描いた未来都市像の変遷を辿る。」という惹句にあるように、現実とフィクションの両方にまたがって、過去から夢見られてきた未来都市および未来建築について紹介した本である。但し「明治時代に空想された100年後の日本」というような、よくある“レトロフーチャー”なものばかりが、対象として取り上げられている訳ではない。構成としては奇数章には現実に構想された建築や都市計画が、そして偶数章には小説やマンガ等のフィクションで描かれた未来都市が、サンドイッチのように交互に組み合わさっている。サンドイッチではパンの間に挟み込まれた具材によって「○○サンド」という名前や味が決まるわけだが、本書で他の類書との違いを際立たせているのは、何といっても(本書の為に今回書きおろされた)フィクションにおける未来建築を紹介する偶数章の部分である。50~60年代(黄金時代)のSFが好きな人ならきっと、読んでいて愉しくて堪らないだろう。つまり奇数章がサンドの「食パン」、偶数章がサンドの「具」にあたり、パン同士をくっつける接着剤の役目をしているというわけ。
 残念だったのはせっかくおいしい「具(偶数章)」を作ったのに、それを挟む「パン(奇数章)」が既製品だったこと。色々な雑誌に掲載された文章を集めて、おおよそ共通するテーマで強引に一つの章にまとめているので、全体が散漫な印象になってしまった感は否めない。偶数章が前の奇数章の内容を受けてうまく繋ごうとしているが、「パン」自体がどうしてもパラパラと指の間からこぼれ落ちるので、少し食べにくい。こんなに面白いテーマなのだから、どうせなら奇数章も手を入れて統一感をだしてくれればもっと良かった。

 前置きが長くなってしまったが、ここからは具体的な中身の話に移る。
 「未来都市」という言葉のもとに括られた内容を挙げていくと、おおよそ次のようになる。
  ・「メガストラクチャー(超巨大建築物とでも言えばいいのかな?)」による都市計画
  ・東京の(あるべき姿にむけた)都市計画と、未来都市の象徴としての東京
  ・バラ色の未来へのアンチテーゼとしての「廃墟」のイメージ
  ・「未来都市」のイメージ形成に影響を与えた「ユートピア思想」などの系譜
  ・新しい都市空間への取り組み(近年のアジア地域とバーチャル空間について)
  ・「未来都市」の象徴としての大阪&愛知万博の総括
 先述のように奇数章では現実に提案されてきた都市計画案が紹介される。丹下健三/黒川紀章/磯崎新といった、キラ星のような建築家の名前が次々に出てきてわくわくしてくる。ただし現実の内容であるため取り上げられる年代がある程度限定されるのは致し方なくて、過去は18世紀から未来はせいぜい22世紀初頭まで、中心はやはり20世紀となっている。
 対して偶数章では古今東西のSF小説やマンガを題材にとり、物語で背景となっている都市や環境が紹介されている。すぐに思い浮かぶクラークの『都市と星』、アシモフの『鋼鉄都市』といった有名どころは勿論のこと、シルヴァーバーグの『内側の世界』やプリースト『逆転世界』といったマニアックな作品、はては菊地秀行の『魔界都市<新宿>』やイーガンの『ディアスポラ』まで数多くの作品が取り上げられ、(作品を知っていれば)実に楽しい。

 実はこの本を読み始める前に、ここで取り上げられてない作品を考えてやろうと頭を絞ってみた。結構考えたつもりだったが結局重ならなかったのはスティブルフォードの「タルタロスの世界(3部作)」くらいだった。(この中には地球全体を覆うメガストラクチャーが出てくる。)
 あとは石原藤夫「ハイウェイ惑星」で舞台となる惑星全体を覆うハイウェイや、ブリッシュ『宇宙零年』に出てきた、木星に建築中の巨大な「橋」なんかも思いついたが、地球外なのでちょっとルール違反かな?

 以上、SFに詳しくない人が読んでもなんのことかさっぱりわからない話題が続き大変恐縮だが、あんまり楽しかったのでご勘弁を。(笑)

<追記>
 「未来都市」のイメージ形成について、自分なりに考えていたことを補足しておきたい。
本書でも述べられているように、当代の日本人が「未来都市」に対して抱くイメージに決定的な影響を与えたのが、手塚治虫の『鉄腕アトム』と、(大伴昌司により)少年マガジンに掲載された『図解シリーズ』であるのは間違いない。そして彼らが参考にしたのは、アメイジング・ストーリーズ誌やワンダー・ストーリーズ誌といったアメリカのパルプマガジンの表紙絵だろう。これらを辿っていくと、最終的には「SFの父」ヒューゴ・ガーンズバックが書いた「ラルフ124C41+」に至る。
 問題はガーンズバックが何をヒントにして「ラルフ…」の都市のイメージを考えたか?だが、それは直接的には19世紀中~末にかけて開催されたロンドン万博とパリ万博だったのではないだろうか。当時最新の建築素材であった鉄鋼(鉄骨)や板ガラスをふんだんに使って建てられた、水晶宮(ロンドン万博)やエッフェル塔(パリ万博)といった巨大建築が、(個人的には)後のメガストラクチャー幻視の引き金になったのだと思う。そしてさらに遡ればイタリアのグロッタに代表されるバロック趣味や、ドイツの「ヴンダーカマー(驚異の部屋)」の展示物に見られるような「新奇性」ならぬ「珍奇性」への嗜好が、我々が「未来都市」に感じるワクワク感にもつながっている気がしてならない。(アンチンボルドの絵と万博パビリオンのヘンテコさ加減って、どこか印象が重なるのは自分だけだろうか?)

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No title

ラルフ124C41+
懐かしい名前が見つかりました。
あの科学技術に対する明るい信頼とでも言う
ものが懐かしく思い出されます。
原発事故という大変な災害の中で
余計に懐かしく感じます。

でも私は信じています。
未来は明るいに決まっている。!!!!

追記
常温核融合が実用化に成功した模様

No title

kさん コメントありがとうございます。
未来に夢をみるのは人間の特権であり美徳ですよね。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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