電子書籍サービスについて

 i-Padが発売されてからというもの、今まで以上に電子書籍サービスの話題が多くなっているようだ。ハードウェアとしてのi-Padが売れるかどうかは別として、今のコンテンツの供給状況からすると、初期投資に対するバックが少ないので、自分としてはまだ電子書籍を利用する気にはならない。
 主要な出版社でつくる電子書籍の販売サイト「電子文庫パブリ」をざっと覗いてみると、販売されている本(ソフト)は一般の書店でも買えるもの(の一部)しかなく、わざわざ重たい電子ブックで読まなくても手軽な文庫で手に入るものも多い。
 電子書籍の魅力として良く挙げられるのは、まずハードウェア自体がもつ特色による「字の大きさが変えられる」や「読み終わった本が邪魔にならない」など。次に出版社の仕掛け(サービス)による「本が安く買える」とか「早く入手できる」などが代表的なものだろう。しかし今のラインナップ程度であれば本の「ヘビーユーザー」がわざわざ数万円を払い、ハードウェアを購入してまで電子書籍サービスを利用するとは思えない。そんな金があれば、その分を本の購入費に廻すはずだ(笑)。 またサービス利用者をi-Padユーザーにもとめたとしても、そのほとんどは(Webについてはヘビーユーザーでも)本については「ライトユーザー」であり、やはり期待はできそうにない。
 まったく新規の商品を企画する場合は、「イノベーター(革新者)」や「アーリーアダプター(初期採用者)」をいかに攻略して市場を構築するかが重要。そしてある程度市場が構築されたのち、「マジョリティ(追従者)」の購入が始まってから投資の「回収」に移るというのがセオリーである。だとすれば、電子書籍サービスにおいても、どのようにして「ヘビーユーザー」を攻略するかがカギとなるだろう。そこで次のような提案はどうだろうか?

 残念ながら媒体としての機動性や扱いやすさでは「紙」に勝てるものはまだない。したがって大学などの研究機関の場合は、いくらたくさんの書籍を購入している「ヘビーユーザー」であったとしても、電子書籍の普及にはまだ時間がかかるだろう。電子書籍を電子データとして利用できるリファレンスソフトなど、研究資料として活用できる環境が整えばまた別だが、もうすこし時間がかかるのではないだろうか。
 とすると、電子書籍のヘビーユーザー候補は、自分達のような一般の読者にもとめるしかない。毎月それなりの量の本を買っている「活字中毒者(笑)」がとりあえずのターゲットになるだろう。ヘビーユーザーは大きく分けて次の3つに分類できるとおもう。
  1) 物体としての本を愛するタイプ、いわゆる「愛書狂」
  2) 主に新刊書店(ネット通販含む)で最新刊を購入するタイプ
  3) 場合によっては古本屋も活用して自分の趣味を追求するタイプ
 最初の1)は本の中身には興味が無いので電子書籍のユーザー候補としては論外。可能性があるのは2)と3)のタイプである。
 次の2)は例えばミステリやSFなどのサブカルチャー系などに多いタイプで、この人達は「読み終わった本が邪魔にならない」には心惹かれるかもしれないが、最近では読み終わるとすぐブックオフに持っていくことも多い。したがって基本的には「安く買える」が電子ブック利用のポイントになるだろう。仮に平均1500円するハードカバーの新刊が900円で買えたとして、差額は1冊600円となる。これで初期投資の5万円分を回収するには約80冊かかる。ひと月4冊買うとして、およそ1年と3カ月ほどになる計算になる。実際にはブックオフに売って回収できる金額を考慮しなければいけないので、1年半ぐらいかかるかも知れない。この人達は旧刊には用が無くて勝負は常に最新刊のみ。ロングセラーは期待できないので、大手の出版社以外は対応しにくいかも知れない。
 最後の3)は社会科学や人文科学系の本を趣味で読むような人間。市井の民俗学者や歴史マニアなども含まれるかもしれない。多分電子書籍のユーザーとしてはこちらのタイプの方が有望だと思う。
 社会系や人文系の学術書は、「名著」と呼ばれる本であってもたくさん売れるわけではないので、刊行されてから一度も重版がかからずそのまま絶版になっている場合もかなりある。これらの本は古書でなかなか出回らない上、出ても高値が付くケースが多い。一例を挙げればオクタヴィオ・パスの『弓と竪琴』(ちくま学芸文庫)は、古本屋で4500円、山口昌男の『仕掛けとしての文化』(講談社学術文庫)は3500円もする。文庫でもこの値段であり、ましてや単行本はまず見かけたことが無いし、たまに出ても美本は殆どないうえ価格も高い。
 またこれらのジャンルでは現在刊行中の本であっても、発行部数が少ないために定価がべらぼうに高くて、なかなか手がだせない。これも例をあげれば、レヴィ=ストロースの『神話論理Ⅰ/生のものと火を通したもの』(みすず書房)は定価8400円(!)もする。
 これらの本を電子書籍にしてくれれば、2000円くらいしても結構買う人が居るんじゃないかと思う。もともとの単価が高いので差額も大きくなり、仮に平均2500円の差額が期待できるとすれば20冊余りで元が取れる計算になる。さらには定番商品としてロングセラーも期待できるので、中小の出版社でも(電子データ化するための初期投資さえ何とかすれば)充分に対応が可能と思う。

 だれか実現してくれないだろうか?

<追記>
 『復刊ドットコム』のリクエストでもいいしオンデマンドの本でもいいから、本を出版する代わりに電子書籍で出してくれれば、文芸関係でも充分に学術書と同じようにいけるんじゃないかな? 結局のところ本好きに対して魅力を出そうとすれば、ポイントは「読みたい本が読めること」に尽きるわけだから。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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