『子どもは40000回質問する』イアン・レズリー 光文社

 これは一風変わった本だ。原題は”CURIOUS(好奇心)”といい副題には“あなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力」とある。前半は発達心理学や子供の教育に関する話が続くが、後半になるとがらりと装いを変えてビジネス書になる。(ちなみに書店では教育の棚に置いてあった。)帯には「好奇心格差が経済格差を生む!」とあって結構そそられる。ひとことで内容を説明するならば、「セレンディピティ(思いがけない幸運な発見)」の元となり、また生きる喜びの源泉にもなる「好奇心」について、子供に対する教育からビジネスにおける効能まで、人生におけるあらゆる場面を想定して縦横無尽に語ったジャンル横断本 ――といった感じになるだろうか。
 後半部分はスティーブ・ジョブズのエピソードや「スペシャリストかジェネラリストか」にようにマーケティングやビジネス書でよくある話題が多くて、自分には比較的既知の内容が多かったため、子供の学習やなどにおける好奇心の効果を示す前半の方が面白かった。(しかし教育関係者の人にとっては、逆に後半の方が初めての内容が多くて面白いのかもしれない。)

 本書によれば、子どもは幼い頃から周囲の大人に対して直感的に、その人が「隠れた事実について情報を提供してくれる信頼できる存在」かどうかを判断しているのだそう。きちんと対応してあげればその好奇心は大きく伸びるが、いい加減な対応をしているとやがて質問をしなくなってしまうのだとか。
 こういった子供の好奇心の衰えは脳の発達過程に原因があるらしい。幼児の脳には爆発的な細胞の増加と新たな神経接合の形成によって、大人に比べると非常に多くの神経結合が存在する。しかしそれらのつながりは大人の脳のそれに比べて無秩序で非効率的であり、幼児の外界認識能力は無限の可能性があると同時に混沌としている。したがってきちんとしたケアをしなければ、早ければ四歳頃から好奇心は衰え始めるという説もあるようなのだ。こうした話を読むと、子どもの発達過程における大人の対応がいかに好奇心の発達に影響するかがわかって恐ろしい。自分が子どもの頃に、風呂に入るたび父親を質問攻めにしていたのを思い出した。面倒くさがらずきちんと答えてくれるのが嬉しかったが、まさにあれが大事だったのだなあ。好奇心旺盛な子供に育ったのは父親のおかげなのかもしれない。
 さらに興味深いのは、全く知らない事柄については興味を抱かず好奇心は湧かないという話だった。ただし知りすぎている事柄に対しても好奇心は抱かないようで(そりゃそうだ/笑)、好奇心には「手ごろな量の知識」が前提となるらしい。つまり好奇心旺盛な人というのはすなわち、幅広く色々な知識を持っている人ということになる。何事も知れば知るほど楽しくなり、そして知れば知るほど更に知りたくなるのはこういうわけだったのだねえ。
 子供は2歳から5歳の間に、「どうやって」「どうして」という質問をなんと4万回も行うという調査結果もあるらしく(*)、こういった話題に疎い自分にとっては、目からウロコが何枚も落ちるような内容だった。

   *…本書の邦題はここから取られたもののようだ。しかし確かに分かりやすく
      キャッチーな書名ではあるけれども、新書の薄いビジネス書を連想してしま
      ってちょっと残念だ。サイモン・バロン=コーエンの『共感する女脳、システ
      ム化する男脳』(NHK出版)の記事でも書いたのだけれど、個人的にはせっかく
      良い原題があるのにこういう邦題の付けかたをするのはどうかと思う。

 他にもけっこう頷いてしまう文章は多い。例えば“好奇心は「知識の感情」であると理解されてきたが、情報の空白は必ずしも理性的に認識されるわけではなく、例えば掻かずにいられない痒みのようなものだ。”なんて、思わず膝をうちたくなる。疑問が頭に浮かぶと判るまで落ち着かないんだよね。
 また「インターネットはかつてないほど多くの学びの機会を提供してくれる」「しかし、そこに好奇心が伴っていなければ(中略)インターネットは猫の写真を楽しんだり、見知らぬ他人と言い争いをしたりするのに使われるだけになる。」なんて言葉も。猫の写真を眺めて癒されるのは別に悪いこととは思わないが(笑)、SNSでつまらない諍いをしている人をみると正直いって「この人はなんと無駄な時間を使っているのだろうか」とも思えてしまうのもたしかだ。

 以上、幅広い知識と好奇心の重要性を説いているだけあって、取り上げるテーマの幅広さを自らも実践しているかのような本だった。ちょっと焦点がぼやけてしまっているきらいはあるけど、けっして悪い内容ではない。生涯に亘り読書や文章を書くことに親しんだ人は、そうでない人に比べ高齢による認知機能の低下が遅いといった話も書かれていて、本好きの自分にはちょっと嬉しかったりもする(笑)。好奇心旺盛な人はいちど読んでみると良いのではないだろうか。自分のその好奇心がどこからくるのかよく解るから。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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