『量子力学の解釈問題』 コリン・ブルース 講談社ブルーバックス

 量子力学においては「粒子」と「波」という異なる状態の重ね合わせが前提とされており、どのようにして「波束の収束(*)」や「エンタングルメント(**)」という現象がおこるのか?について、過去から現在まで様々な解釈がなされてきた。1930年ごろに出された「コペンハーゲン解釈」というものが最も多くの研究者による合意を得ているとされてきたが、その後の研究を踏まえて現在もっとも“ホット”な話題である「多世界解釈」まで、オックスフォード大に籍を置く現役の研究者が書いた解説書である。
 「コペンハーゲン解釈」や「多世界解釈」などの用語が何の意味かが分かるくらいには、量子力学についてある程度の知識を持っている読者が前提であり、おそらく日本とイギリスでは常識の範囲が異なるのだろう、やたら初歩的なこととやたら不親切なところが混在していたが、これは翻訳ものの科学書ではある程度は致し方ないとおもう。
 具体的な解釈案の内容については専門的過ぎるので省略するが、どれも現時点では実験で確かめられない仮説に過ぎないため、極論すれば「信じる/信じない」の世界なのだということが本書を読んで良くわかった。まさに量子力学はクーンの『パラダイム転換』が現在進行形で進んでいる研究分野と言える。(もしかするとあと20年もしたら、全く新しい世界観が常識になっているのかも?) 今のところ、もっとも優勢なのは「多世界解釈」だが、その理由が、支持する研究者の数がもっとも多いからというのが笑える。ちなみに本書の著者も「多世界解釈」の積極的な支持者のひとりなので、そのつもりで読んだ方が内容を理解しやすい。

  *・・・このままではあまりに不親切なのですごく簡単に説明すると次のようなこと。
      光や電子のようにとても小さなモノは普段「波」のように振る舞っているが、
      人間が細かく観測しようとすると「粒子」のように振る舞うという現象。
      (まるで「観測されていること」を光や電子が知っているかのよう。)
      「素粒子は波と粒の両方の状態(性質)を持つ」と仮定して理論を構築したのが
      有名なハイゼンベルクの不確定性原理だが、おかげで「両方の性質をもつのは
      何故なのか?」という難問が残ってしまったというわけ。

 **・・・関係をつけた2つの素粒子は、どれだけ引き離しても片方の状態が確定した
      瞬間にもう片方の状態も確定するという現象。まるで光より早いスピードで
      情報の受け渡しが行われているかのよう。ふたつの素粒子の関係がもつれて
      しまっているので「量子もつれ」ともいう。

<追記>
 グレッグ・イーガンの『宇宙消失』(創元推理文庫)は、まさにこの「多世界解釈」をそのまんま使ったものだという事が今にして良く分かった。原著は1992年というかなり前の出版だから、これだけ正しく理解して物語に落し込んでいるというのは大したものだ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR