2016年3月の読了本

 年度末はとにかくせわしなくていけないね。4月は多少読めるようになるだろうか。

『邪馬台国はどこですか?』 鯨統一郎 創元推理文庫
 ミステリー岐阜読書会に参加するためにおよそ18年ぶりに再読。多作家の著者の文庫描き下ろしによるデビュー作で、人を食ったキャラクターと奇想天外な仮説が魅力のユーモア歴史考証ミステリ。記憶に違わずとても面白かった。奇想天外な結論と強引だが妙に納得してしまう論理が愉しい。(ミステリでなければトンデモ本の類いになってしまう内容ではあるが。/笑)最後に添えられた探偵役の宮田六郎による文章が、「信頼できない語り手」の枠構造を作り上げてミステリとしても上手く着地している(かな?)。さらりと読める良作。

『神の聖なる天使たち』 横山茂雄 研究社
 16世紀イギリスを代表する偉大な学者ジョン・ディーが晩年に没頭した精霊召喚と錬金術。死後の汚名の元となったその足跡を辿り、天界との交信記録『精霊日誌』を軸に召喚術の実態を克明につづった本。著者は稲生平太郎の名で『何かが空を飛んでいる』というオカルト研究本の傑作もだしているが、こちらは本業の英文学研究の一環として、2009年より国立情報学研究所から助成金をもらって行った研究成果を本にしたものだ。(といいつつしっかりオカルト系の内容なのだが。/笑)しかしあれほど優秀な頭脳の持ち主だったディー博士がケリーという人物に振り回され、最後は尾羽うち枯らして大陸から帰国ののち田舎の聖堂長として世間から忘れられたまま一生を終える姿が痛々しい。彼が没頭した精霊も錬金術も所詮は水晶球が魅せた一抹の夢に過ぎなかったのか......。ディー博士はケリーという詐欺師に騙されたのだと決めつけてしまいたいところだが、本書を読むとあながちそうとばかりは言い切れないところもあって面白い。精霊だか天使だか知らないがケリー自身が信じてる節もあるし、単純にディーを騙すだけにしては心血を注いであまりにも無駄な手間をかけているように思える。そしてそのあたりを、あえて結論をださずに宙ぶらりんのまま淡々と進むのがさすが横山茂雄氏だ。この手のネタの面白さをよく解っていらっしゃる。値段は張るが読み応えのある本だった。

『未来の回想』 シギズムンド・クルジジャノフスキイ 松籟社
 「時間切断機」の夢に取りつかれ、ロシア革命や共産主義の波に翻弄される天才研究者の人生を描く一風変わったタイムトラベル小説。時間理論はこれまで読んだことがないタイプのものだったが、意識の変容による時間移動というよく解らない奇想が面白い。訳者あとがきでボルヘス、カフカや筒井康隆、円城塔などが言及されているように、冷徹さと奇妙な読後感が同居する。ロシア・東欧系の作品はどれも作家自身の運命が作品に色濃く影を差しているようで、英米系の文学とは違う雰囲気にいったん慣れてしまうと結構やみつきになる。本書もカダレ『夢宮殿』にも共通するような独特の閉塞感が好い。

『トウガラシの世界史』 山本紀夫 中公新書
 食べものによる世界史のシリーズの一冊。辛いスパイスの代表格である唐辛子の分類や起源から、世界各地における受容と普及状況をざっくりと俯瞰している。とりあげられる地域は中南米から欧州、そしてアフリカを経て東南・南アジアと中国・韓国などの東アジアから最後は日本までとまさに世界を一周していて、世界に広がる唐辛子の文化が面白い。

『発達障害の素顔』 山口真美 講談社ブルーバックス
 心理学の立場から、自閉症スペクトラムやADHD、難読症(ディスクレジア)、ウィリアムズ症候群といった所謂「発達障害」について脳の発達と視覚形成によるアプローチを試み、感覚〜コミュニケーション〜社会性の各段階での発達の障害を解説した本。著者は発達障害を「視覚情報を処理して形の認識に関わる後部頭頂皮質へと伝える“背側経路”と、同じく動きの認識に関わる大脳基底の下部側頭皮質へと情報を伝える“腹側経路”という、脳の二つの部位に関する問題である」という仮説で理解しようとする。どの脳部位の障害が具体的にどのような症状となって現れるかを丁寧に説明しているので解りやすい。(ざっくりいうと空間認知や顔の認知、入力方法からノイズを取り除くフィルターの役目が重要ということか。)まだ研究途上の段階みたいだが、こういった色々なアプローチによって発達障害の仕組みが解き明かされて、対象者の方たちにとって社会的な適応がしやすくなると良いと思う。(ちなみに著者は自閉症スペクトラムの原因については、本書を読む限りではバロン=コーエンによる「システム化と共感」に関する仮説を有力視しているようだ。)

『なんらかの事情』 岸本佐知子 ちくま文庫
 翻訳家でもある著者の、極上の”変”な文章ばかりを集めた本。エッセイとも小説ともコントとも違う短文が愉しい。元版となる白水社uブックス版ももちろん持っているのだが、文庫化にあたり新たに未収録作が6篇追加されているのでやむを得ない。ページを開くと飛び込んでくる冒頭の「ダース・ベイダーも夜は寝るのだろうか」といった文章や、「油脂免職。それはどんなものか。たぶん、普通の免職つまりクビ、になんらかの油脂の要素が加えられたものだ」という文章を目にしては悶絶する。前作の『気になる部分』や『ねにもつタイプ』もボーナストラック付きとは知らなかったのでそのうち買ってこよう。

『スキャナーに生きがいはない』 コードウェイナー・スミス ハヤカワ文庫
 独特の味わいをもち一部のファンに熱烈な支持を受けているSF作家の、「人類補完機構シリーズ」に属する中短篇をほぼ作中の年代別に集めた作品の第一巻。これから順次発行されて全三巻になる予定とのこと。だいたい読んだものばかりだが、こうして読み返すとまた新鮮な気持ちで読めて愉しい。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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