『箱男』 安部公房 新潮社

 1メートル四方くらいの大きな段ボール箱に覗き穴をあけ、それを頭からかぶって路上で生活するという「箱男」。このアイデアを考え付いた段階で、この本はもう成功したようなものだったろう。安部公房の作品には魅力的なガジェットが数多く登場するが、この「箱」はその中でも一二を争う出来だと思う。
 「箱」には、見るものと見られるものの関係(視線の問題)や、街頭の景観と路上生活者の関係(存在感の問題)など、掘り下げが可能な様々なテーマが隠れていると思うが、なぜか物語は作者と作中人物というメタフィクショナルな展開へと進んでいく。メタフィクションというテーマ自体とても面白いものではあるが、何もこんなに良い材料があるのに「この本」でわざわざやらなくても...という気がしないでもない。(笑) 何だかもったいない気もするのだが、この掴みどころの無さがまた安部公房の魅力でもあるので致し方ない。
 カフカにも形容される不条理感が彼の作風の特徴だが、カフカの場合は不条理の対象があくまでも作中の世界感や人物に限定されたものであるのに対し、安部公房の場合は不条理の追求が作品構造そのものにまで及んでいるのが、もっとも大きな違いと言えるのではないだろうか。

<追記>
 今回は前に古本で買っておいた箱入りハードカバー(『純文学書き下ろし特別作品』)で読んだのだが、このシリーズは造本が凝っているので結構気に入っている。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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