2015年10月の読了本

 読書の秋なのでもっと本を読みたい。最近、腰を落ち着けてじっくり本を読む時間が減ってしまったのが残念。こんなことでは一生のうちにあと2000冊も読めないのではないか?ちょっと心配である。そして読書の“栄養バランス”をとるため、ノンフィクションの比率をもっと増やしたいなあ。

『不思議な羅針盤』 梨木香歩 新潮文庫
 ふと手に取った連作集『家守奇譚』が思いのほか面白かったので、新刊で出たばかりの同じ著者によるエッセイを読んでみた。日常で体験した何気ない出来事や、あるいは身近な生き物たちへの想いを語ったエッセイで小説と同様に品がいい。少しタイプは違うが、鴻巣友季子氏の文章にも通じる雰囲気を感じた。品性のある文章で綴られたエッセイはそれだけで読み手にとっての御馳走である。そして細部への目配りこそが日々を心豊かにするのだ。

『般ニャ心経』 リベラル社
 薬師寺の執事長である加藤朝胤氏・監修による般若心経の解説本。見開きの左ページには様々な猫のスナップ写真を配す。知り合いの編集者の方が担当したと聞いてずっと探していたのだが、やっと入手することができた。ごくごく平易な言葉で、経の文章が意味するところを順に説明していく。ふうむ、般若心経とはこういう意味だったのか。初めて知った。今度から法事の時が少し退屈でなくなるかも知れないね。

『回想の人類学』 山口昌男 晶文社
 一昨年に惜しくも他界した文化人類学の泰斗の回想録。山口氏の信頼厚い編集者の川村伸秀氏による聞き書きで、幼少の頃から1980年までのエピソードが克明に記されている。直接本人から託された当時の日記を元にインタビューしているから本人すら忘れていたような細かなエピソードまで拾えていて、結果とても貴重な記録となっている。(2008年に山口氏が脳梗塞で倒れたため、それ以降80年から先についてのインタビューが出来なかったのがとても残念。)久しぶりに全盛期の山口節が読めて嬉しかった。歯に衣着せぬ毒舌ぶりは相変わらずで、アフリカやパリ、スペインでの生活や旅の様子も楽しい。(なかでも生後3ヶ月の長男を連れてのアフリカ赴任の様子が滅法面白かった。ジュクン族への聞き取り調査の様子や瓢箪の装飾研究のきっかけなど、本人しか知らない話が満載となっている。まさか現地でチュツオーラの『やし酒飲み』の演劇を観ていたとは思わなかった。)また、氏の交友範囲の広さには改めて驚かされた。自分が知っているだけでも、U・エーコ、M・エリアーデ、バルガス・リョサ、O・パス、J・R・R・トールキン、ロジェ・カイヨワ、メアリー・ダグラス、T・A・シービオク、大江健三郎、多木浩二、寺山修司、村満徹などなど、まさしく綺羅星のような名前が並ぶ。(知らない名前はもっとわんさか出てくる。)本書は山口氏の半生記ではあるのだが、それはまた同時に日本における神話や道化や記号論の研究の歴史でもあったのだ。
 本書を読んでいるうちに昔のことが次々思い出されてきた。自分がアフリカやトリックスターへの興味を持ったのは、『アフリカの神話的世界』が最初だったのだな。懐かしい。

『夜な夜な天使は舞い降りる』 パヴェル・ブリッチ 東宣出版
 本書の存在は実はまったく知らなかったのだが、9月に開催されたシンポジウムの席で翻訳家の大野典宏氏に紹介頂いて読んでみた。(というか、叢書まるごと買い込んでしまった。)子供向けの「はじめて出逢う世界のおはなし」というシリーズの一冊なのだが、大人が読んでも充分愉しい。プラハの教会に夜な夜な集まる守護天使たちがミサ用のワインを傾けながら語り合う不思議な十七の物語は、奇想天外なものからこころ温まるものまでさまざまだが、いずれにも共通するのは彼らが守護する人々への愛。読み終わってしみじみとする一冊だった。これも「ファンタスチカ」というものなのか。

『ゲルマニア』 ハラルト・ギルバース 集英社文庫
 ナチス占領下のベルリンを舞台にした猟奇殺人ミステリ。捜査を命じられるのが元殺人課刑事のユダヤ人というのが斬新。読書会の課題本でなければきっと手に取ることは無かったと思うが、読んでみてよかった。

『東欧怪談集』 沼野充義編 河出文庫
 「東欧的渾沌」に満ち溢れた、優れたファンタスチカ集。怪談といいつつ幻想色の強い作品も多く収録されていて、このあたりが如何にも“東欧風”と言えるかも。まさに集大成とでもいうべき内容で、取り上げられている作家もチャペックにエリアーデといった有名どころから全く聞いたことが無い作家までさまざま。収録作も、夢とも現実ともつかない奇妙な作品から、まさに怪奇と呼ぶに相応しい作品まで幅広く収録されている。どれも好かったのだが、特に気に入ったのは次に挙げるあたりだろうか。
 まずはポトツキの有名作「サラゴサ手稿 第五十三日」。(それにしても完全版はいったいいつ刊行されるのだろう。)そして『動きの悪魔』が出たばかりのグラビンスキによる「シャモタ氏の恋人」。ファム・ファタルか魔女か甦る死者か、なにかよく分からないけどそんな話だ。レシェク・コワコフスキ「こぶ」はとても変な話。変な話は好きだ。他にはフリジェシュ「ドーディ」、ミハエスク「夢」あたりも好い。いやこれはお買い得な一冊だった。

『第三の魔弾』 レオ・ペルッツ 白水uブックス
 長らく復刊が待ち望まれていた幻想歴史小説の幻の一冊。このたび目出度くも「永遠の本棚」のシリーズに収録された。スペイン人による新大陸侵略とカトリック対プロテスタントの対立の時代を背景にして、片目の男が辿る数奇な運命を語った著者の第一長篇で、現実の歴史と虚構を練り合わせる腕は流石。物語はその後の著作に比べれば直線的で、著者の他の作品に比べて構成の甘さが指摘されたりもしていたが、なかなかどうして。第一の魔弾が放たれるくだりなど、ぞくぞくするほど面白い。技巧的に凝っていない分だけ却って筋を追いやすいともいえるかも知れない。それにしても彼の小説は「運命」や「宿命」という言葉がよく似合うね。読んでいる間中、なぜか『幻燈辻馬車』や『どろろ』が思い出されてならなかった。

『死者の花嫁』 佐藤弘夫 幻戯書房
 古代から中世を経て近世へと至る、日本人の死生観を探った本。葬送儀礼や遺構、あるいは文芸作品の背景となる社会意識を読み解くことでで、柳田民俗学によって定説となっている日本人の死生観を覆す。大変に刺激的で面白い。また後半には、伝統的な家制度の崩壊によって現在に現れつつある新たな死生観の萌芽も示される。

『スティーヴンソン怪奇短篇集』 福武文庫
 『宝島』や『ジーキル博士とハイド氏』で有名なロバート・ルイス・スティーヴンソンの数多い作品の中から、幻想怪奇の味が強い作品ばかりをセレクトした短篇集。予想をはるかに上回る出来の作品ばかりで、予想以上に良かった。南洋の島々を舞台にした「びんの小鬼」や「声の島」は神話の薫りもして限りなく愉しい。また「ねじけジャネット」「トッド・ラブレイクの話」は呪われた人々の描写がかなり怖い。以前読んだ『新アラビア夜話』といい、この作家、なかなか侮れない。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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