2015年7月の読了本

 今月はイベントが2つあったのでいつもよりさらに本が読めず。もうちょっと頑張らねば。

『街角の書店』 中村融/編 創元推理文庫
 翻訳家の中村融氏によるオリジナルアンンソロジー。中村氏のアンソロジーはどれも面白くて好きだ。今回は副題に「18の奇妙な物語」とあるとおり、いわゆる“奇妙な味”の短篇を集めた作品集になっている。
名アンソロジストによる奇妙な味の短篇集。味付けはどちらかというとSF寄りで且つすこし残酷。何とも意地が悪くて気味の悪いものも中にはある。読んでいるうち、ブラウンやシェクリイにどっぷり浸かった中高生の頃を思い出した。なお収録作は次の通り。
 「肥満翼賛クラブ」ジョン・アンソニー・ウェスト
 「ディケンズを愛した男」イーヴリン・ウォー
 「お告げ」シャーリイ・ジャクスン
 「アルフレッドの方舟」ジャック・ヴァンス
 「おもちゃ」ハーヴィー・ジェイコブズ
 「赤い心臓と青い薔薇」ミルドレッド・クリンガーマン
 「姉の夫」ロナルド・ダンカン
 「遭遇」ケイト・ウィルヘルム
 「ナックルズ」カート・クラーク
 「試金石」テリー・カー
 「お隣の男の子」チャド・オリヴァー
 「古屋敷」フレドリック・ブラウン
 「M街七番地の出来事」ジョン・スタインベック
 「ボルジアの手」ロジャー・ゼラズニイ
 「アダムズ氏の邪悪の園」フリッツ・ライバー
 「大瀑布」ハリー・ハリスン
 「旅の途中で」ブリット・シュヴァイツァー
 「街角の書店」ネルスン・ボンド
 有名作家から知る人ぞ知る作家までバラエティに富んでいるが、自分の好みからすると中でも「アルフレッドの方舟」「遭遇」「ナックルズ」「古屋敷」「ボルジアの手」あたりだろうか。

『ビットとデシベル』 フラワーしげる 書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)
 翻訳家や作家や音楽など多方面で活躍する西崎憲氏が、「フラワーしげる」の雅号(この場合は雅号でいいのかな?)で発表した短歌集。短歌といっても五・七・五・七・七で詠む定型ではなく、たとえば尾崎放哉や種田山頭火のような自由律短歌でとても面白い。濃密な内容からすると、あるいはJ・G・バラードの濃縮小説のような感じといっても良いかもしれない。短歌がこんなに自由なものとは知らなかった。同じ著者による短篇集『飛行士と東京の雨の森』にも繋がる良質で密度が高い異界が広がっている。
 たとえばこんなもの。
 「むかしより小さくみえるな 子供のころこのへんに住んでいたんですか いや」
 あるいはこういうのも。
 「かならず来いと死が遠くからさけびかならず行くとさけびかえす夜かな」
好きな歌は人によって全然違うだろうし、読めば心ざわついて仕方ない人もいるかも知れない。異化とか脱臼とか不穏とかそういうもの。笑いと辛さと、ちょっと不気味さもある。気に入った歌を書き出して眺めては悦に入っているのが愉しい。

『月世界小説』 牧野修 ハヤカワ文庫
 言語と物語と神をテーマにした、そしてどこか懐かしい感じもする小説。帯にも『神狩り』(山田正紀著)へのオマージュであると書かれているし、解説を山田正紀氏自身が書いているところからしても、まさに70年代日本SFの正統的な後継といえそう。古代英雄神話から聖書まで貪欲に取り込んで、最後は「新世紀エヴァンゲリオン」を経て永井豪「デビルマン」から「手天童子」へと着地するという、サービス精神にあふれた展開。もしくは「サピア・ウォーフ仮説」に松岡正剛の”日本という方法”をくっつけて『マインド・イーター』をやっているといってもいい。しかもそれだけではなく、当時世間を震撼させた時限爆弾のテキスト「腹腹時計」を模した冊子「ハラハララジヲ」や、あるいは「ブント」ならぬ「ブンド」など、全共闘時代を彷彿とさせる言葉をわざと頻出させるという凝りよう。テーマも作風もまさしく懐かしいつくりなのだが、それなのにどことなく「ラノベっぽい」感じがするのは、第一世代の日本SF作家が開拓してきた水脈が、おそらくその後の漫画やアニメやライトノベルの根柢に流れているからなのかもしれない。その一方では、主人公がLGBTだったりするのがいかにも現代風で面白い。エンタメ小説の冒頭にプライド・パレードが登場する時代なのだ。YOUCHAN氏による装画も格好良くて、自分好みの作品だった。

『華氏451度』 レイ・ブラッドベリ ハヤカワ文庫
 読書会のために数十年ぶりに再読した。(正確には伊藤典夫氏による新訳で読み直した。)ところが自分の記憶にある話と全然違う。3分の2ぐらい読んでも「あれ、こんなだったっけ?」という感じ。とんと記憶にないシーンが続く。自分はいったいぜんたい昔何を読んだのだろうと思いながら読んでいくと、残り40ページ(=全体の約7分の1)ほどになっていきなり懐かしいシーンが出てきた。そして脳内イメージがそれまでのモノトーンから一気に総天然色へと変わる。結局のところ、この場面が余りに印象強過ぎて他を忘れていたようだ(笑)。「書物を読むことが禁じられた未来世界で、秘かに隠し持つ人々とそれを燃やす“昇火士”の主人公の苦悩」といった簡単な設定紹介ではとても語りつくせない、長所も短所も兼ね備えたまさに読書会向けの作品いえるかもしれない。

『西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン』 ロベール・ド・ボロン 講談社学術文庫
 5世紀頃のブリタニアを舞台に、パンドラゴンとユテルという兄弟王に親しく仕え数々の予言と奇跡を見せたマーリンの生涯を、アーサー王の誕生まで綴った本。後の世に書かれた円卓の騎士や聖杯伝説を題材にした全ての物語のもとになった作品らしい。なんせ13世紀前半に書かれた古い物語なので翻訳はさぞかし大変だったと思うが、平易な日本語に直してありとても読みやすい。ただ、自分はキリスト教の教義にも詳しくないし面白がって読んでいるだけだが、本書が書かれた当時はまだローマカトリックの権威も確立していなかったはずで、ひとつ間違えると異端とされるおそれはなかったかなど、学術的な面を考え出すときっと色々と深い話なのだろう。

『モンテ・クリスト伯(四・五)』
 久しぶりに続きを読んだ。全7巻のうち今月は後半の2冊。エドモン・ダンテスが着々と進めてきた準備が完了し、いよいよ復讐の幕が上がる―― とおもったら、悪人の子息が善人だったり伯爵がそれを助けたりして展開が目まぐるしい。登場人物たちがそれぞれの思惑で行動して予想もしない展開になっていき、横道に逸れながらもページをめくる手を止めさせないのはさすが。いかにも大衆文学の王道といった印象。白井喬二著『富士に立つ影』はもしかしてデュマの影響を受けてるのかな?とも思った。
脳梗塞で半身不随になったノワルティエ老人の描写が「すでに四分の三は墓にはいりかけているこの生ける屍にとって」と酷かったり、モンテ・クリスト伯とモルセール夫人の邂逅が切なかったりして、はらはらどきどきとしながら次の巻へと続く……。

『寄港地のない船』 ブライアン・W・オールディス 竹書房文庫
 オールドSFファンには懐かしいビッグネームが1958年に発表した第一長篇が、まさか今になって新刊で出るとは思わなかった。さっそく読んでみたところ、これはまた懐かしい味わい。ハインライン『宇宙の孤児』と同じ「世代宇宙船」というアイデアを使った作品だが、さすがはオールディスひとひねりもふたひねりもしてある。二転三転するストーリーはどことなくJ・ヴァンス『ノパルガース』も思わせるとか色々書きたいことは有るけど、まあ要するに自分が中高生の頃に夢中になった50年代の名作SF群のひとつということだね。愉しかった。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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