『憲法九条を世界遺産に』 太田光・中沢新一 光文社新書

 中沢新一はサービス精神が旺盛なので、対談の相手によって話しぶりが全く変わってしまう。リップサービスのあまりつい口が滑って、後で問題になる発言をしてしまうこともあるので、この対談集は爆笑問題の太田が相手と知って正直なところ心配もあった。テーマが憲法九条だし。
 でもまあ、さらりと読める軽い話で、さほど心配するようなこともなかった。1時間半もあれば読めてしまうのに660円もするのでコストパフォーマンスは極めて悪いけど。(笑)
 
 ただし中でも第1章の宮沢賢治のくだりはとても重要。
 戦前の日蓮宗系の右派であった国柱会と宮沢賢治の関係を通じて、国粋主義から戦後平和憲法へのつながりを示した指摘は斬新だった。国柱会の創始者、田中智学の思想との関係を外しては、宮沢賢治のホントは理解できない。「八紘一宇」とかのキナ臭いキーワードと「雨ニモマケズ」の自己犠牲が全くの同次元で両立しているのが宮沢賢治であり、単なる童話作家として見ているとラジカルな闇の部分は見えてこない。

 ここからは憲法九条ではなくて宮沢賢治の話をする事にする。そっちのほうが面白い。(笑)
宮沢賢治は出来ればいきなり長篇からではなく、まずは彼の思想がストレートに表れている短篇をある程度読みこむ方が、何故宮沢賢治がこれほど評価されるのかが分かりやすいのではないかと思う。昔、「『銀河鉄道の夜』を読んでみたけれど、何を言いたいのかどうもよく分からない」と言った人が会社にいたが、この作品はは作風が(一見)キリスト教の装いをしているなど色々な要素が入り混じっていて、特に“難しい”作品なので、つかみどころが無くても仕方が無い。
 自分の思うところでは、宮沢賢治の童話はおおよそ3つの系統に分けられる。まず1つめは「注文の多い料理店」「どんぐりと山猫」「雪渡り」「風の又三郎」など一般的な物語で、純粋に子供を楽しませるのを目的に書かれたもの(だと思う)。これを仮にグループ①としておく。残りは賢治の思想が良く表現された作品群で、「グスコーブドリの伝記」「よだかの星」「猫の事務所」などのグループ②と、「オッベルと象」「氷河鼠の毛皮」「セロひきのゴーシュ」などのグループ③に分かれる。
 グループ②は花巻農学校の教師を経て羅須地人協会の設立へと至る賢治自身の実体験とも重なっていて、法華経の教えに基づく献身や自己犠牲が童話へと昇華されたとおぼしい。グループ③は「自然との共生」に関するもので、マルセル・モースが『贈与論』で、そして中沢新一が『<カイエ・ソバージュⅡ>熊から王へ』で展開して見せた内容に(ほぼ)等しい。
 グループ②③とも、根っこの部分は「法華経(日蓮宗)の教えに基づいた生命賛歌」と「裕福な家に生れついた事への贖罪感」につながっているとみた。そこに『春と修羅』に代表される詩人の感性と情熱、そしてオノマトペを駆使する独特の言語感覚を加えると、宮沢賢治の全体像が見えてくると思う。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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