2015年6月の読了本

『ソラリス』 スタニスワフ・レム ハヤカワ文庫
 ポーランドの国民的作家スタニスワフ・レムの代表作を、ポーランド語の原典から沼野充義氏が改めて訳し直した決定版。元は国書刊行会からレム・コレクションの一冊として刊行されたものだが、このたびハヤカワ文庫SFの2000番達成記念として装いも新たにお目見えした。同文庫には飯田規和氏の訳による『ソラリスの陽のもとに』という題名で既にあるが、こちらはロシア語からの重訳でいくらか省略された箇所もあり印象も若干違う。両者を読み比べるのもまた面白い。

『明日のプランニング』 佐藤尚之 講談社現代新書
 著者は“さとなお”のハンドルネームで早くからネットに自分のホームページを開設し、そこに公開された食べ物エッセイが書籍化されたりもしている人物。こちらは本業のマーケティングや広告プランニングに関するビジネス書だ。語り口は軽めで親しみやすいが、内容は結構斬新で面白い。従来のようなマスコミを通じた広告宣伝が通用しなくなってきた今を分析し、ネットと口コミを通じた新しいマーケティングの方向性を探っている。

『シャイニング(上/下)』 スティーヴン・キング 文春文庫
 モダン・ホラーの巨匠の初期を代表する長篇作品。一般的にはスタンリー・キューブリックの手による映画の印象が強いが(なんせ主演のジャック・ニコルソンの顔が怖い/笑)、原作は正統的なお化け屋敷ものであり、雪に閉ざされたシーズンオフのリゾートホテルを舞台に、“シャイニング/かがやき”を持つ5歳の少年とホテルに巣食う悪霊たちが対決する。現代社会がもつ病理、そして家族を巡る苦悩とその克服も描かれ、単に怖いだけでなく深い奥行きを持った作品に仕上がっている。つい最近、数十年ぶりに続篇となる『ドクター・スリープ』が刊行された。

『短篇ベスト10』 スタニスワフ・レム 国書刊行会
 このところSF界隈がレムづいている。本書は長らくストップしていたレム・コレクション叢書(全6巻)の第5弾で、前作『大失敗』から8年を経てようやく刊行された。内容は題名の通りの短篇集で、本国で読者投票と著者自身によって選ばれた10作品が、(『ソラリス』と同様に)ポーランド語からの原典から訳されたもの。バラエティに富んだ物語集になっていて、長篇より更に濃縮されたアイデアの塊を時間をかけて咀嚼すると、色とりどりの豊穣な世界に圧倒される。哲学的なアイデアをユーモアの衣で味付けしたり幻想的だったりと、レムのまた違った一面が見られて面白い。今では入手困難な『宇宙創世記ロボットの旅』や『ロボット物語』といった連作集から取られた作品や、雑誌に一度掲載されただけの作品もあるのでファンなら買って損はないだろう。個人的には読者の想像力の限界を試すような珍妙かつ哲学的な「航星日記・第二十一回の旅」「洗濯機の悲劇」や、宇宙を舞台にした暗いトーンの「テルミヌス」あたりが特に好かった。

『迷う門には福来る』 ひさだかおり 本の雑誌社
  「方向音痴エッセイ」あるいは「迷子エッセイ」という新しいジャンルを確立した爆笑本で、“WEB本の雑誌”連作したものに加筆修正と描き下ろしを加えたもの。著者は名古屋在住の書店員さん。わが家の近所にある行きつけの書店に大量に積まれていたのが目に留まり読み始めたのだが、実はご本人が働いているのがその店だったことがあとから判明した。ツイッターで早速お知り合いになったりと、一冊で何度も愉しい本だった。縁というのはあるものだなあ。

『吾輩は猫画家である ルイス・ウェイン伝』 南條竹則 集英社新書ビジュアル版
 20世紀初頭にイギリスで活躍したイラストレーターの伝記。この人のことは知らなかったのだが、本を書いたのが怪奇文学の翻訳も手がけるお気に入りの作家さんということで、面白くない訳がないと即買いした。ウェインは猫を擬人化したユーモアあふれる絵で一世を風靡したとのことで、本書にも当時の本の挿絵や絵葉書がたくさん載っていて愉しい。ちなみに夏目漱石の『吾輩は猫である』の文中でもそれらしき絵が言及されていて、本書では絵葉書収集家の林丈二氏が苦労のうえ特定した(!)元の絵も紹介されている。私生活はあまり恵まれなかったようで、晩年には精神病を患い入院したが、その時彼が描いた「万華鏡猫」と呼ばれる作品群は統合失調症の患者の絵として有名だ。(これは自分も見たことがあった。)自分はどちらかといえば犬派なのだが本書はイラストともども愉しく読めた。猫好きな人にはかなりお薦めかもしれない。

『本屋になりたい』 宇田智子 ちくまプリマー新書
 著者はかつて大手新刊書店に勤め、沖縄店への転勤を機に現地で古本屋へと転職した人物。「那覇市の公設市場近くの小さな古本屋」として人々に本を届ける仕事を通じ、「本を読む」という行為についても色々と考えさせられる。古本屋としての生業の部分は割と入門的な記述が多いのだけど、「沖縄に関する書籍に特化した店」とした関係で、例えば県産本が多いことなど沖縄独特の市況が垣間見られて興味深い。イラストを漫画家の高野文子氏が描いているのも評価が高いぞ。(笑)

『僕僕先生 鋼の魂』 仁木英之 新潮文庫
 中国を舞台にしたファンタジー小説『僕僕先生シリーズ」の第6弾。仙人の僕僕先生にその愛弟子の王弁、さらには薄妃、劉欣といったお馴染みの一行はもちろんだが、今回はそれに加えて秘密結社「胡蝶」の“捜宝人”であるニヒルな宋格之とそのパートナー紫蘭がゲストとして参加している。のほほんとした王弁と先生との掛け合いと、厳しい境遇を生き抜く人々のドラマの対比が相変わらず巧い。続けて読んでいるシリーズは今では殆どないのだが、本書は書店で見かけるたびについつい買ってしまう数少ない作品だ。

『猫町 他十七篇』 萩原朔太郎 岩波文庫
 散文詩または小文からなる短篇集。著者の他の作品は読んだことが無いのだが、本書の収録作に限って言えば割とおとなしめで小ぶりな印象。でもその中で表題作だけは幻想味が際立っていて大変気に入っている。「磁石の方角を直覚する感官機能に、何らかの著るしい欠陥をもった人間である」ところの作者が、いつもの道から一歩外れただけで見当識を失った結果、見慣れた町が一瞬で見知らぬ風景へと変貌をとげる様子がいい。(ただし先に読んだ本の印象があまりに強かったせいで、読んでいる間中“これは萩原朔太郎版の『迷う門には福来る』ではないか?”という声が脳裏に浮かんでいた。/笑)他には「ウォーソン夫人の黒猫」「貸家札」あたりが個人的には好み。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR