第2回名古屋SF読書会レポート(課題本『虎よ、虎よ!』)

 昨年に開催した第1回読書会(課題図書はアーシュラ・K・ル・グィン『闇の左手』)に引き続き、第2回目を無事に先日開催することが出来た。今回の課題図書は前回と同じく過去の名作シリーズで、アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』。
昨年2月に翻訳ミステリー大賞シンジケートが主催する読書会に初めて参加して、あまりの面白さに病み付きになってしまい、有志で第1回を開催したのが昨年11月22日のこと。その他、名古屋SFシンポジウムなどのイベントが開催されたりと、名古屋のSFシーンが活気づいたのもきっかけのひとつだが、要は好きな本について話をする場がもっと欲しかったのだ。(笑)
 なにしろ最初は何しろ手さぐり状態。参加人数の予測も出来ず、ふたを開けてみれば応募者が多くてひとつのテーブルに19人がぎゅうぎゅう詰めとなってしまった。それでも参加者の皆さんのご協力により結構充実した読書会になったと思うが、事務方としては反省しきりだった。(ひとつのテーブルで大人数だと、ひとりあたりの発言数が減ってしまうし、詳しい人と初めての人が同じテーブルなので進行に気を遣う。あまりマニアックなところに入り込むと初めての人を置いてけぼりにしてしまうし、かと言って深い話にならないと熱心なファンの人には不満が残るだろうし......。参加者の皆さんの幅広い意見を充分に披露して頂くには、本当はひとテーブル10人程度が理想なのだ。)
 今回はそれらの反省を踏まえ、なおかつ前回参加者を募ったときの反応の早さも考慮して、思い切って人数を前回の2倍近い30人に増やしたうえで複数のテーブルを準備できる会場を取ることにした。(*)
 結果的には有り難いことに東京や茨城、静岡といった遠方からも(わざわざ宿泊までして)参加いただいた方もいて、とても活気ある読書会になったのではないかと思う。これも積極的に愉しもうという姿勢の参加者の皆さんのご協力と、当日のボランティアスタッフを快くかっていただいた皆さんのおかげであり、この場を借りて深く御礼申し上げます。

   *…最終的には29名の参加者にメインスタッフ3名を加えた32名での実施となった。

 さて、それでは当日の内容についてご報告をば。
 進め方はミステリー読書会の方式をそのまま踏襲して、前半は3つの班に分かれてのグループ討議。司会はスタッフの三人がそれぞれ受け持ち、板書をボランティアスタッフの方にお願いする。グループ分けは事前にお願いしていたアンケートの、皆さんの読書傾向や読書会参加経験などを参考に決めたもの。SF好きの人や読書会初参加の人、本は好きだがSFを殆ど読んだことがない人など、色々なプロフィールの方のバランスを考えながら割り振る。大まかには「SFについて語りたくて仕方ない人たち」「海外SFをこれまで殆ど読んでいない人たち」「読書会に参加するのが初めての人たち」といった感じ。(それぞれのグループは司会係の名前の頭文字をとってW班/N班/H班と呼ぶことにした。ちなみに当ブログの管理人はH班であり、以下の記載はH班の内容を中心にすることになるので悪しからず。)

 H班は“読書会に出たことが無い”で括ったので、メンバー11名の内訳が比較的バラエティに富んでいた。海外SFは読まずとも日本SFは割と読んでいる人や、映画にとても詳しい人、ミステリー読書会からの参加者、SFそのものを読んだことが無い人や逆に海外SF大好きな人など様々。まずは初対面同士のアイスブレイクを図るため、ネームプレートを周囲に見せながらの自己紹介と課題本の簡単な感想を述べていくことにした。
 そうしたら、「物語に共感できるところが全くない」「話の展開が飛び過ぎてついていけない」といった否定的なものから、「最高に面白い」「ジョウントがかっこいい」などの肯定的なものまで千差万別な意見がいきなり飛び出してきた。色んな意見が出る方が読書会としては愉しくなるので、とてもいい感じだ。ひと通り感想を述べたところで適当に話を振りながら意見を述べてもらうフリーディスカッションへと移るが、のっけから次々と積極的に発言する人が多かったので、司会としては大変助かった(笑)。出た意見を順不同で幾つか挙げてみよう。

<登場するキャラについて>
 「主人公への印象は最初は酷かったが、後からどんどん向上した「女性の扱いが酷いが発表年代(1956年)を考えるとまあこんなものかも」「とんでもない状況に巻き込まれる主人公なのに、逆に周囲を翻弄している」
<物語の解釈>
 「多様な読み方が出来る」「悪漢小説としても教養小説としても読める」「最後は『2001年宇宙の旅』で有名になったニーチェの超人思想まで行きつく」「ジョウントは信仰である」「宗教小説としても読める。例えば科学人のリーダージョセフはイエス・キリストの父親と同じ名前。最初は水の洗礼で後から火の洗礼を受ける救世主としてのフォイル」「青ジョウントには何のイメージを投影?」「顔に施される刺青はどんな意味?(聖痕?)」「歌舞伎の隈取りと同じか?」「主人公の女性への扱いは当時流行したハメットやミッキー・スピレーンなどSEX&VIOLENCEの影響か?」
<作品への印象>
 「SF的なガジェット(小道具)がとにかく沢山でてきて賑やか」「タイポグラフィの処理がとても面白かった原書でどんなふうだか見てみたい」「ミステリーとして見た時には最後まで物語の設定が隠されていてびっくり」
<他作品への言及>
 「昔、巌窟王がアニメ化されたが、元々『虎よ、虎よ!』をアニメ化したかったのが出来なかったためである」「『サイボーグ009』や『AKIRA』にも使われたアイデアの源流」「身体的な欠陥をもつ超能力者は『地球へ...』『人間以上』などにも出てきた」「ワイドスクリーン・バロックというSFジャンルの嚆矢とされている作品」
などなど……。都合1時間半近くのディスカッションで、細かく挙げだすときりがないのでこれくらいにしておこう。(面白いかどうかは別にして作品としての好きか嫌いを挙手で訊いてみたところ、好き=6名/好きじゃな=5名という結果だった。)

 活発な意見交換により、ひとりでは思いもつかなかったような解釈が披露されるのが読書会の醍醐味。そのたびにグループの中から「おおー」という声が出る。板書係の人は気になる意見を書き留めていくのだが、どれも鋭い意見なので大忙しだ。その結果、最初は「何が何だか解らなかった」という感想を述べていた方も、この作品がオールタイムベストSFの上位にいつも選ばれている理由については、それなりに納得されたようだった。
 そしてあっという間の1時間半が過ぎたところで一旦グループディスカッションを止め、「本書の次に読むのにお薦めの本」を10分程度出し合うこととし、大方の意見が出そろったところでちょうど前半終了なった。
 
 これまでのところは(鋭くも活発な意見交換ができたにせよ)普通の読書会とそう変わらない。ミステリー読書会方式の真骨頂はむしろこれからである。10分間のトイレ休憩の間に車座にしてあった机を全て退かし、一面に各班のホワイトボードを横一列に並び直した上で、ホワイトボードが見える位置に椅子を置いて全員が真っ直ぐに座る。そしてそれらのホワイトボードを見ながら、各班の司会者が前半に出た意見を他の班の人たちに紹介していくわけだが、まさに板書の係の記録センスと司会者のプレゼン技術が問われるところではある。(笑)
 他のグループの意見で自分の印象に残ったものとしては、たとえば次のようなものがあった。
 「ニューヨークが核爆発にさらされる恐怖が物語の原イメージにあるのではないか。そしてパイアは核爆弾の暗示」「歪な上流社会やスパイ小説的な雰囲気はディレイニーらに影響を与えている」「突き詰めると盲目のオリヴィアと主人公フォイルの相克の物語である(オリヴィア=熱力学的視点/フォイル=古典力学的視点)」「冒頭のナレーション風記述はディケンズ『二都物語』が元ネタ」「超能力(という胡散臭いアイデア)に時代性を感じる」「ダーゲンハムは(アメコミの『ウォッチメン』に出てくる)Dr.マンハッタンぽい」「フォイルが何度も死と再生を繰り返す」「ガジェットやキャラがとても漫画的」「映画にしたら面白そう」「出てくる女性は全て(やんちゃな子供である)フォイルに対する母親の位置づけ」etc.
 ホワイドボードに書かれた言葉に対する質疑応答も行うので、中には「ロビンを裸にしてない」なんていう記載について「どういう意味?」といった質問も(**)。会場は参加者全員による熱気あふれる意見交換の場となった。

  **…訳書には“ベッドに放り出して裸にした”とあるが、原書にあたってみたら
       ベッドに放り出すだけで裸に剥くという記述はないそうだ。訳者の筆が
       走り過ぎたか?(笑)
 
 いよいよ時間も最後に近づいたので、「(本書の)次に読むならこんな本」を紹介することに。出たものをざっと列記してみる。
 『モンテ・クリスト伯』デュマ
 『分解された男』『願い星、叶い星』ベスター
 『≪魔王子≫シリーズ』ヴァンス
 『ねじまき少女』バチガルビ
 『バベル-17』『ノヴァ』『エンパイア・スター』『時は準宝石の螺旋のように』ディレイニー
 『カエアンの聖衣』『禅銃(ゼンガン)』『シティ5からの脱出』『永劫回帰』ベイリー
 『スキズマトリックス』スターリング
 『ニューロマンサー』ギブスン
 『幼年期の終わり』『2001年宇宙の旅』クラーク
 『宇宙船ビーグル号』ヴォクト
 『人間以上』スタージョン
 『ハイペリオン』シモンズ
 「苦痛思考」ティプトリー(『故郷から10000光年』所載)
 『夜の写本師』乾石智子
 『屍鬼』小野不由美
 『サラマンダー殲滅』梶尾真治
 『マルドゥック・スクランブル』冲方丁
 『紫色のクオリア』うえお久光
 『スターレッド』萩尾望都
 『スカルマン』石ノ森章太郎
 『コズミックゲーム』聖悠紀
 『エスパー魔美』藤子・F・不二雄
 『手天童子』永井豪
 「ジャンパー」(映画)
 「LOOPER/ルーパー」(映画)
 「ナイフ」(芝居)
 『カミングス詩集』
 よく似たジャンルの作品から『虎よ、虎よ!』へのオマージュ、もしくはテーマが関連しているものなど内容はディスカッションの時と同様に多岐に亘っていて、まさに読書会の面白さを凝縮したようなリストになっていた。会場ではホワイトボードを写真にとったり携帯電話にメモをする人の姿も見受けられた。

 というわけで、14:00から16:45まで、途中10分の休憩を入れて2時間半あまりがあっという間に過ぎ去って、次回の課題本を多数決で決めてお開きとすることに。結果、複数の候補のなかから圧倒的多数で『華氏451度』(レイ・ブラッドベリ)に決定となり、第2回名古屋SF読書会は終了した。
 およそ4分の3の参加者がそのまま二次会へと突入し、かくして名古屋のSFの夜はさらに熱く更けていったのだが、その話はまた別の機会に譲ることにしよう。

<追記>
 最後になりましたが、当日を愉しく盛り上げてくださった参加者の皆さん、とりわけ早速ブログにレポートを挙げてくださったO_bakeさん、SFコミュニケーション研究会の皆さん、青の零号さん、放克軒(さあのうず)さん、どうもありがとうございました。また当日のボランティアスタッフを快く引き受けてくださったelekingさん、おもちΩさん、ゲルンさん、お陰様で大変うまくいきました。ありがとうございました。(elekingさんには二次会の幹事まで引き受けていただき誠に感謝する次第であります。)皆さんにはこの場を借りて読書会スタッフからお礼を申し上げます。それでは次回、第3回の読書会でお会いしましょう。

※次回は下記の内容で決定です。近くなりましたらツイッター等を通じて告知します。
  日 時 :7月26日(日) 14:00~16:45
  場 所 :名古屋駅前
  課題本:レイ・ブラッドベリ『華氏451度』(ハヤカワ文庫など)


<追記2>
今回の読書会の記事をアップして頂いた皆さんのブログです。
O_bakeと読書とひとりごと
 本と音楽をこよなく愛するO_bakeさんのブログです。

SFコミュニケーション研究会活動記
 SFインターメディアフェスティバルを主催したSFコミュ研の皆さんによるブログです。

Biting Angle
 G・ウルフとR・A・ラファティが大好きな、青の零号さんのブログです。

異色もん。
 青の零号さんと同じく関東から駆けつけてくださった放克軒(さあのうず)さんのブログです。
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