2015年2月の読了本

※今月からフォーマットを少し変えてみました。

『妄想科学小説』 赤瀬川源平 河出書房新社
 70年代後半、芸術家・赤瀬川原平から小説家・尾辻克彦が誕生する時期に発表された、未発表作品の初単行本化。ショートショートと随筆からなるが、摩訶不思議な皮膚感覚と文学性は既に顕在化している。好きな人には堪らないだろう。ただし中に一つ痴漢被害をネタにした話があり、女性が読んだらとても不快になるのではないだろうか。発表が1970年代後半だから仕方ないとはいえ、このあたりに時代を感じてしまう。筒井康隆の「農協月へ行く」や「懲戒の部屋」などとセットで読むと、当時の雰囲気が判っていいかも知れない。

『ちょっとピンぼけ』 ロバート・キャパ 文春文庫
 世界的な報道写真家による第2次世界大戦への従軍の記録。歴史的なエピソードが、淡々とした口調で語られ、実際の戦争は殆どが移動と待機とそしてときどきの戦闘であることがよくわかる。(開高健『ベトナム戦記』と同じ。)戦争を始めるのは狂気だが、それを続けるのは理性なのだ。スタインベックやヘミングウェイが顔を出すのがおまけのようでちょっと嬉しい。

『グリーン・マイル 1~6』 スティーヴン・キング 新潮文庫
 モダン・ホラーの巨匠キングが、「毎月1冊、6か月連続で刊行」という変わった形式で発表して話題を呼んだ作品。小学館文庫から上下巻の形で先ごろ復刊されたが、せっかくなのでオリジナルの方で読んでみた。1930年代のアメリカを舞台に、死刑囚を収監した刑務所で起こった不思議な出来事を描いた物語で、看守が老年になって書いた回想記というスタイルも好い。副題は一巻から順に「ふたりの少女の氏」「死刑囚と鼠」「コーフィの手」「ドラクロアの悲惨な死」「夜の果てへの旅」「闇の彼方へ」。
 一時期は出る作品すべてを読んでいたキングだが、実は書き込み過ぎとも思える作風が若干鼻につくようになり、『ダークタワー』の途中で挫折してからはしばらく遠ざかっていた。しかしこれは良かった。個人的には『呪われた町』『IT』にも匹敵する面白さではないかと思う。

『新宿駅最後の小さなお店ベルク』 井野朋也 ちくま文庫
 生命を維持するのに最低限の衣食住が確保できたら、残りの金銭的・時間的な余力は「より良い生活」を送るために使うことが出来る。その対象は音楽や本だったり、あるいはスポーツやコンサートへ行くことだったりと千差万別。喫茶店で一杯の珈琲を飲む時間もまたそうであるに違いない。
 本書はJR新宿駅東口で小さな喫茶店を営む店主が、現在までの歴史とそのユニークなビジネススタイルを綴った本だ。当初はビジネス書として発行されたらしいが、個人事業主だけあってこだわりも強く、全ての意見に諸手を挙げて賛成できるというわけではない。しかしそれが良い。“ベルクの店主が書いた本”として普遍化せずに読めばとても面白くて、思わず膝を打つような記述も多い。店と同じで本も非常にユニークなのだ。
 「創造することよりも維持することの方が道は険しく、何かしら荘厳の気が漂っている」というエリック・ホッファーの言葉が引用されているが、大企業のチェーン店ではない個人経営の飲食店が生き残ることの難しさがよく解る。(元本が刊行された2008年には、ベルクが入居しているルミネビルによってテナント追い出しの圧力がかかり、反対運動がおこっている最中だった。)文庫版あとがきではその顛末も報告されていて、ビルオーナーであるJRもとうとう諦めたらしい。いやめでたい。また東京に泊まる機会があれば、是非ともモーニングを食べに行きたい。それとも夕方に行ってドイツビールでも飲もうかな。

『超ディープな深海生物学』 長沼毅/倉持卓司 祥伝社新書
 深海生物学の研究者ふたりによる、様々な深海生物の生態についての紹介。図版は少なめだが、書名にもあるようにその分“ディープ”な知識が多くて愉しい。ラブカ(深海鮫の一種)が実は生きた化石ではなくて、比較的新しい時代に進化したものであるとか、オオグチボヤが海中では上ではなく下を向いているなんてこれまで全く知らなかった。他にも美しく海中を泳ぐユメナマコや、世界最大の単細胞生物であるクセノフィオフィラア(有孔虫の一種)など珍しい生き物たちがたくさん。もちろん熱水噴出孔にすむチューブワームなどのメジャーどころも取り上げられているが、個人的には深海底だけでなく中層域などの海中の生物にも目が行き届いているのが嬉しい。深海マニアにはお薦めの本。あ、でもスケーリーフットには触れられていなかったので、その点はちょっと残念だったな。(深海マニアにはさっぱり分からない話ばかりで恐縮です。/笑)

『妖怪 YOKAI』 小松和彦/監修 角川ソフィア文庫
 ジャパノロジー・コレクションというシリーズの一冊。北斎/国芳/芳年/暁斎などの有名な絵師たちによる作品をはじめ、河童や鬼や土蜘蛛に付喪神といった様々な妖怪画を手軽な文庫で紹介。オールカラーなので見やすい。月岡芳年は無惨絵の印象が強くてあまり得意でなかったのだが、この本で取り上げられている「新形三十六怪撰」はどれも素晴らしく、ちょっと見直した。(ところで書名にある妖怪のローマ字綴りは、正しくは”YOKAI”ではなく”YOKWAI”ではないのだろうか。まあどうでもいいことだが。)

『巨大ウイルスと第4のドメイン』 武村政春 講談社ブルーバックス
 新たに発見されたミミウイルスやパンドラウイルスは、“無生物”であるにも関わらず“生物”であるバクテリアよりも大きなDNAをもつという。本書では「巨大DNAウイルス」と名付けられたそれらのウイルスを基軸に、「生物」の誕生過程について分子生物学の大胆な仮説が繰り広げられる。巨大DNAウイルスはとてもユニークな特徴をもっているため、これまでの「バクテリア(細菌)/アーキア(古細菌)/真核生物」という生物の3つのドメインに対して、「第4のドメイン」という概念が生まれつつあるそうだ。そして細胞を基準とするこれまでの「生物(=生きているもの)」の定義自体が、DNAを基準にしたものに見直される可能性すらあるかもしれないのだとか。
 それが意味する事はとても衝撃的だ。新たな真核生物またはアーキア、バクテリアといった「生物」のドメインにおける新種ではなく、無生物(ウイルス)と生物の間の垣根が取り払われる可能性があるわけだから。まだ不完全にせよ、ウイルスと生物の共進化の道筋を描ける材料が出てきたのは素晴らしいと思う。今も地球上のどこかで、新たな生物が生まれているかも?なんて考えると、最高にわくわくしてくるねえ。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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