『ちょっとピンぼけ』 ロバート・キャパ 文春文庫

 世界的な報道写真家であるキャパが、1942年から45年の欧州大戦に従軍した際の記録。戦争の実態が、軍人とはまた違った視点で語られている。ノルマンディ上陸作戦やパリ解放といった歴史的エピソードが、淡々としたさりげない口調で語られていく。彼と親交のあったスタインベックやヘミングウェイといった人たちが、おまけのように元気な姿をみせるのが嬉しい。
 中身はといえば、ひたすら待ち、移動してまた待つ、そしてときおりの戦闘と、それらの繰り返し。情報の制限と欠如による、憶測と錯綜の中、明日をも知れない暮しを続ける兵士と従軍記者たちは、戦闘の合間には酒とギャンブルに浸る……。卑近な喩えで恐縮だが、テスト前になるとつい漫画やテレビを見るのに似た状態の極端なのが、ずっと続いている感じだろうか。一種の躁状態でもある。
 本書においてキャパの飄々とした文章は、救いのない状況を描きつつもユーモアさえ感じさせるが、それが却って逆説的に戦争の本質を浮かび上がらせているようだ。例えば当事者しか体験し得ない、戦闘における兵士たちの恐怖と高揚感、あるいは生き残った人間の罪悪感などが抑えた筆致で効果的に描かれる。(*)

   *…戦時の心理については過去から多くの作家が取り上げているが、なかにはそこ
      から離れられなくなる人もいるようだ。開高健が『戦場の博物誌』あるいは
      『歩く影たち』といった作品で描き、自らが取り込まれるのを恐れたのもその
      心理状態であるに違いない。本書を読むとそのあたりが何となく理解できる
      気がする。

 ジョン・スタインベックによる序文も良い。とりわけシリアの件ということではないが、この時節柄、戦場にジャーナリストが赴くことの意味についても色々と考えさせられた。“果てしない激情の広がり”である戦争そのものを映像に写すことは不可能だが、その外にある被写体を撮ることによって、それを伝えようとすること―― これは(戦争に限らず)様々なテーマで文学が実現しようとしていることなのではないだろうか。
 明示することの出来ないものを行間に表現する。言葉に出来ないものを、あえて示さないことによって暗示させる。写真については全くの素人なのだが、こうしてみると優れた写真とは優れた文学に等しいのかもしれないね。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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