今年を振り返って

 今年もばたばたと慌ただしく過ごしているうち、いつの間にか年末となってしまった。年々忙しさを増すばかりの仕事に加え、このところプライベートでも読書関係のイベントが始まったりして忙しく、ゆっくりと本を読んだり文章を書く時間がとりにくくなりつつある。プライベートの用事の方は自分自身が愉しいので別に構わないのだが、仕事が忙しくて本が読めないのはちょっとつらい。そんな時は、以前も書いたように憂さ晴らしでついつい本を買ってしまうので、未読の山は高くなるばかり。困ったものである(苦笑)。
 とはいえ未読が多いということは、世の中に自分が読みたい本がそれだけあるということ。有り難いことであるし、特にここ数年は今までにも増して好みの本がたくさん出ており、フトコロには厳しいが気分的には嬉しい状態が続いている。そんなわけで今回はいつもとは趣向を変えて、新刊で出た小説作品を中心にして自分なりの一年を振り返ってみたい。

 今年についてまず真っ先に思い浮かぶのは、優れた海外作品の収穫が多かったということだろう。世界文学はもちろんのこと、幻想怪奇やSF、それに分類不能な奇想小説といった自分の得意とするジャンルにおいて、長らく名前のみ知られていた作品の初訳に加えて、入手困難だった旧作品の再刊や古典の新訳も順調に進んだ。翻訳小説が読まれなくなって出版量が激減している―― という悲しい業界話をツイッター等でときおり目にすることがあるが、今年のように数多くの作品が手に入る状態が、これからもずっと続いてもらいたいと思う。(本は一度買い逃すと後で入手するのがとても大変なのだが、たしかに近年とみにそれが酷くなっているような気がする。)
 そのため「いつか読もう、明日読もう」とか言いながら、せっせと本を買っているわけで、結果わが家には山と積まれた本が溢れることになる。これは先を見越したある種の“投資”であって、決して無駄遣いしているのではないのだ。(単なる言い訳です。/笑)

 それでは印象に残っているものを具体的に順不同で挙げてみよう。
 まずはロバート・クーヴァー『ユニヴァーサル野球協会』やグスタフ・マイリンク『ゴーレム』、それにカレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』といった、入手困難で古書価が高騰していた旧作品の復刊が嬉しかった。昨年でたサミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』やフラン・オブライエン『第三の警官』といい、今年11月に出たばかりの同じくオブライエン『スウィム・トゥー・バーズにて』といい、これらの作品が収録されている白水uブックスのシリーズはこれからも自分にとっての最注目株といえるだろう。
 入手困難ということでは、国書刊行会から出ていたコッパード『郵便局と蛇』(西崎憲/編訳)が増補版としてちくま文庫に収録されたのもとても嬉しかった。同様に今では絶版・品切れとなっているフィッツ=ジェイムズ・オブライエンの作品集が、サンリオSF文庫(『失われた部屋』)/創元推理文庫(『金剛石のレンズ』)に続いて、古典新訳文庫から南條竹則/編訳で三度目の登場(『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』)となったのも、幻想小説ファンのひとりとして素直に喜びたい。(*)
 過去の作品の再来ということでは、何と言ってもマーヴィン・ピーク「ゴーメンガーストシリーズ」の第4巻『タイタス・アウェイクス』にとどめを刺すだろう。それに併せて、過去に出たまま品切れとなっていた『タイタス・グローン』『ゴーメンガースト』『タイタス・アローン』のシリーズ三冊も、新装版として復刊されたのは嬉しい限りだ。おかげで前の物を持っているのにまた買ってしまった。しかも新装版だから字は小さいままなのに。でもいいのだ。蔵書を読み返そうにも、どこに仕舞われているか分からないから。(苦笑)

   *…光文社古典新訳文庫は小説以外にも、エラスムス『痴愚神礼讃』やスピノザ
      『神学・政治論』、ホッブス『リヴァイアサン』といった思想書の新訳でひとり
      気を吐いている。どれも読みやすくて面白い。大したもんである。

 もちろん老舗の岩波文庫の赤帯(海外文学)も負けてはいない。ウラジミール・ナボコフ『青白い炎』の文庫化は幻想文学ファンの間でかなり話題となった。個人的にはホフマン『牡猫ムルの人生観(上・下)』のリクエスト復刊がツボだったかな。
 本邦初紹介の作品では、トルコ発の魔術的リアリズムと称されるラティフェ・テキン『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺』を出した河出書房新社や、アンチミステリのアレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』の東京創元社、そしてジーン・ウルフ『ピース』にジョン・クロウリー『古代の遺物』といった国書刊行会の他、アンナ・カヴァン『われはラザロ』を出したのような小兵(失礼!)の出版社も健闘していたように思う。(文遊社はそれ以外にも『ジュリアとバズーカ』『愛の渇き』といったサンリオSF文庫から出ていたカヴァン作品も再刊してくれていて、なかなか頑張っている。値段がちと高いのも発行部数を考えると致し方ないところだろう。)今年は数十年前に廃刊となったある文庫を丸ごと取り上げたムック『サンリオSF文庫総解説』(本の雑誌社)が出て、しかも何度も増刷されるほどの売れ行きを示したのが翻訳小説ファンやSFファンの間で大きな話題となった。これなどはもはや“伝説”と化した叢書に対する物珍しさもあるだろうが、一方で(カヴァンの例があるように)良い作品はいつまでも需要があるという証拠なのかも知れない。

 SF関係では、昨年に引き続いて非英語圏の作家の紹介がさらに進んだのが印象深い。フランスからはロラン・ジュヌフォールの『オマル』『オマル2』、イタリアではダリオ・トナーニ『モンド9』、そしてチェコからはミハル・アイヴァス『黄金時代』といった感じ。アイヴァスみたいなロシア・東欧系の作家が注目される背景には、ドストエフスキーがベストセラーになったりウラジーミル・ソローキンがブームになったりした影響もあるのかも知れないが、何にせよ色々な国の作家が読めるのは良い事には違いない。(そういえば当の英語圏では『トマス・ピンチョン・コンプリートコレクション』という化け物みたいな企画が進行中だったりもするな。)
 日本に目をやると、『ラピスラズリ』に続いての山尾悠子作品『増補 夢の遠近法』がちくま文庫入り。皆川博子(『猫舌男爵』)や筒井康隆(『繁栄の昭和』)といった大御所も健在だし、『荒巻義雄 メタSF全集』や『筒井康隆コレクション』の刊行も始まって、海外と同様に入手困難だった過去の作品が(ハードカバーで値段は張るにせよ)ともかく手に入ることになったのは慶賀といえるだろう。筒井康隆といえば、ちくま文庫から名アンソロジー『日本SFベスト集成』の刊行が始まったのもいいニュースだ。
 そしてつい先日は、幻想怪奇の世界では今年最大の話題となる荒俣宏編のアンソロジー『怪奇文学大山脈』(全3巻)が無事に完結した。なんでも聞くところによれば数十年越しの企画だそうで、こうして日の目を見ることが出来たのは、氏にとっても自分のようなファンにとっても、そしてもちろん業界にとっても喜ばしいことだろうと思う。どんな形であれ世に出れば後に残るのだから。

 というわけで、今年をざっと回顧してみた。ここで挙げたのはあくまで自分なりの一年であり、百人の読者がいれば百通りの一年があるのは承知のこと。「ああ、なるほど」と云って頂けるか、もしくは「なんだ、こんな本ばかり読みやがって」と思われるかは知らないが、自分としては満足のいく一年だったように思う。なお今回の記事で肝心な点がひとつある。これまで挙げてきた作品については、一度も「読んだ」とは言っていない点だ(笑)。
 どれを読んでどれを積んであるかについては、読まれた方のご想像にお任せするということでご勘弁願いたい。(これまでの「○月の読了本」を順に見ていけばわかることなので、もしもご興味のある方がいらっしゃればどうぞ。/笑)
 なお文中では数多くの作家・作品に言及したため、まとめて“敬称略”ということで統一させて頂いた。普段の拙ブログのルールと違っているが、悪しからずご承知おきのほどを。

<追記>
 話は変わるが、嬉しいことの一方で今年もまた多くの訃報があった。ガルシア=マルケス、ダニエル・キイス、赤瀬川原平、P・D・ジェイムズといった人々が退場し、また世界が少し寂しくなった気がする。新しい本や作家との出会いがあれば、別れがあるのもまた仕方ないことではあるが……。来年はどんな出会いと別れがあるのだろうか。願わくば出会いの方が多くあらんことを期待したい。(最後にしんみりしてしまって申し訳ない。年末ということで少し感傷的になってしまったのかも。来年もまたガシガシと本を読んでいくので、宜しければまたお付き合いください。)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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