2014年10月の読了本

※今月もわずか8冊。最低限のノルマとしていた10冊に満たなかった。正月休みまでは公私ともども忙しいし、ゆっくり本を読めるのはまだしばらく先になるかなあ。

『奇術師の密室』 リチャード・マシスン 扶桑社ミステリー
  *今は植物人間となって車椅子の生活を余儀なくされている一人の男。かつて大魔術
   師と呼ばれた彼の目の前で進むのは後を継いだ息子による殺人劇。息つく間もない
   どんでん返しで、意表を突く展開はまるで舞台の奇術を見ているよう。朝から読み始
   めて一日で一気読みしてしまった。マシスンは何を読んでも愉しめるので良いなあ。
『宇宙の眼』 フィリップ・K・ディック ハヤカワ文庫
  *ディック初期の長篇。版権の関係で長らくハヤカワ文庫に収録されていなかったの
   だが、やっと(!)登場。ハヤカワSFシリーズ以来、数十年ぶりに読みかえした印象
   では、初期作品としてはかなり傑作の部類だと思う。(筒井康隆著『SF教室』の粗筋
   紹介で妄想を膨らませて読んだらイメージが違っていて、当時は拍子抜けしたのだ
   った。)解説で牧氏が書かれているように、「多元宇宙」というよりは「主観世界(宇
   宙)」と呼ぶ方がしっくりくる感じ。ディックは悪夢の世界を描かせたら天下一品だと
   改めて実感した。
『本屋さんのアンソロジー』 “大崎梢リクエスト!”(光文社文庫)
  *書店ミステリを得意とする作家の大崎梢氏によるリクエストに基づき、ミステリや文
   藝など色々なジャンルから参加した作家たちが作品を寄せたオリジナルアンソロジ
   ー。参加している作家は飛鳥井千砂/有栖川有栖/大崎梢/乾ルカ/門井慶喜/
   坂木司/似鳥鶏/誉田哲也/宮下奈都/吉野万理子(以上、敬称略)の計10名。
   どれも軽く読めて面白いけれど、特に好みなのは「ロバのサイン会」「7冊で海を越え
   られる」「なつかしい人」あたりかな。本書は“書店しばり”だが、光文社文庫には同シ
   リーズで他にも“和菓子しばり”と“ペットしばり”の2冊がある。前者は既に読んで
   面白かったし本書も好かったので、後者もそのうち読もう。
『ツクヨミ 秘された神』 戸矢学 河出文庫
  *古事記では天照大神(アマテラスオオミカミ)や素戔嗚尊(スサノオノミコト)と並ぶ
   主神の一柱であるにも関わらず、文献に殆ど出てこない謎の神「月読(ツクヨミ)」。
   歴史から抹殺されたその理由を、天武天皇から桓武天皇へとつづく皇室の確執に
   読み解く。かなり乱暴とも思える推論も多く、感覚的には梅原猛氏の古代史シリーズ
   の味わいに近いだろうか。ふらふらと彷徨い歩く論考を嘘か真か調べるすべは、
   もはや現代には残されていないけれどファンタジーとして読む分には充分に面白い。
『溺れた巨人』 J・G・バラード 創元SF文庫
  *「破滅3部作」で知られる、バラードの初期短篇群の掉尾を飾る作品集。表題作や
   「永遠の一日」は如何にもバラードらしくてとても好きだ。
『怪奇文学大山脈Ⅱ』 荒俣宏/編纂 東京創元社
  *全3巻で構成される西洋近代名作選のうちの第2巻。本書は19世紀をテーマにし
   た第1巻(「19世紀再興篇」)に続くもので、「20世紀革新篇」という名のとおり収
   録作は20世紀初頭のものが中心。好きな作家や、知らなかった(でも一読して好きに
   なった)作家がたくさん載っていて、本邦初訳も多い。本書の醍醐味は選び抜かれた
   作品群のラインナップだけでなく、やはり編者の荒俣宏氏による大長篇の解説や作
   品解題にあるといえるだろう。「まえがき/20世紀怪奇スクール」に続いてヒチェンズ
   「未亡人と物乞い」クロフォード「甲板の男」と読み進み、次のホワイト「鼻面」で頭を
   殴られたような衝撃を受ける。“怖ろしい”とは思わないが、奇怪であり蠱惑的であり
   不気味。G・ウルフやC・プリーストにも通じるものがある気がする。書かれていること
   は明白なのに「それが何の意味を持つのかさっぱり解らない」のが堪らなく自分好み
   だ。ラストの一行が効いているベリズフォード「ストリックランドの息子の生涯」のよう
   に、後味の悪さも怪奇小説の愉しみのひとつだし、コッパード「シルヴァ・サーカス」や
   ハートリー「島」も好い。『心地よく秘密めいたところ』のようにジワリと心に残る大御
   所ウォルター・デ・ラ・メアの「遅参の客」や、泉鏡花「海異記」のように刹那の怖さが
   光るヒュー・ウォルポール「海辺の恐怖-一瞬の経験」、そしてブラックユーモアが
   愉しい「不死鳥」も好いのだが、後半では何と言ってもウエイクフィールド「釣りの話」
   が気に入った。(これなんぞは幸田露伴「幻談」をこよなく愛す編者らしいセレクトで
   はないかな。)途中からはページを繰る手が止まらなくなり、ラストのサーフによる実
   録怪談風の「近頃集めたゴースト・ストーリー」まで一気読みだった。西崎憲氏が編訳
   された『短編小説日和』『怪奇小説日和』や本書のようなアンソロジーが世に出続ける
   ことで、異色短篇や怪奇幻想の命脈が保たれていくに違いない。どれも傑作揃いなの
   だが、あえてマイベスト3を選ぶとすれば他は「シルヴァ・サアカス」「釣りの話」。
   ベスト5なら更に「遅参の客」と「海辺の恐怖」あたりだろうか。
『いちから聞きたい放射線のほんとう』 菊池誠/小峰公子/おかざき真里 筑摩書房
  *大阪大学サイバーメディアセンター教授にして音楽ユニットandmo‘の一員としてライ
   ブ活動を続けるユニークな物理学者のキクマコ先生こと菊池誠氏と、福島県郡山市
   出身でZABADAKというユニットで音楽活動を続けるミュージシャン小峰公子(こみね
   ・こうこ)氏がネットでやりとりした記録をもとに作られた、放射能の仕組みと生体への
   影響などを(おそらく)日本でいちばん簡単に書いた本。読みやすいし解りやすいし
   知りたいことが過不足なく書いてあるしで、これは非常に良い本。ベクレルやシーベル
   トといった専門用語の正しい意味や身体に対する影響の説明とか、なにしろ素晴らし
   い。原発や食品の安全について気になる人は一度目を通すと良いと思う。おかざき
   真理氏による冒頭の漫画やきれいなイラストもgood。
『繁栄の昭和』 筒井康隆 文藝春秋社
  *筒井御大による久々の新しい作品集。(「作品集」といっても全てが創作ではなく、
   巻末には昔の映画女優・高清子に関するエッセイ「高清子とその時代」も収録されて
   いる。)それにしても断筆撤回後に書かていた作品はあまりにも自在すぎる(笑)。
   メタ小説として秀逸な表題作や「メタノワール」は昔ながらの自分が一番好きな筒井
   節が満喫できるし、「大盗庶幾」や「リア王」は物語として秀逸。血糊にまみれた「遠い
   座敷」のような「一族散らし語り」も好いが、しかし「科学探偵帆村」や「横領」あたり
   までいくと、ちょっと不安になってくる。はたして自分はこの作品が本当に愉しめている
   のだろうか?と。まるで上田秋成『春雨物語』を読んだ時のように、すこし途方に暮れ
   ている自分がそこにはある。飄々と我が道をゆく御大の姿をただ茫然と眺めている感
   じもあって、薄いけど手強い本だと思う。
『世界ぶらり安うま紀行』 西川治 ちくま文庫
  *世界中を旅する写真家の著者が、あちこちで出会った現地の安くて旨い食べ物を
   綴る写真紀行。新聞や雑記に掲載のコラムより選出した文庫オリジナルで、いわゆる
   「B級グルメ」ではなく現地の人が日々食べているものを、彼らの懐に入り込んで食べ
   るのがウリ。読んでいるうちに腹が減ってくる。実に旨そうだ。(笑)
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全然関係ないけど、

SF作家フィリップ・K・ディックがテーマのバー「PKD酒場」 早川書房の喫茶店が期間限定開催中だそうですよ。

匿名希望様

はじめまして。
ご訪問ならびに情報をありがとうございます。

PKD酒場、好いですね。ただ残念なことに、期間限定で12月26日までなんですね。ブログ管理人の住いは名古屋なので、それまでに行く機会があるかどうか......。
年明けまでやっていればよかったのですが、行くチャンスがあることを祈ります(^^;)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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