2014年9月の読了本

今月は小説が多かった。秋の夜長には、せっかくだからじっくり腰を据えて学術書の類いも読みたいものだねえ。

『ディカーニカ近郷夜話(前篇/後篇)』 ゴーゴリ 岩波文庫
  *ゴーゴリが故郷に伝わる説話をもとに書き下ろした幻想味のある物語集。滑稽な
   ものから怖いものまでスタイルは様々だが、多くの話に妖女(ウェーヂマ)や悪魔、
   魔法使い(コルドゥーン)などが登場し、市井の人々とやりとりを繰り広げる。前篇に
   は4つ、後篇には3つの計7篇が収められていて、いずれも舞台はディカーニカ近郷。
   民衆によって繰り広げられる夜話の形をとっていて狂言回し役はルードゥイ・パニコ
   ーという年老いた蜜蜂飼いだ。リクエスト復刊なので字が小さくて読みにくいのが珠
   に瑕だが、こういう本が復刊されるのはなにしろありがたい。最初は展開が遅いが、
   一度勢いがつくと一気呵成に物語が進むところが、普段読んでいる欧米系の物語と
   違っていて面白い。(それが東欧・ロシアの地域によるものなのか、はたまたゴーゴリ
   自身の特徴なのかまでは知らないが。)自分の好みでいうと、前篇では埋蔵の宝を
   手に入れるために罪を犯した男が破滅していく姿を描いた「イワン・クバーラの前夜」
   と、ある男が悪魔たちとのカードゲームに勝って彼らに奪われた国書を取り戻すエピ
   ソードの「紛失した國書」あたりが好み。そして後篇ではシェイクスピアの「夏の世の
   夢」を思わせる「降誕祭の前夜」や、ゴシックロマンスの趣きさえある「怖ろしき復讐」
   が面白かった。
『バナナ剥きには最適の日々』 円城塔 ハヤカワ文庫
  *芥川賞SF作家の短篇集。見えないものが見えるとしたとき、それと対になるものは
   無くてもあると仮定しなければならぬ(「パラダイス行き」)/何百年の深宇宙を飛び
   続ける探査機のAIによる独白(バナナ剥きには最適の日々))/事故で身体麻痺と
   なった祖父を使ったコマ撮り映画を撮り続ける兄弟(「祖母の記憶」)/誰も読むもの
   がいない自動生成の文章とは?(「AUTOMATICA」)/まるで円城塔版のラファティ
   「九百人のお祖母さん」もしくはコニイ『パラークシの記憶』のよう(「エデン逆行」)
   など9篇を収録。今ひとつピンとこないのもあるが、変な思考実験がツボにはまると
   滅法愉しい。
『建築探偵術入門』 東京建築探偵団 文春文庫
  *懐かしい本を店頭で見かけて思わず手に取った。1986年の出版から凡そ30年ぶり
   の復刊ということで、東京・横浜の近代建築の代表作230件を写真とともにつぶさ
   に紹介した内容は、時代を超え今でも充分に愉しめる。(ただし現在では取り壊され
   てしまっている物件も多いとのこと。)執筆陣は藤森照信氏を始めとして、自分にとっ
   てはなじみ深い建築探偵の面々。(他には宍戸実、河東義之、堀勇良、清水慶一、
   増田彰久ら)この本をもって当時の東京の町をうろうろしてみたかったな。そして気
   になる建物を見つけたら、本書をぱらりとめくって調べてみるのだ。想像するだけで
   愉しそう。
『もう年はとれない』 ダニエル・フリードマン 創元推理文庫
  *主人公は現役時代に“ダーティハリー”を地でいった87歳の元刑事で、身体にガタは
   きていても減らず口だけは今だに現役。そんな彼が、逃亡を続ける元ナチス将校と隠
   された金塊の謎と殺人事件の謎を追う。男女関係なく、やっぱり不屈の人の話は良い
   ねえ。孫のテキーラとラスト近くに交わす次の会話には思わずぞくりときた。
   「ぼくはヒーローになった気でいたんだ」
   「ああ、そうだな。それはよくある間違いだ」
   うーん、カッコいい。(笑)
『郵便局と蛇 A・E・コッパード短篇集』 ちくま文庫
  *比類なき短篇作家コッパードのオリジナル作品集。西崎憲氏の編訳で元版は国書
   刊行会「魔法の本棚」シリーズの一冊だが、現在では入手困難だったので今回の文庫
   化は大変に嬉しい。しかしそれにしても、なんという短篇だろうか。印象批評はあまり
   好きではないのだが、たまには「好きか嫌いか」だけで語る小説や作家があっても良い
   と思えてくるほどに、説明不能な物語が続く。(いや、ストーリーは紹介できるのだが、
   それではこれらの物語の魅力を伝えたことにはならないということ。)冒頭の「銀色の
   サーカス」から「郵便局と蛇」「うすのろサイモン」「若く美しい柳」と続く流れがまず
   堪らない。XTCの"ENGLISH SETTLEMENT"を聴いているような感じで気持ちが良い。
   「アラベスクー鼠」「王女と太鼓」「シオンへの行進」も好みだし、悲しさも残酷さ
   も含めて極上の作品集といえるだろう。西崎氏ご本人の著作『飛行士と東京の雨の
   森』にも通じるものがあるような気がする。(例えば「理想的な月の写真」「淋しい場
   所」といったあたりの印象と。)自分にとってコッパードはツボに嵌まるというか、読ん
   でいて気持ちが良いというか……。やはり相性の良い作家というのはあるんだなあ。
『歪み真珠』 山尾悠子 国書刊行会
  *15篇の掌篇を集めた作品集。どれもが題名のごとく、バロックの語源となった“バロッ
   コ(歪んだ真珠)”のように歪(いびつ)で魅惑的な輝きに満ちている。たとえば「ゴル
   ゴンゾーラ大王あるいは草の冠」「美神の通過」「娼婦たち、人魚でいっぱいの海」と
   いった物語のなんと蠱惑的なことか。また「水源地まで」「向日性について」「紫禁城
   の後宮で、ひとりの女が」の不思議な味わいはどう表現したら良いものか。傑作短
   篇「遠近法」の補遺である「火の発見」や、連作集『ラピスラズリ』の外伝とでもいうべ
   き「ドロテアの首と銀の皿」なども収録。今回はコッパードに続けて本書を読むという、
   至福の休日を過ごすことができた。
『本棚探偵の冒険』 喜国雅彦 双葉文庫
  *ミステリーと古本をテーマにした人気エッセイの第3弾。単行本では別冊になってい
   た文章もひとつに収録されて厚めの一冊になっている。「文庫本のためのあとがき」
   までじっくりと、単行本とはまた違う趣きで愉しめた。シリーズの第4弾『本棚探偵最後
   の挨拶』が単行本で発刊されるタイミングで前作の文庫化がされるかと思っていたが、
   今回は文庫の方がちょっと遅かったようだ。
『安倍官邸と新聞』 徳山喜雄 集英社新書
  *副題は“「二極化する報道」の危機”となっている。2012年12月から2014年5月までの
   在京6紙の記事・社説を読み解き、安倍が行ってきた事とその際の報道のされ方を浮
   き彫りにして、安倍現首相のブレーンたちによる周到なメディア戦略と、それに踊らさ
   れる新聞各社の様子が良くわかって資料的な価値も高い。(安倍政策の報道に関し
   ては)もはや公正なメディアとは言えない読売・産経・日経の3紙と、それらに対抗する
   構図をなす朝日・毎日・東京の3紙という構図が明らかにされる。(そして社内の組織
   運営と一部人材に致命的な問題を抱える朝日の様子も。)読んでいて非常に不愉快
   な本だったが、ある意味これは止むを得ないだろう。今の社会状況を忘れてはいけ
   ないと思う。
『ストーカー』 アルカジイ&ボリス・ストルガツキー ハヤカワ文庫
  *管理人が敬愛するロシアの代表的なSF作家・ストルガツキー兄弟の代表作。長らく
   入手困難になっていたが、このたびのハヤカワ文庫フェアに合わせてトールサイズで
   めでたく復刊された。久しぶりに読み返したがやはり傑作だった。"ゾーン"と名付けら
   れた区域で発生する奇怪な現象と、そこに残された現代科学では説明できない遺物
   の数々。文字通り命を賭けてそれらを盗み取る密猟者の姿を通じて、読むものの心に
   様々な思いを掻き立てる。今回の復刊では『路傍のピクニック』という原題がきちんと
   載せられたのも嬉しいが、文字が大きくなったのが大変にありがたい(笑)。訳者の深
   見弾氏が鬼籍に入られて久しいので、大野典宏氏により訳の見直しもなされており、
   作業の背景や本国でのストルガツキー評価など、最新状況に触れた大野氏による解
   説も貴重な一冊。できればこの勢いで『蟻塚の中のかぶと虫』も復刊されて欲しいも
   のだ。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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