2014年8月の読了本

※今月は盆休みで思う存分本が読めたので、久しぶりに良い憂さ晴らしができた。これくらい読めると気持ちがいいね。

『和菓子のアン』 坂木司 光文社文庫
  *デパ地下の和菓子屋で働く主人公が出会う、様々な日常の謎。読後感も優しい、
   甘くて美味しいおやつのような本。読むうちに無性に餡子のおやつが食べたくなっ
   て、葛饅頭を買ってきてしまった。(笑)
『和菓子のアンソロジー』 小川一水他 光文社文庫
  *『和菓子のアン』の著者・坂木司氏のリクエストによって、小川一水や北村薫、
   畠中恵といった当代を代表する人気作家たち10人が和菓子をテーマに短篇を
   書きおろしたアンソロジー。この企画のきっかけとなった『和菓子のアン』の後日譚
   (「空の春告鳥」)も収録されていて、ちょっと得した気分。作品ジャンルはミステリ
   からホラー、SFまでバラエティに富んでいるが、特に気に入ったのは木地雅映子
   「糖質な彼女」/小川一水「時じくの実の宮古へ」/恒川光太郎「古入道きたりて」
   といったあたり。(幻想風味やちょっと怖めの作品が好きなのは趣味なので仕方が
   ない。/笑)
『乱読のセレンディピティ』 外山滋比古 扶桑社
  *ちくま文庫の大ベストセラー『思考の整理学』で有名な著者の新作エッセイ。90歳を
   過ぎて新刊を書き下ろせるパワーは大したものだ。本や読書に関する10から20ペー
   ジ程度の短い文章が全部で16章収録されていて、前半部は読書について思う事の
   あれこれを、そして後半部は題名にもある「セレンディピティ/思いがけないことを
   発見する能力」について書かれている。(要は「色んな分野の本を手当たり次第に
   幅広く読む(=乱読する)と、思いがけない発想が浮かぶよ」ということで、それが
   本人の経験した実例をもって示されている。)若干説経臭いところも含めて、一読の
   印象では岡潔『春宵十話』によく似た感じを受けた。
   少し気になったのは、想定している読者が本を読まない人なのか、それとも本好き
   なのかがはっきりしない点。たとえば18ページでは「嫌な本は読みかけでも放り出
   せ」といったり、かと思えば40ページでは「最後まで読み通さなくてはならない」と書
   いたりと、視点がはっきりしないので少し戸惑う。(前後の文脈からすれば、これは
   おそらく語りかけている対象が違い、前者は読まない人に向けてであって後者は
   良く読む人向けなのかな?)全体としてはあまり本を読まない人に向けて書かれて
   いるような気がするのだが、「読書の害悪」を説くような皮肉っぽい箇所もあったり
   して、文章を読みなれていない人にはよく分からないのではないかという気も。
   ちなみに害悪の象徴として批判する「読書家」というのは、愉しみのためでなく「○
   ○のため」に本を読む功利主義の人や知識偏重の人を指しているようだ。「日本
   では国語教育が読み書き偏重であり会話教育がなされてこなかった」という指摘
   は面白い。「試験英語でなくもっと英会話教育を」なんて話をよく聞くが、それなら
   英会話の前にまず日本語の会話教育をきちんとすべきではないかとも思う。
『春昼・春昼後刻』 泉鏡花 岩波文庫
  *久々の再読を堪能。いつも思う事だが、鏡花は正体不明の怪異を書くのが巧い。
   人に対して悪意を持つわけでもなく、単にこちら側の論理が通用しない怪異という
   のはまさに"人外"と言える。「天守物語」や「夜叉ケ池」を人間の側から描くと、
   丁度こんな感じになるのではないかな。うとうとと眠る如くに。
『ガニメデ支配』 フィリップ・K・ディック&レイ・ネルスン 創元推理文庫
  *芋虫のような異星人に支配された地球で、黒人指導者や精神医やテレビ司会者
    たちが入り乱れ、人類の存亡をかけて幻覚発生最終兵器が使用される……。
    とまあ、まるで安手の特撮映画のような設定と「いかにも」な展開がデッィクらし
    くてすれっからしのファンには堪らない。食べ物に喩えるならブルーチーズか
    くさやの干物といったところだろうか。あまりディックを読みなれていない方には
    決してお勧めできない物語だ。(笑)
『プリニウスと怪物たち』 澁澤龍彦 河出文庫
  *同じようなテーマを扱った『わたしのプリニウス』は、河出文庫にある澁澤の著作
   の中でもとりわけ読んで愉しく好きな本の一冊なのだが、本書はその補遺にあた
   るような本で河出の編集部が独自に編んだもの(?)らしい。中には大きな一本足
   を頭の上に掲げて日よけとする「スキヤアポデス(一足人)」や「キュノケファロス
   (犬頭人)」といったものから、「サラマンドラ」や「一角獣」、「ミノタウロス」に
   「ゴルゴン」「フェニクス」「バジリスク」といった幻想の生き物たちが取り上げられ
   ている。プリニウスだけでなく、同じく中世の知識人であるパラケルススやアンブロ
   ワズ・パレなども取り上げられていて、かれらの『博物誌』や『怪物および異象に
   ついて』といった著作も紹介されているのも好い。
『ABC殺人事件』アガサ・クリスティ(ハヤカワ文庫)
  *『オリエント急行の殺人』や『アクロイド殺し』『そして誰もいなくなった』といった超
   のつく有名作とならび、著者の代表作とされる一冊。トリック自体は例によってどこ
   かで聞きかじっていたが、それでも最後まで愉しく読むことが出来たのは、物語と
   して細部までよく練り込まれているからだろう。しかし逆にこれだけ元が良く出来て
   いると、同類の仕掛けを使ってなおかつ本書の亜流とならないように書くのは思い
   のほか大変そうだ。『ホッグ連続殺人』と『ハサミ男』くらいしか思い浮かばないなあ。
『ペドロ・パラモ』 ファン・ルルフォ 岩波文庫
  *主人公のフアン・プレシアッドは母親であるドロリータスが死んだのち、生まれ故
   郷であるコマラの町へと帰ってきた。町の顔役であり彼の父親でもあるペドロ・パ
   ラモに会うために......。そして今は無人と化したコマラの地で、フアンは死者
   たちのこだまに耳を傾け、彼らの記憶に思いを馳せる。死者と生者が同じ次元で
   交感しあうその時こそ、コマラの大地は死者たち彷徨い歩き自らの罪を償い続け
   るための「煉獄」と化すのだ。彼の父親であるペドロ・パラモの死を中心に円環を
   描きながら。メキシコを代表するマジック・リアリズムの一作。まるでメキシコの民
   衆画家ホセ・グアダルーペ・ポサダの骸骨の版画や、「死者の日」のお祭りを連想
   するような物語だった。もともとのラテンアメリカの人々にとっては生者と死者の国
   は地続きであって、行き来が可能な世界だったのではなかろうか。キリスト教の世
   界では「神の国」とは”彼岸(≒行き着くのが困難な場所)”であり、そうでないとこ
   ろは”此岸”となる。ただしラテン世界が本来のキリスト教の教えとひとつだけ違っ
   ていたのは、現世と煉獄がどちらも“此岸”であるという点だったのではなかろうか。
   本書を読むうち、そんな事を夢想してしまった。
『快感回路』 デイヴィッド・J・リンデン 河出文庫
  *内側前脳快感回路(側坐核や背側線条体など)の「報酬系」と呼ばれる部位の
   メカニズムと、それらが引き起こす様々な”快”および依存症に付いての研究成果
   を紹介するノンフィクション。薬物/高カロリーの食物/性/ギャンブル/ランナー
   ズハイなどがもたらす快感のメカニズムについて書かれているが、麻薬やギャン
   ブルが脳にもたらす快感と、連合系が関与するよな高次な快感が同じものだという
   のは興味深い。(善意の押し売りする人の目が座っているのもそのせいか。/
   笑)最後の章「快感の未来」で示されるビジョンは、そのままG・イーガンの短篇
   「しあわせの理由」の世界に他ならない。
『熱帯雨林の彼方へ』 カレン・テイ・ヤマシタ (新潮社)
  *主人公の眼前の宙に浮かぶ回転球や、アマゾンの密林の奥深くに発見された驚
   異の樹脂材料マタカンと、その工業化に野心をもやすアメリカ企業。あるいは鳥の
   羽のまじないによる民間治療やレース鳩の億万長者などが混然一体となって繰り
   広げられる。ラファティやガルシア=マルケスやヴォネガットを彷彿とさせるような
   物語が展開する傑作。こういう本を一気読みするのが本読みの醍醐味だろう。前
   半はまさにマジック・リアリズムそのものだが、中盤以降(マヌカンやレース鳩を使
   った事業の話が主体)になるにつれ、違った色合いがでてきてヴォネガットのような
   雰囲気もしてくる。あっけらかんとした笑いとすっとぼけた味わいは、毒を抜いたラ
   ファティのような感じもあったりして、一冊で色々な顔をみせてくれて愉しい。
『所有せざる人々』 アーシュラ・K・ル・グィン ハヤカワ文庫
  *二重星であるアナレスとウラスを舞台に、主人公シェヴェックの遍歴と新たな時代
   の幕開けまでを描く。色々な社会思想の博覧会のような雰囲気もあって、思弁に
   関する部分は同じ著者の短篇「オメラスから歩み去る人々」のように硬質で刺激的。
   色々考えるのが愉しい。
『ホラー小説大全』 風間賢二 双葉文庫
  *本邦初のホラー小説に関する入門書。長らく入手困難だったのだが、このたびめ
   でたく双葉文庫「日本推理作家協会受賞作全集」の一冊として再刊された。第一
   部は「西洋ホラー小説小史」、第二部はドラキュラ・フランケンシュタイン・狼男とい
   ったホラー界の人気者たちの解説、そして第三部は「ホラー小説100冊ガイド」と、
   至れり尽くせりで嬉しい。18世紀から1990年代までの通史はとても参考になる
   が、同時に読みたい本が増えるので困る(笑)。怪奇小説ファンにとってはまさに保
   存版といえる一冊だろう。ところでこの双葉文庫は、以前買い漏らした本が文庫で
   復刊されるので大変にありがたい。(ただしこの機を逃すと二度と手に入らないこと
   も多いので、でたら即刻購入する必要があるが。)
『ポールとヴィルジニー』ベルナルダン・ド・サン=ピエール 光文社古典新訳文庫
  *18世紀フランスで大ベストセラーになった、南の島を舞台とする純愛&悲恋の物
   語。リアリズムとは対極となる本書の背景にあるのは、割ととしっかりした自然礼
   賛と文明批判に関する作者の主張ともいえる。舞台となるフランス島(現在のモー
   リシャス島)は、フランスのノーベル賞作家ル・クレジオの父祖たちが住んだ彼の
   原風景とも言える島とのこと。異国趣味、自然礼賛、信仰といったあたりにもっと
   気をつけて読むと、これまで以上にフランス文学が愉しめるかも知れない。一度
   読んでおきたかったので、新訳文庫で出してくれてよかった。(ただし無垢な少年
   少女の楽園での日々とその喪失の悲劇を一言で「失楽園」と呼んでしまうと、某
   作家のせいで中年男女の不倫のイメージが浮かんでしまうのは、何とも困ったも
   のだ。/笑)
『有性生殖論』 高木由臣 NHKブックス
  *副題は『「性」と「死」はなぜ生まれたのか』となっている。ゾウリムシによる発生学
   研究を長年に亘って行ってきた著者が、生物進化に関する自らの仮説を述べた本
   であって、テーマを簡潔に述べるとすれば「なぜ有性生殖が生まれてきたのか」と
   いった感じだろうか。著者の仮説には自分としては与しないが、生物学の視点で
   みた「性」を考えるには良い機会だった。ちなみに本書で最も違和感を感じたのは、
   様々な進化の過程を「〇〇のため」という目的達成の手段として捉えている点。
   生物自身に進化に対する何らかの意思があるみたいに聞こえて、ラマルクや今西
   進化論に共通するものがある気がする。(あらゆる遺伝的な変異や進化には目的
   などなく、ただ適応があるだけなのだと思うのだが。)
『今日もごちそうさまでした』 角田光代 新潮文庫
  *子供の頃から極端な偏食だったが、突如30歳過ぎから劇的に好き嫌い無しとな
   った料理好き作家による、四季と思い出の食べ物エッセイ。食べられるようになっ
   た(=ある日突然、美味しいと感じた)瞬間の感激を描くのが巧くて、読んでいるう
   ちに無性に料理を食べたくなってくる。本書を読んでいるうちに、自分が「野菜の
   軸好き」ではないか?ということに思い当たった。椎茸の石づきはもちろん、ブロッ
   コリーの軸を茹でたり炒めたのも好きだし、青菜も葉よりは軸部分の歯応えを愛す。
   (まあそれは別にどうでもいいことだが。/笑)本書もちょうどそんな感じの本とい
   えばいいだろうか。
『月の部屋で会いましょう』レイ・ヴクサヴィッチ 創元SF叢書
  *文学と著者の趣味の悪さと、そして奇妙な味を感じさせるショートストーリー集。
   「最終果実」「母さんの小さな友だち」「キャッチ」「指」あたりは物語としては好み。
   (逆に「家庭療法」や「儀式」は“勘弁して欲しい作品リスト”の筆頭にくるほど。)
   奇妙なシチュエーションが面白いが、「すごく好き」までいかないのはそのあたり
   にあるかも知れない。一篇を長くして、雰囲気に浸れるようになれば、マコーマック
   やブッツァーティなどに近い「偏愛」の仲間に入るかも。惜しい。(あ、それから、
   モチーフがことごとく孤独や不幸や弱い者たちの虐待であるというのは、人によっ
   てはちょっと辛いかも知れない。)
『江戸しぐさの正体』 原田実 星海社新書
  *副題は「教育をむしばむ偽りの伝統」。1980年代に"芝三光"なる人物が当時の
   社会風潮への嫌悪と若い頃への郷愁でつくった現実逃避のための架空の"江戸"
   の道徳が、後継者に依ってオカルト史観や狭量な価値観とともに拡散・定着して
   いく状況を、解り易く解説し警鐘を鳴らす。まるで『フーコーの振り子』を読むよう
   で、背中のあたりがうすら寒くなってくる。が、広まりつつある小中学生の子供を
   持つ親は必読ではなかろうか?(ちなみに子供たちへの道徳教育を施したいな
   ら、江戸しぐさなんかより妖怪ウォッチの方がよほど有効な気がするがそれもどう
   だろう。)
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