2014年7月の読了本

『オリエント急行の殺人』 アガサ・クリスティー ハヤカワ文庫
  *有名な本なのだが実は未読。ミステリー読書会のために初めて読んだ。色々な版
    元からこれまで幾度も出版されているが、今回買ったのは早川書房のクリスティ
    文庫。漫画家の谷口ジロー氏の表紙のヤツだ。(オジサンが買うにはちょっと恥ず
    かしい感じの表紙だった。/笑)そもそもクリスティー自体が初心者で、これまで読
    んだことがあるのは『アクロイド殺し』に『ヘラクレスの冒険』と名前も忘れた短篇集
    の3冊のみ。しかし本書のトリックだけは何故か知っているという状態で、なんとな
    く読んだ気になってしまっていたのだ。実際に読んでみると「○○が犯人」というの
    は単なる奇をてらったトリックではなく、動機とも深く結びついていて感心した。
    クリスティの人気というのは、ミステリとしての面白さというよりむしろこういった、
    小説としての面白さに支えられているのかもしれない―― なんて初心者なりに考
    えたりもしていた。おかげで読書会もとても面白かったです。(笑)
『塩の世界史(上・下)』 マーク・カーランスキー 中公文庫
  *古今東西のさまざまな国や地方における、“塩”の製造と利用についての文化と
    政治の歴史を辿った本。缶詰や冷凍技術が発達するまで食料の保存に塩は無く
    てはならないものだったせいで、その製造と流通が戦争や経済のカギを握ってい
    たというのは本書を読むまで気が付きもしなかった。“塩”は塩化ナトリウムばかり
    でなく塩化カリウムなど色々なものがあるし、その製造方法にも海水を煮詰めたり
    地下の塩泉を使う、もしくは岩塩を使うなど、場所によっていくつかのバリエーション
    がある。いやあ、深いねえ。本書は題材はとても興味深いのだが、構成に脈絡が
    無くちょっと読みにくいのが難点。しかし以前読んだ珈琲や紅茶やジャガイモとい
    った、食材をテーマにした「食べもの世界史」のひとつとして、一読の価値は充分に
    あったと思う。
『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』 ロバート・ブロック 扶桑社ミステリー
  *井上雅彦氏のオリジナル編集による作者別傑作集の第3弾。(ちなみに第1弾は
    ジョン・コリアで第2弾はチャールズ・ボーモント)早川書房・異色作家短篇集の現代
    版を目指しているだけあって、このシリーズはどれを読んでもハズレが無い。ところ
    でブロックといいR・マシスンといい、当時の作家は映画や奇術などのエンタテイメ
    ントに対する造詣が深くて関心してしまう。収録作の中では、いかにも昔の異色作家
    短篇らしいどんでん返しも素敵な「殺人演技理論」、映画チックな怪奇趣味に溢れた
    「マント」、抒情的で物悲しい「弔花」と「ムーヴィー・ピープル」などがとくに好み
    かな。同じく本書の所載の「奇術師」を読んだ、初代・引田天功がテレビのスペシャル
    番組で昔やっていた、大脱出マジックを思い出した。(笑)
『「下り坂」繁盛記』 嵐山光三郎 ちくま文庫
  *”不良中年”改め”暴走老人”となった著者による無手勝流のその日暮らしのすゝめ。
    この人のエッセイは『素人包丁記』からのファンなのだが、どれも腹が据わっていて
    面白い。『悪党芭蕉』や『文人悪食』もすごいと思ったが、年を取ってから更に凄みが
    増して、今や不良中年を通り過ぎて暴走老人と化した感がある。(これは褒め言葉、
    念のため。/笑)それにしても俳句の素養があるというのは、日々の暮しを愉しむ
    上で心強い味方になるのだということが良く解った。一句ひねり出すのがいかにも
    愉しそうだ。もっと齢を取って本を読むのが億劫になったら、俳句か川柳を趣味に
    するのも良いかもしれない。
『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺』 ラティフェ・テキン 河出書房新社
  *トルコを代表する女性作家による魔術的リアリズムの長篇。「花の丘」と呼ばれるゴ
   ミ捨て場をねぐらにする人々の視点を通じて、トルコの近代化の歴史を辿る。
『可愛い黒い幽霊』 宮沢賢治 ちくま文庫
 *今やあちらこちらで大活躍のアンソロジスト東雅夫氏の編纂による、作家別・怪異小品
   集(泉鏡花の『おばけずき』、内田百閒の『百鬼園百物語』につづく第3弾)今回取り上
   げられた宮沢賢治は単なる心美しき詩人・童話作家などではない。彼がもつ昏い幽冥
   の世界は無機質でちょっとした凄み(もしくは狂気じみた怖さ)があって、足穂の粋(す
   い)とも通じるところがある気がして好きなのだ。本書にある「花椰菜(はなやさい)」
   「あけがた」だけを読んでも、普段知っている賢治のイメージを打ち壊すのに十分すぎる
   ほどのパワーがあるが、イメージの極北「インドラの網」も好い。解説によれば賢治はも
   ともと霊感が強いタイプだったようで、心霊に関する興味もあった様子。実はひろく知ら
   れている童話や詩の中にも、良く読めば色々と不可思議な記述がみつかる。本書には
   それらを「幽霊」「幻視」「鬼言」「物怪」「魔岨」という五つに分けて収録。「幽霊」
   の章は死者や霊との遭遇や異界を、「幻視」は視覚で「鬼言」は聴覚によるもの、
   「物怪」には“山男”や“ざしき童子(ぼっこ)”といった、東北地方に伝わる怪異を題材
   にした怪奇色の強い童話を、そして最後の「魔処」には北上山地南西部にある“種が
   原高原”における、作者と精霊の交歓を描いた作品が収録されている。幽冥の世界
   に遊ぶ賢治作品がこれだけ一堂に会すると、一種壮観だね。
『古今探偵十夜』 岡本綺堂(中公文庫)
  *『青蛙堂鬼談』に始まる中公文庫版の綺堂読物集5冊目。前作『探偵夜話』の補遺と
    なってはいるが、事件に解決がつかない“怪奇物”もある。個人的には中でも「馬
    妖記」「麻畑の一夜」「雪女」などが好みかな。今回のおまけとしては「その女」
    「三国の大八」の二篇(いずれも単行本未収録)。
『ムーミンパパ海へいく』 ヤンソン 講談社文庫
  *これで講談社文庫版のムーミンは全部読んだことになる。本作はムーミン一家が谷
    を離れて絶海の孤島で暮らし始めるという話。明るく楽しいばかりでないムーミンシ
    リーズだが、本書はなかでもムーミンパパやムーミンママの暗い面を見せて不思議
    な感じがした。
『旧約聖書 出エジプト記』 岩波文庫
  *エジプトで奴隷生活を送っていたユダヤの民を預言者モーセが砂漠へと連れ出して、
    約束の地へと導くまでの姿を描く。前半はモーセがユダヤ人を連れ出すのを邪魔す
    るエジプト人に対し、ヤハウェが与える災厄の数々が描かれかなり面白い。有名な
    海が割れるシーンや十戒を渡されるシーンもあって、かなり愉しめた。(びっくりした
    のは内容がヨハネ黙示録とかなりかぶるという点。数字の「7」がキーワードになって
    いるのも同じ。新約聖書で黙示録を初めて読んだ時はそのイメージに圧倒されたの
    だけれど、結局は黙示録も過去のモチーフを利用しているということなのだねえ。)
    一方で後半になると、ヤハウェを讃えるための祭儀施設について詳細な記述が延々
    と続き、正直いってかなりしんどいところも。前に『ヨブ記』を読んだ時にも思ったの
    だが、旧約聖書におけるヤハウェ神は決して慈愛に満ちた普遍的な存在ではなく、
    信徒に説得され意見を変えたりもする。妬み/怒り/命ずる神に過ぎない。(そして
    そんなところが面白かったり。)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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