「奇なるものへの挑戦」展

 突然だが本日、岐阜県・関市の岐阜県百年公園内にある岐阜県博物館に、「奇なるものへの挑戦」という展示会を観に行ってきた。副題に「明治大正/異端の科学」とあるように、心理学や物理学と超能力や心霊がまだ未分化だったころの学者や民間の研究家らによる活動の歴史を、当時の文献や写真などを使って紹介していこうという催しだ。昔からこのような“如何わしいもの”が大好きなのだが、特に今回のお目当ては夢野久作自筆による『ドグラ・マグラ』の草稿の特別展示があるということ。これは怪奇と幻想の物語をこよなく愛す身として、何としても行かざるを得まい。たまたま今日は昼から仕事を半休にしたのだが、用事が思ったより早く済んだので、思いついて行ってきたというわけ。
 「ところで岐阜県百年公園って何だ?」と思ったら、どうやら岐阜の置県百年を記念して昭和46年に作られた由緒正しい公園らしい。名古屋から延々クルマを走らせること1時間強、刃物で有名な関市にやっと到着したと思ったら、鬱蒼とした木立の中に広い敷地に少しさびれた感のある公園が広がっていた。入口で駐車料金を払って博物館への道を訪ねると、山の中に更に300m進んだところにあるとのこと。気温35℃の強い日差しの中を進んでいくと、やがて山を切り開いて作った公園の先に岐阜県博物館が見えてきた。
 博物館の入り口で入場料を払う。企画展なので普段よりちょっと高めの600円。常設展示も見られるとのことなので、さきにそちらを見て回ることにした。展示室に入るとプンと独特のニオイがしてくる。目の前に並ぶのはホルマリン・剥製・骨格標本の数々。ガラス玉の動物たちがじっとこちらを見つめてくるので、気分はもう夢野久作や江戸川乱歩の世界。いやがおうにも『ドグラ・マグラ』への期待は高まる。(笑)先へ進むと古代の土器や中世の寺社仏閣、江戸時代の民具などがもあったので、どうやらここは岐阜県の自然や文化を展示する博物館ということのようだ。(知らずに来ていた。/苦笑)
 
 さて、ひと通り常設展示を眺めたあとは、いよいよ本番の企画展へと足を向ける。入口には学芸員の方がいて、そのすぐ横には「撮影禁止」の大きな文字が。あわよくば草稿の写真を撮りたかったのでがっかりだが、気を取り直して先に進む。入口を入ってすぐ右側を向くと、そこにはいきなり井上円了の収集物が並んでいた。「幽霊の手」や「子供の感(疳)の虫を鎮める鈴」といった木彫りの細工物に、「哲学うらないに使う筮木(ぜいぼく)」など。『妖怪学講義』などの主著も並んでいる。
 いきなりの”濃い”展示ににんまりしながらそのまま進むと、今度は催眠術ブームの本に続いては福来友吉の催眠心理や千里眼研究のコーナーが。写真やパネルが沢山あってとても愉しい。福来は飛騨出身の初の博士だったそうで、東大を辞めたあとも変態(異常)心理学の研究を続け、飛騨には今でも「福来記念・山本資料館」なる施設が存在するらしい。
 かの有名な御船千鶴子(=今では『リング』の貞子絡みで有名かも知れない)の千里眼事件についての顛末も、パネルできちんと説明されている。関係者の相関図の中に呉秀三(=『ドグラ・マグラ』ファンにはお馴染み?)の名を見つけひとりほくそ笑む。当時の、先進国の科学者や文学者を大勢巻き込んだ、催眠術~変態心理~心霊科学という一連の流れへの関心の高さは、全世界共通の話だったのかもしれない…なーんて思いながら眺めていく。
 修養(健康)ブームの展示もあるが、この手のものは今も昔もかわらず胡散臭い気がする。健康と疑似科学はなぜだか相性がいいので、『トンデモ本の世界』なんかを連想した。念力写真・心霊写真なども次第にボルテージが上がっていく。念力測定器の実物展示なんてものまであって、オカルト好きには感涙ものだった。
 ここまで壁伝いに観ていて、ふと何気なく背中の方にも眼を向けたところ、そこにはなんと『ドグラ・マグラ』の草稿があるではないか。慌てて駆け寄ってガラスケースに顔を寄せ、まじまじと眺める。もっとおどろおどろしいものかと思ったら、ごく一般的な400字詰め原稿用紙だった。文字は万年筆で書かれていて、紙ヤケはしているものの意外と状態はよくてちゃんと読める。用紙の表側は夢野久作による草稿なのだが、裏は息子の杉山鶴丸によって別の小説の原稿用紙に再利用されている。原稿用紙自体は束になっておいてあるのだが、そのうち草稿が読めるのは僅か4ページ分のみ。ペンによる修正や追記の跡が生々しい原稿にじっと見入る。4ページしか読めないのではるが、、それでもわざわざラスト部分が読めるようにしてあったのはありがたかった。
  “「アッ…呉青秀…」と私が叫ぶ間もなく何処へか消え失せてしまった。……ブーン……」 ― おはり ―”
 とまあこんな感じ。かえすがえすも撮影禁止なのが恨めしい。

 『ドグラ・マグラ』を食い入るように眺めているうち時間が無くなってきたので、残りは駆け足でみていくことに。展示の後の方では「人間ポンプ」や合気など、特殊な鍛錬法による特殊技能の例や、子供の頃にテレビで見ていたオカルト・超能力ブームにかんする雑誌コピーや書籍類の展示がある。ユリ・ゲラーが曲げたスプーンの実物があるかと思えば、岐阜にゆかりの口裂け女の等身大マネキン人形やツチノコによる村おこしグッズなんてものも。いかがわしさ満点。ただし永井豪のコミックス『手天童子』や安倍公房『砂の女』のサイン本があったのは意味がよくわからなかった。(どうせなら『うしろの百太郎』あたりの方が良かったかな?)全体的にキッチュな感じでまとまっていて、まるで稲生平太郎著『何かが空を飛んでいる』(国書刊行会)を地で行くような面白さが満喫できた。「大霊道」や「霊気療法」なんていう民間療法や宗教系のマニアックなものも愉しかったが、何と言っても本日一番驚いたのは、人文書院の前身が「日本心霊学会」だったということかな。

 以上、平日に思いがけず良い経験ができた。思い切って名古屋から関まではるばる足を運んだ甲斐があったが、なんで岐阜県博物館でこのようなマニアックな展示が企画されたのかは、結局良く解らなかった。(笑)
 先週の”椙山女学園大学 国際フォーラム”と同じく、今回も「名古屋に住んでいて良かった」と思える企画だった。こういったイベントが地方でもっと盛んに行われて、どんどん成功していけば良いのにね。
 以上、速報でした。乱文失礼。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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