2014年5月の読了本

 今月も仕事の方は慌ただしかったが、イベントや読書会に参加したりフィクションを中心に良い本がたくさん読めるなど、プライベートの方は結構充実していた。6月もこの調子で行きたいものだねえ。

『死んでいるかしら』 柴田元幸 日経文芸文庫
  *翻訳家・柴田元幸氏によるエッセイ第二弾。(一作目は白水uブックスから出ている
    『生半可な學者』。)本書はもともと17年前に出版されたものだそうで、このたび
   日経文芸文庫という変わったところ(失礼)に収録された。しかしいつも書いている事
   だけど、なんで翻訳家の方のエッセイってこんなに面白いんだろうねえ。柴田氏の
   エッセイは軽妙な語り口もさることながら、取り上げられる本も自分好みのものが多
   くてさらに愉しい。もっと書いてもらいたいが、そうすると翻訳の方がお留守になるの
   で痛し痒しだねえ。(笑)
『三銃士の息子』 カミ ハヤカワ・ミステリ
  *フランスのユーモア作家・カミにより書かれた、文豪デュマの『三銃士』のパスティ
   ーシュ。主人公が「三銃士それぞれの息子たち」ではなく、「三銃士たちの共通の
   ひとり息子」であるという、何とも人をくった設定が如何にもカミらしい。「三銃士の息
   子」というのが本人の名前であったり、“三銃士”になぜかダルタニャンが含まれて
   いてアラミスはいないことになっているなど、いい意味での適当な感覚も愉快。物語
   はスーパーヒーロー“三銃士の息子”が活躍する痛快な冒険活劇で、原作を読んで
   いなくても充分に愉しめる。(あちこちに原作を踏まえた遊びがあるので、もちろん知
   っているともっと遊べるとは思うが。)
『迷路の中で』 ロブ・グリエ 講談社文芸文庫
  *「ヌーヴォー・ロマン」の旗手、ロブ・グリエの代表作のひとつ。第二次世界大戦の時
   代、死んだ仲間の兵士から託されたものを渡すために見知らぬ街を彷徨い歩くひとり
   の男と、彼の足跡を文章に再現しようと試みる町の男。このふたつの物語が入り混じ
   って、良く似た描写が微妙に変化しながら繰り返される。限りない酩酊感と眠気を誘
   う、まるで抽象画のような物語。ちなみに大まかな骨子を時系列順に整理すると、概
   ね次のような流れになる。
   時は第2次大戦。ライヘンフェルスでの敗戦から撤退した連合軍と思しき中に一人の
   兵士がいる。彼は戦場で命を落とした仲間から受け取ったものをある人物に渡すた
   め見慣れぬ街に降り立つ。疲労困憊した彼はキャフェでワインとパンの食事をとり、
   待ち合わせの目印である四つ辻を住民や子供に訪ねながら捜す。しかし良く似た街
   並みのため見つけることが出来ず、やがて発熱で朦朧となった彼は傷病兵が体を休
   める施設で夜を明かし、侵攻してきた敵軍兵士に撃たれてやがて…。
   話自体は正直言って別にどうという事は無く、ここで書いたストーリーも作品において
   さほど意味をなすものではない。カンディンスキーか誰かが書いた抽象絵画をみるよ
   うで、そっくりだが微妙に異なるテキストが何度もリフレインされるうち、何を読んでい
   るのか分からなくなってくる。兵士の物語を再現しようと試みる町の住民の「いや、
   違う。そうではなかった」という言葉が繰り返されるたび、わずかずつ後戻りと前進を
   続けながら物語が綴られていく。なんとも不思議な小説。
『ストリート・キッズ』 ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫
  *新感覚ハードボイルドの傑作。複雑な家庭に生まれ、私立探偵グレアムを親代わり
   にして育った若者ニールが、へらず口を叩きながらも懸命に生きる姿が心を打つ。
   『ロング・グッドバイ』の読書会に参加するため久しぶりに再読したのだが、記憶に違
   わずとても好かった。
『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』 高原英理/編 ちくま文庫
  *“リテラリーゴシック”とは聞き慣れない言葉だが、冒頭に掲げられた「リテラリーゴ
   シック宣言」によれば、文章(文学)で表現されたゴシック趣味のことらしい。但しここ
   でいうゴシックとはウォルポール『オトランド城奇譚』に始まる一般的な文学ジャンル
   を指し示す用語「ゴシック・ロマンス」のことではなく、もっと広い概念を示している。
   “ゴスロリ(ゴシック・ロリータ)ファッション”や球体関節人形などにみられる、日本で
   独自に進化した趣味嗜好のことだそうだ。(音楽でいえば筋肉少女帯や人間椅子の
   世界のような感じか。表紙に使われている中川多理氏の球体関節人形の写真が本
   書のコンセプトを端的に物語っている。ぞわぞわする感覚が好い。)本書で目指して
   いるのは、そういった作品(小説・詩・随筆)を一堂に集めて“日本的ゴシック”とは何
   かを表現すること。それが書名にもある「リテラリーゴシック(=文学的ゴシック)」で
   あり、通して読むことで編者の考える概念が俯瞰できるようになっている。内容は5つ
   の章に分かれ、それぞれ順に明治期の“黎明”から大正~昭和初期の乱歩たちを取
   り上げた“戦前ミステリの達成”/三島由紀夫や澁澤龍彦らによる“「血と薔薇」の時
   代”/赤江瀑や山尾悠子などの“幻想文学の領土から”/そして乙一や倉阪鬼一郎
   らによる“文学的ゴシックの現在”と名付けられている。取り上げられている作家や
   詩人は総勢で38人(39作品)。これだけ尖がったアンソロジーだと自分の好みと合わ
   ない作品も当然出てくるわけだが、「この作品は自分なら絶対選ばないだろうな」など
   と考えながら読むのもまた面白い。自分に重なる趣味であるが故に却って微妙な違
   いが気になったりするわけだが、そこが逆に編者のこだわりだったりする。こういった
   あれこれこそが、アンンソロジーを読む醍醐味といえるかもしれない。特に気に入った
   収録作は、北原白秋「夜」/高橋睦郎「第九の欠落を含む十の詩篇」/中井英夫
   「薔薇の縛め」/山尾悠子「傳説」/京極夏彦「逃げよう」/金原ひとみ「ミンク」/藤
   野可織「今日の心霊」/高原英理「グレー・グレー」といったあたり。痛い話が苦手な
   人には辛い話も多いので、好き嫌いは分かれるかも知れない。
『予告された殺人の記録』 G.ガルシア=マルケス 新潮文庫
  *『百年の孤独』でノーベル賞を受賞した著者が円熟期に書いた中篇。「百年の孤独が
   文庫になるときはこの世が終わるときだ」という冗談があるくらい新潮社はガルシア=
   マルケスの著作を文庫化しないので、本書は貴重な一冊と言える。著者の訃報に接
   してから少しずつ読み返したり未読作品にトライしているのだが、学生時代よりはるか
   に面白く読めるので驚いた。自分が色んな経験をつんだからなのか、それとも単に年
   取って趣味が変わっただけなのか。(笑)
『狐になった奥様』 ガーネット 岩波文庫
  *これはまた何とも奇妙な話。何の理由も無く突然狐と化し、すこしずつ野生化していく
   妻を、ただひたすら愛しようとする男を描く。題名の通りの物語でそれ以上でもそれ以
   下でもない。ラストの一行でまたびっくり。
『女の子よ銃を取れ』 雨宮まみ 平凡社
  *外観に関して世の中の女性が感じている「生きづらさ」を楽にしてくれるエッセイ。
   ファッションをテーマにした本ではあるが、同化圧力や社会的役割の強制といった話
   題は、性別や年齢を超えて共通の問題といえる。オヤジが読んでも面白かった。
『世界堂書店』 米澤穂信/編 文春文庫
  *『折れた竜骨』や『氷菓』などの作品で有名なミステリ作家・米澤穂信氏が、世界中
   から選りすぐった短篇を選んだオリジナルアンソロジー。これまで出版された作品集
   からのセレクトなので既読の作品も中にはあるが、なかなか目にすることが出来ない
   作品や初めて読む作品も多い。不思議な話やちょっと不気味な話ばかりでなく、いい
   話やミステリっぽい話も選んでいるのが編者らしい“味”といえるだろう。どれも面白
   かったが、特に気に入ったのは次にあげる作品。収録作の半分が特に気に入ったの
   だからかなり打率はいい。短篇の好さを存分に味わうことが出来るアンソロジーとい
   えるのではないか。
   ヘレン・マクロイ「東洋趣味(シノワズリ)」/ジュール・シュルペルヴィエル「バイオ
   リンの声の少女」/レーナ・クルーン「いっぷう変わった人々」/ヒュー・ウォルポー
   ル「トーランド家の長老」/ベン・ヘクト「十五人の殺人者たち」/フィッツ=ジェイム
   ズ・オブライエン「墓を愛した少年」/久生十蘭「黄泉(よみ)から」
『図書室の魔法(上/下)』 ジョー・ウォルトン 創元SF文庫
  *不幸な生い立ちの孤独な少女が、本を通じて心の通い合う仲間を作っていく物語。
   少女が読む本はあらゆるジャンルに亘るが、特に好きなのはSF小説。日記の体裁を
   取っているので本の感想などもあけすけに書かれているが、読んでいる本がとんでも
   なくマニアックなのが“とうの立ったSFファン”としてはとても嬉しい。ただ本書の最も
   優れている点は「読書することの喜び」を描くところにあると思うので、無理に魔法や
   フェアリーを出したり少女をSFマニアにしなくても、本好きというだけで充分面白くな
   ったのではないかという気もする。(そうでなければヒューゴ賞・ネビュラ賞・英国幻
   想文学大賞といった名だたる賞は取れなかったわけだが。/笑)
『満足の文化』 J・K・ガルブレイス ちくま学芸文庫
  *20世紀になって顕著になってきた中産階級に着目し、高所得者層を含む「今の生活
   に満足している人々」が選挙の趨勢を握るようになった先進国の状況を分析した本。
   これら「満足している人々」は生活の変化を嫌い、(低所得者層の生活改善など)社会
   改革や長期的な視野にたった政策には興味がない。読んでいるうちに暗くなってくる
   本だが、もっと嫌なのは本書が分析した80年代のアメリカ社会の状況に、今の日本が
   限りなく近づいているということ。ちくま学芸文庫で復刊された今こそ、もっと多くの人
   に読まれるべきではないかなあ。そして皆で考える必要があると思う。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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