『女の子よ銃を取れ』 雨宮まみ 平凡社

 相変わらず雑食性の読書で、気になったものを手当たり次第に読んでいる。(苦笑)今回は平凡社のWEB連載で話題になっていたエッセイが一冊にまとまったので、さっそく探して買ってきた。(ネットで話題にしておいてから本にするという、出版社の思惑にすっかり乗せられている気もするがまあいいや。/笑)
 内容はというと、ファッションやメイクなど「外面を装うこと」を題材に、女性を巡る社会的な観念や人間関係といった“生きにくさ”を打破することについて語ったエッセイ。雨宮氏は紹介文によれば、女性であることに正直に向き合えなかった自身の半生を書いた『女子をこじらせて』の著者で、「こじらせ女子」という言葉は2013年流行語大賞にもノミネートされたとのこと。
 “生きにくさ”というのは例えば、社会からみて「女性はこうあるべき」といった押しつけや同性による同調圧力であったり、あるいは自分自身の中にある「こういうものは似合わない」といった思い込みであったりする。「こうあるべき」という意見が、異性からみたステレオタイプな女性観の押し付けであればジェンダー論にもつながる話となるし、思い込みの打破ということを普遍化して考えるならば、性別や年齢に関係なく「よりよく生きる」ことについての本とも読める。
 全体のトーンは「エールを送る」というよりも強い感じで、むしろアジテーションに近い。著者が本書を通じて訴えたいことは、“銃を取れ”という題名にもあるように「(外観による評価を通じて)女の欲望を急き立て、制限する壁のようななにかを、マシンガンで」ぶっ壊すことなのだ。でも帯には「美の圧力から逃れたい 生きづらい女子の心を撃ち抜く」ともあるから、撃たれるのはどっちか良くわからないが。(笑)まあそのあたりは何となく雰囲気で、ということなのだろう。
 文章中に出てくるファッション用語は正直いって半分も分からなかったのだが、色々な読み方が可能な本なので男(オヤジ)の自分が読んでもかなり面白かった。おそらく女性が読むとまったく違った印象を持つのだろう。中高生の年代の女の子がこれを読んだら、かなり人生観が変わるんじゃないかという気がする。それとも「何言ってんだか!」と反発するのだろうか。当事者ではないので良くわからないが、いずれにしても他の人の感想をぜひ聞いてみたい本ではある。

 ではさっそく中身について。
 まず冒頭からしていい感じだ。昔テレビでやっていた『ビューティー・コロシアム』という、メイクや整形やコーディネートを通じて“さえない女性”を変身させる番組を取り上げているのだが、口調はなかなか挑戦的。この番組が発信していた「美しくなって人生を変える」というコンセプトは、裏返せば「美しくない女は、苦労する」ということでもあり、さらに「ただの虚栄心で『綺麗になりたい』と思うのは感心できない」「心が素直じゃないと美しくなる資格はない」というダブルバインドを強く演出しているのだとか。
 人により受け取り方は色々なのだろうが、そのように感じる女性にとってはたしかに「綺麗になる」ということは一種の“呪い”にもなるだろうし、それがモノサシである社会で生きることはまさに「生きづらい」ものであるだろう。そんな気が強くする。
 著者は自らも含めたそんな「主役になれない女の子たち」に対して、知らず知らずのうちに周りを取り囲んでいる3つの壁(*)について気付かせ、心の澱をじょじょに解きほぐしていく。自らの失敗談を正直に披露したり、安易な解決策を提示しない点(著者自身が今でも答えを出せていないことを正直に吐露したり)など、以前ベストセラーになった勝間某の自己啓発本などとは違い、読者に寄り添う姿勢がまるでマッサージを受けている感じだ。

   *…ひとつ目はセルフイメージの思い込みによる「自分自身の壁」。ふたつ目は
      “かわいい”が基準となったり、ファッションがその人の価値観や社会的イ
      メージを規定する日本社会の「他人の視線の壁」。三つ目は具体的に服装や
      メイクが似合う/似合わないについて思い悩む「失敗や不安の壁」。
      いずれも外から押しつけられたり自ら規定してしまっている壁であり、今の
      自分に一番合ったものを自分で選ぶことが今の“生きづらさ”から逃れて
      “自由に生きること”へとつながるのだとか。

 ファッション系の話題ばかりなので、「憧れの誰かみたい」な服ではなく「自分にこそ似合う服」を探す(P144)といったアドバイスや、「化粧品のカウンターで嫌な思いをしたこと」をテーマに作文を募集したら面白い話がたくさん寄せられるだろう(P159)といったくすぐりは、正直良く解らない部分ではある。
 でも、「持って生まれた容姿がどのようなものであろうと、センスが良くなくても、お金がなくて服が買えなくても、誰になにを言われても、私は私の生を主観の美しさに従って生きたい。」(P171)という言葉は素直に心を打つし、「どのようなことを楽しむ自分でありたいか、そのことが自分のあり方を決めます。(中略)その意志こそが、まぎれもないその人自身の、もっとも美しい部分なのではないかと考えます。」(P210)という主張は、ファッションの域を超えて普遍性をもつと思う。多様な生き方を肯定することが、世の中をもっと面白く豊かなものにしていくのだろうし、よりよく生きることにつながるのだろうねえ。そう思うな。

 たまに「本が呼ぶ」ということがあるが、本書もそんな風にして買った本。そして今回も勘は外れなかった。とてもいい一冊。本屋のレジにもっていくのは少し勇気が要ったけどね。(笑)

<追記>
 本書で著者が生き方に憧れる人物として挙げているのは、たとえば次のような人たちだ。
  マドンナ/レディ・ガガ/ディタ・フォン・ティース/ケイト・モス/ナオミ・キャンベル etc.
 それぞれ音楽やモデルの世界で確固たる地位を築いているひとだが、彼女らが素晴らしいのは成功したかどうかではなく自分の価値観に従って生きているところなのだとか。なんとなくわかる気がする。日本で言えばアスリートの上野由岐子(ソフトボール)や澤穂希(サッカー)などがそうかも知れない。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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