2014年春・東京旅行

 今年のゴールデンウィークは思い切って5月3日から5日まで東京へ遊びに行ってきた。旧知の人や初めてお会いする方との食事会を始め、美術展巡りなど盛り沢山の予定をこなしてきたので、その中からブログで紹介できるものについて幾つか抜粋してみたい。(自分の備忘録も兼ねております。/笑)

■バルテュス展(5月3日)
 かのピカソをして「20世紀最後の巨匠」と言わしめたフランスの画家の回顧展。4月16日から6月22日まで東京都美術館で開催されているが、他の地方での開催は京都のみとのこと。この機会を逃すとまず観られないので、今回の旅行に向けて前売り券まで買っておいた。当日は朝5時に起きて7時15分に名古屋発の新幹線に乗り、上野駅についたのが9時15分。少し並んで9時30分開場と同時に入場し、空いた館内でゆっくりと鑑賞することが出来た。(こういう時、普段から早い便で東京に出張していると要領が分かっているので便利。/笑)
 知らない方のために少し紹介しておくと、バルテュスは1908年生まれのフランスの画家で、晩年にはスイスに移り住み2001年に亡くなった。若い頃に独学で古典絵画を学び、シュルレアリスムの影響も受けつつ、独特の特徴をもつ不思議な印象の絵画を数多く描いた。作品としては、異様に大きな頭部と纏足(てんそく)のように小さな足、あえて直線的に描かれた脚部と少女のもつ人工的なエロス、そして互いに決して目を合わそうとしない人物たちと、逆にキャンバスのこちら側を見通すように凝視している猫、といったあたりが大きな特徴だろうか。個人的な印象では、いびつな構図が観る者の不安感を引き起こすとともに、強く引き込まれるような気持ちをかき立てるあたりが魅力といえる。(うーむ、こうして改めて言葉にしてしまうと面白くないなあ。ともかくそれがバルテュスというもの。詳しくは写真などでいちどご覧になるといいかも。)自画像の「猫たちの王」や「夢見るテレーズ」「美しい日々」に「地中海の猫」「トランプ遊びをする人々」といった有名作品が一堂に会し、とても充実した美術展だった。帰りにはとくに気に入った「美しい日々」と「地中海の猫」の絵葉書を買って、ほくほく顔で(笑)次の目的地へと向かったのであった。

■豊崎由美&牧眞司/世界文学を語る(5月4日)
 もともとは5月4日から5日にかけて開かれる「SFセミナー」というイベントの企画のひとつ。SFセミナーとはこの時期に毎年東京で開催されているイベントで、SFやその周辺の話題についてゲストを招いてシンポジウム形式でお話を伺うというもの。今年も多くの愉しい企画が目白押しだったが、その中でも個人的に目玉はこの企画だった。(注:正式には「豊崎由美vs牧眞司 世界文学はSFの宝庫だ!」というタイトルで、SFファンにもっと世界文学に触れてもらおうという企画。) 豊崎氏は『百年の誤読』や『文学賞メッタ斬り!』などの著作で有名な方でご存じの方も多いと思う。一方の牧氏はSFやちょっと不思議な世界文学を中心に書評を行っている方で、こちらもSF関係者には超有名人。
 以上のおふたりが例えばガルシア=マルケス『百年の孤独』やボルヘス『伝奇集』、はたまたブローディガン『西瓜糖の日々』にソローキン『青い脂』、そしてジャリ『超男性』といった、魅力的な世界文学を語りつくそうというのが本企画の趣旨。スタイルはお互いがお薦めの世界文学を約20冊ずつ選び出し、それらを縦横無尽に紹介していくというもので、豊崎氏の軽妙なトークに場内は爆笑につぐ爆笑。それでいてトークを聞いているうちに無性に本が読みたくなってくるという、まさに本好きにとっては堪らない企画だった。一緒に聞いていた友人たちは、話が終わってからさっそくスマホを使ってアマゾンで本をポチッていたし、自分も次の日の朝、神田の古本街が開くと同時に店に入って『紙葉の家』という分厚い本を4000円でゲット。肩に食い込むカバンの重さも心地よく帰宅の途についたのであった。
 かつて学校時代に読書感想文を書くためいやいや読んだ文学ではなく、とんでもなく面白くて刺激的な創作物として文学を捉え直すふたりの取り組みには、実をいうと以前から共感していた。従って今回の企画はとても楽しみにしていたものであり、その期待以上の満足感を得ることが出来た。おふたりが仰っているように、『白鯨』や『ドン・キホーテ』とP.K.ディックやスタニスワフ・レム、あるいはミハイル・ブルガーコフの作品を同列に評価するということは、ほんとうの読書の愉しみにつながるものなのだと思う。虎ノ門にある発明会館を貸し切って開催されたSFセミナー昼の部と、本郷に場所を移して開かれた夜の部を合わせると、企画の時間はおよそ2時間余り。まさに至福の時間であった。(豊崎氏はその後も場所を変えて“プロの書評術”についてお話しいただいたので、この日は都合3時間半に亘ってじっくりとお話を伺うことが出来た計算になる。)

■ゴシック人形展・他(5月5日)
 今度の場所は浅草橋にあるパラボリカ・ビスという2階建ての小さなスタジオ。ここでは前々から気になっていたゴシック系の手作り人形の展覧会が開かれており、2日間に亘って開かれたSFセミナーが終了した5日、せっかくの機会なので少し足を延ばして行くことにした。その日やっていたのは「球体関節人形」と呼ばれるちょっと不気味なタイプの人形展(個展と合展)3つにファンタジー系のイラストの個展がひとつ。小さな会場ではあった、とても見ごたえのある作品展だった。
 ところで「球体関節人形」というのをご存じない方のために少し補足を。これは文字通り関節部分が球体で構成されている人形のことで、本物の人間そっくりな顔立ちでゴシックロリータ(略称:ゴスロリ)系の衣裳を身に着けたり裸体やわざと歪な形状にしたりもする。芸術作品としての価値も高いが、若干グロテスクだったり猟奇の薫り漂うものも多いので、その手の者が苦手な人は注意が必要。著名な人形作家としてはハンス・ベルメールや吉田良、清水真理や四谷シモンといった人たちがいる。
 今回開催していたのは、『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』(ちくま文庫)の表紙カバー写真などで知られる人形作家・中川多理氏による個展「イヴの肋骨」に、同じく人形作家・山吉由利子氏とオブジェ作家・菊地拓史氏による共同展「遠い声」、そして6人の作家による合展「人形展 エーオース」というもの。いずれも力の入った展示だった。(特に迫力があったのは中川多理氏の個展。まさに「異形」と呼びたくなる、不気味かつエロチックな頽廃美が展開されていた。また菊地拓史氏の匣に入ったオブジェ作品もかなりの存在感で、とても気に入った。)
 一方で横田沙夜氏によるイラスト展「ロゼッタとこびとたち」は、(例えば『不思議の国のアリス』のような)可愛らしい少女と小人や動物による、可愛らしさとともにどことなく不穏な感じもする不思議イラストを数多く展示。こちらはこちらでまた独特の世界観漂うものとなっていて、なかなか好かった。普段目にすることのないこのようなタイプの人形やイラストを間近に見られる機会は名古屋ではなかなか無いので、今回の旅行はいい機会だったと思う。思い切って行って良かった。

■幻想芸術展-東京-(5月5日)
 球体関節人形の展覧会に引き続いて向かったのは有楽町にある東京交通会館。ここでもちょうどタイミングのいいことに、2階のギャラリーを使って若手芸術家たちによる幻想絵画等の展示即売会が開かれていた。数十点ある作品の中には自分の好きな作家・酉島伝法氏の作品も3点出展されていて嬉しかったが、なかには皆川博子氏の小説に使われた伊豫田晃一氏のイラストの原画(非売品)や、中島清八氏による能面風の仮面も展示してあったりして、かなり見応えのあるものだった。
 観終わったあとは1階の北海道どさんこプラザで名物の夕張メロンのソフトクリームを食べて疲れを癒し、続いて最後の目的地、東京駅のJP(日本郵便)ビルへと向かう。

■インターメディアテク(5月5日)
 正式名称はJPタワー学術文化総合ミュージアムという。ここは東京大学博物館がこれまで蒐集してきた貴重な学術標本や資料類を展示する目的で、2013年3月にオープンした公共施設。日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館が共同で運営を行っている。昨年から一度は足を踏み入れたかったのだがいい機会がなく、結局1年後となってしまった。中に一歩足を踏み入れると、そこには様々な骨格標本や図説、鉱物標本にエジプトのミイラ標本などが整然としつつも所狭しと並べられ、周りの現代的な雰囲気と隔絶された異空間が広がっている。
 かつて中世ヨーロッパでは王侯貴族たちが、自分の所蔵する珍奇な収集物を展示した「驚異の部屋(ヴンダー・カマー)」と呼ばれる施設を競い合って作っていたが、このインターメディアテクのコンセプトもまさにそれに近い。今回は京都大学版の「驚異の部屋」が企画展示されていたが、それを観ていると、「自然科学」と呼ばれる学問は珍奇なものへの好奇心を母として誕生したものだという事がとてもよく分かる。ここもまた球体関節人形とは別のかたちで、「知的ゴシック」とでも呼ぶべき空間となっていた。

 以上、ざっと紹介してきたが、東京ではこれ以外にも色々あって3日間で都合9つものイベントをこなし、自分としては近年まれにみる充実した休みを過ごすことが出来た。(東京の大学に通うため下宿している子供と会ったり、ツイッターの友人・知人の方との食事会、そして神田の古本屋散策など、朝から晩まで予定がびっしりの状態。)休みの日はどこも混むからといって家でだらだら過ごすのでなく、たまには思い切って外に出るのも良いものだね。

<追記>
 食事会の幹事をお引き受け頂きました“みいめ”様をはじめ、今回ご一緒いただけました沢山の皆様にこの場を借りてあつくお礼を申しあげます。おかげさまでとても愉しく有意義な時間を過ごすことができ、どうも有難うございました。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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