2014年4月の読了本

 今月は先月・先々月の反動で、物語を中心に19冊とたくさんの本が読めた。読書が滞っているときに勢いをつけるには、面白い物語をとにかくたくさん読むのがよい気がする。まだしばらくは物語中心の読書がつづくような気もするが、そのうちじっくりと時間を作って学術系の本を読みたい。

『女には向かない職業』 P・D・ジェイムズ ハヤカワ・ミステリ文庫
  *女性の私立探偵コーデリアを主人公としたミステリ。もともとは5月に開かれるハー
   ドボイルドをお題にした読書会の副読本として読み始めたのが、結論から言うとハ
   ードボイルドかどうかとは関係なくとても面白かった。「イギリスの女性作家による
   作品」ということが、どれだけハードボイルドを客観的にみる視点を提供してくれる
   か興味があったのだが、それについては正直よくわからない(笑)。でもコーデリア
   が活躍する次作『皮膚の下の頭蓋骨』はそのうち絶対に読みたい。
『空飛び猫』/『帰ってきた空飛び猫』 アーシュラ・K・ル=グウィン 講談社
  *SF・ファンタジー作家ル=グウィンによる絵本を2冊。どちらも村上春樹訳で刊行は
   かなり前の本なのだが、ついつい読む機会を逸してしまっていた。このところ仕事が
   忙しくて本を読む量が減っていたので、一種の“リハビリ”のつもりで手に取った。
   内容はホフマン『牡猫ムルの生活と意見』に倣っていえば「羽が生えた4匹の猫の生
   活と意見」といった趣のわりと他愛もない話ではある。しかし村上氏も言っているよ
   うに、こういった「子供だましの役にたたない」本こそが、世の中にはもっと必要
   なのだろうと思う。
『飛行船の上のシンセサイザー弾き』 難波弘之 ハヤカワ文庫
  *日本を代表する音楽家のひとりにして、古参のSFファンでもある著者が書いた短篇
   を集めた作品集。元本の出版が1982年と古いので、雰囲気もいかにも往年のSFとい
   った感じのものが多い。(自分もF・ブラウンやブラッドベリで育ったくちなので、
   そういうのは決して嫌いじゃない。)収録作はバラエティに富んでいるが、どこと
   なく坂口安吾「風博士」を思わせる表題作やニューウエーブの影響が強い「帰宅」
   あたりが好み。
『「悪」と戦う』 高橋源一郎 河出文庫
  *高橋氏の本は『さようなら、ギャングたち』や『ジョン・レノン対火星人』がとても
   好きだった。その後、何となく読まなくなってしまったのだが、それからかれこれ30
   年近くになる。久しぶりに読んだ高橋源一郎は、自分が好きだったころの高橋源一郎
   に戻っていた。昔はヴォネガットの流れでしか理解することが出来なかったけれど、
   今はむしろ筋が通って前向きなラファティという感じがしないでもない。物語は三歳
   児の「ランちゃん」が壊れてしまった世界を取り戻すため、友達の「ミアちゃん」に
   攫われてしまった自分の弟の「キイちゃん」を捜しに行くというもの。とても好いね。
   タイプは全然違うけど、いとうせいこう『ノーライフキング』を連想したりもした。
   ボーナストラックとして単行本未収録の「魔法学園のリリコ」も併録されお買い得。
『教育の力』 苫野一徳 講談社現代新書
  *著者の苫野(とまの)氏は、自分が好きな哲学者・竹田青嗣の愛弟子。ご本人も現象
   学の哲学徒であり、教育学を専門としている。本書はこれまで氏が追求してきた
   「よい公教育」とは何か?という考察を基に、より具体的かつ実践的な提案を行う教
   育論の本。新書なので簡潔にまとめてあり大変に読みやすい。社会的な問題の解決に
   は現象学はとても有効なのだなあ。
『カフカ短篇集』 池内紀/編訳 岩波文庫
  *あまり大上段に構えず素直に読めば、ちょっと不思議な話あり変な話ありの、ごく
   普通の面白短篇集といった感じ。カフカはあまり読んでないので偉そうなこと言え
   ないけど、経営層と現場の狭間で(全体像も実作業も理解出来ず)右往左往する事務
   方が、会社の中で日頃感じている不条理を写しとったような感じがした。特に根拠は
   ないけれど、彼の不条理感覚は不毛な事務作業に対する疲弊から生み出されたもの
   なのではなかろうか。
   「掟の門」は長篇『審判』の中でも言及されている魅力的な挿話だし、ある意味いか
   にも“カフカらしい”ともいえる「判決」や、猫と羊の奇妙な合いの子が出てくる
   「雑種」なども好い。奇妙な死刑装置のでてくる「流刑地にて」はかなり傑作だし、
   意味不明な「父の気がかり」やヨーゼフ・Kが主人公の「夢」、それに「万里の長城」
   や「狩人グラフス」「橋」なんかも魅力的だった。本書を読んでいる間、世に言われ
   る「カフカ的」なるものについて考えていた。いうなれば「原因があって結果がある
   べき処に因果が感じられない」ということなのだろうと思う。漢字で書けばすなわち
   「不条理」なわけだが。“不”は“非”と違って「○○ではない別の△△」を暗示は
   しない。ただ「○○でない」だけ。その断絶が不安と侵食と魅力の源ではないのだろ
   うか。従っていくら予想できない結果がもたらされても、別の因果律が感じ取れる
   ものは「カフカ的」ではない気がする。主人公の破滅が「カフカ的」なるものには付
   きものだったりするが、それによって得られる感覚は「無常感」ともまた違うもの。
   (無常感はむしろ健全。)「カフカ的」なるものは、不意に背後から襲ってくる。
『盤上の夜』 宮内悠介 創元SF文庫
  *2013年に出版され同年の直木賞の候補にあがり、日本SF大賞を受賞した話題作。囲碁
   や将棋、麻雀といったゲーム(勝負事)をテーマに、ジャーナリストである"わたし"
   の目を通して様々な生の意味を問う。実は次作である『ヨハネスブルクの天使たち』
   (こちらも直木賞候補)の方を先に読んだのだが、こちらも負けず劣らずの力作だっ
   た。収録作では麻雀が題材の「清められた卓」と将棋を取り上げた「千年の虚空」が
   特に好み。
『ルピナス探偵団の当惑』 津原泰水 創元推理文庫
  *『11 eleven』や『綺譚集』といった幻想小説でも知られる著者のミステリ連作集。
   全部で三つの短篇が収録されているが、いずれもルピナス学園に通う女子高生3人組が
   活躍する肩の凝らない話。ただしミステリとしての骨格はしっかりしている。解説で
   神保泉氏も書かれているように、都築道夫や泡坂妻夫につらなるパズラー系といって
   良いだろう。二転三転する真相が面白い。第三話「大女優の右手」が特に好かった。
『ゴミと罰』 ジル・チャーチル 創元推理文庫
  *家庭の日常生活を描くことが特徴のコージーミステリ(という説明で良いのかな?)
   の名作。ウィキペディアによればシリーズはこれまで16作発表され、そのうち13作が
   訳されているようだ。(コージーミステリは門外漢なので受け売り。/笑)アメリカ
   の一般家庭の主婦の、ご近所とのホーム・パーティーや子供たちの送り迎え、それ
   に掃除や食事の支度といった日常生活が克明に描かれ、ミステリそのものよりもそち
   らの方が主眼という感じもする(笑)。しかしその枝葉末節の描写こそが面白い。
   コージーもなかなか奥が深そうだ。
『三銃士(上下)』 デュマ 岩波文庫
  *19世紀フランスを代表する文豪アレクサンドル・デュマの言わずと知れた代表作。
   本書を読むまで知らなかったのだが、ダルタニャン物語三部作の第一作目なのだそ
   うだ。物語の時代はルイ十三世の治世である十七世紀。冒頭で『ドン・キホーテ』
   が触れられているように、執筆時から見ても「古き良き時代」として描かれているの
   がミソだ。乱暴な言い方をすれば、本邦における『南総里見八犬伝』みたいなものと
   言えるかもしれない。(ダルタニャンは仁の珠を持つスーパー少年・犬江親兵衛の
   ような位置づけ。凶悪な婦人ミレディはさしずめ悪女・舟虫といったところだろう
   か。)
   本作で描かれるのは主人公の青年ダルタニャンと、トレヴィル卿に仕える三銃士
   (元貴族で父親のようなアトス、豪胆だがおっちょこちょいのポルトス、聖職に憧れ
   思慮深いアラミス)の出会いと友情、そして恋に冒険。長い物語だが、スピード感溢
   れる展開で飽きさせないのはさすが。ひとつ気にくわないところがあるとすれば、ダ
   ルタニャンたちに舞い込む危機は全て王侯貴族たちの色恋沙汰が原因だったりする点
   だろうか。そりゃあフランス革命がおこるわけだよなあ(笑)。
『谷崎純一郎犯罪小説集』 集英社文庫
  *日本ミステリの黎明期に文豪が書いた秀作4篇を収録。「途上」と「白昼鬼語」は特
   に好いなー
『エレンディラ』 G・ガルシア=マルケス ちくま文庫
  *4月17日に訃報を聞いた。『百年の孤独』は自分の最愛の本の一冊でもある。そんな
   折、学生時代に読んだきりの本書をふと古本屋で見かけ、つい手に取ってしまった。
   改めて読んでみたところ、著者が脂の乗り切った時期に書かれた短篇集だけあって、
   七篇の収録作はどれも大変に面白い。冒頭の「大きな翼のある、ひどく年取った男」
   はディヴィッド・アーモンド『肩甲骨は翼のなごり』の元ネタであるかのような正体
   不明の老人が不気味。続く「失われた時の海」では、海から漂ってくるバラの香りや
   死者の国などが出てきて、これもまた魔術的リアリズムの見本のよう。しかし圧巻は
   何と言っても、巻末に収録された「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲
   惨の物語」だろう。ラテン・アメリカ文学が自分の中で再びブームになりつつあるよ
   うだ。
『ハルさん』 藤野恵美 創元推理文庫
  *人形作家の父親・ハルさんが亡き妻・瑠美子さんとともに見守る娘の成長と、心温ま
   る日常の謎の物語。中高生の本好きな子に読ませるとすごくいいんじゃないかな。
   のんびり過ごす休日の午後の読書にぴったりした一冊。
『古代の遺物』 ジョン・クロウリー 国書刊行会
  *クロウリーの新作は本当に久しぶり。『エンジン・サマー』の再刊から数えても5年
   半、その前だと『リトル・ビッグ(上下)』から17年、短篇集であれば『ナイチン
   ゲールは夜に歌う』から17年半ぶりとなる。中身は狭義のSFから幻想小説までバラエ
   ティに飛んだ作品集となっていて、巻末の普通小説「シェイクスピアのヒロインたち
   の少女時代」も圧巻。久々の巨匠の技を存分に堪能した。ふと思ったのだが、クロウ
   リーはジーン・ウルフと同様に、読者の「読み解く力」をとても信頼している気がす
   る。だからこそ、人間には理解出来ぬ世界をありのままに描くことが出来るのではな
   いだろうか。ウルフとはまた違った意味で誠実な書き手といえる。(ただし相応しい
   呼び名は“騙り手”ではなくオルフェかも知れない。)
『本棚探偵最後の挨拶』 喜国雅彦 双葉社
  *ミステリと古本をネタにしたエッセイの第四弾。東日本大震災に触れた「本の力」
   はほろりとくるし、毎年恒例の日下三蔵氏のご自宅訪問(目的は蔵書整理のボラン
   ティア)はいつ読んでも鉄板ネタ。今回は北原尚彦氏がとてもいい味を出している。
   本書で取り敢えず一区切りなのだそうだが、これからも何か別の形で構わないので、
   氏のエッセイが読めると嬉しいなあ。
『オマル』 ロラン・ジュヌフォール 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
  *現代フランスSF界を代表する著者の人気シリーズの第一作。基本的には正統派の冒険
   SFなのだけれど、味わいはかつて大好きだったフランスSFの数々を彷彿とさせる。
   とにかく広大な世界が広がる惑星オマルの生態系や異星人が混在する複雑な社会シス
   テムなど、雰囲気は英米の類似作品とは一線を画して、如何にもフランスといった感
   じ。(映画「ファンタスティック・プラネット」の一種独特で不気味さにも共通する
   雰囲気があるかも。)物語の骨格も『ハイペリオン』など先行する作品を踏まえたも
   のでしっかりしているし、往年のサンリオSF文庫のピエール・プロ『この狂乱するサ
   ーカス』にも似た大仕掛けもあってかなり愉しめた。
『カフカ寓話集』 池内紀/編訳 岩波文庫
  *『カフカ短篇集』と同じ編者による作品集の第二弾。ごく短い断章も数多くて、前作
   の補遺に当たる感じだろうか。こうしてまとめて読んでくると、カフカの小説は無理
   に文学的に深読みしなくても、素直に読んで面白ければそれでいいのではないか、と
   いう気もする。特に好いのは「皇帝の使者」「小さな寓話」「柩」「巣穴」「断食芸
   人」あたり。「歌姫ヨゼフィーネ、あるいは二十日鼠族」のとぼけた雰囲気も悪くな
   い。
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