2014年3月の読了本

『チョコレートの世界史』 武田尚子 中公新書
  *コーヒー豆とよく似たプランテーション農業や植民地経営といった歴史を持つカカオ
   について、ココアおよびチョコレートの受容と産業化の観点から解き明かした本。
   コーヒ―と違うのは、収穫までは確かに1次産業だが、加工の段階までいくと先進国で
   の2次産業(食品工業)に変わるところだろうか。チョコレートを買う意識がちょっと
   変わった。
『剪燈新話』 瞿佑 東洋文庫
  *題は「せんとうしんわ」と読む。浅井了意の『伽婢子(とぎぼうこ)』や上田秋成の
   『雨月物語』に三遊亭圓朝の『怪談牡丹燈籠』といった、本邦の名立たる怪異譚に
   直接間接に大きな影響を与えた中国の伝奇物語集。14世紀末に明の瞿佑(くゆう)
   によって書かれた。『唐代伝奇集』とか『神仙伝』『聊斎志異』など中国の伝奇物語
   は好きで色々読んできたが、実は東洋文庫に手を出したのは今回が初めて。本書には
   元の20話に付録として2話の合計22話の物語が収録されている。どれも怪異や人情に
   溢れたもので面白いが、特に気に入ったのは「金鳳釵記(鳳凰の金のかんざし)」/
   「令狐生冥夢録(地獄の夢)」/「牡丹灯記(牡丹燈籠)」「永州野廟記(永州の
   古廟)」/「申陽洞記(申陽の洞窟)」/「鑑湖夜泛記(鑑湖に舟を浮べて)」あた
   りかな。結構自分好みなのが多かった。死後も数年間は想いの人と過ごすことが出来
   る、もしくは来世に添い遂げることが出来る――という話が多いのは、当時の中国の
   死生観を反映しているとともに、宋が滅んで戦乱の世になり貧しかったり一家離散に
   なったりという世の中で、そのように考えることで少しでも心の慰みにしようという
   表れだろう。技巧を凝らした近代西洋の怪奇小説も好きだが、素朴な味わいの中国伝
   奇物も好い。そのうち円朝の『怪談牡丹灯籠』も読んでみようかな。本書の「牡丹灯
   記」がどう変わったかが楽しみ。それにしても上田秋成の「吉備津の釜」まで「牡丹
   燈記」を基にしているとは。迂闊にも解説を読むまで全く気付かなかった。言われて
   みれば確かに…。
『これはペンです』 円城塔 新潮文庫
  *「叔父」と「姪」、「書くこと」と「読むこと」、そして「意識/自分とは何か」
   と「現実/夢とは何か」といった事柄の周りを、ぐるぐると廻りながら問いかける
   奇想の作品集。前者(叔父・書くこと・意識/自分)について書かれた「これはペン
   です」と後者(姪・読むこと・現実/夢)について書かれた「良い夜を持っている」
   の2短篇を収録。ジャンルとしてはメタフィクションになるのだろうし、明確に示さ
   れたものなど何もないのだけれど、迷いながら読み進む過程そのものが面白い。
   この作者の本を全て読んだわけでは無いが、いずれの作品も「読むこと」が好きな
   人にはきっと堪らないのではないかなあ。
『ロング・グッドバイ』 レイモンド・チャンドラー ハヤカワ文庫
  *村上春樹訳。別訳で『長いお別れ』という題名でも出ているが、こちらは70ページ
   ほど多い完訳版。私立探偵フィリップ・マーロウが活躍するシリーズの最高峰とい
   われている作品だが、実は読むのは初めて。5月に開催予定の読書会に向けて読んで
   みた。(ただいまハードボイルドの勉強中といったところ。)自分としては面白かっ
   たけれど、この手のジャンルにハマる人と受け付けない人がいるというのは何となく
   わかる気がするなあ。(詳しい感想は読書会に向けてまた日を改めて。)余禄として
   村上春樹の文体がハードボイルドの影響を受けているのがわかったのは良かった。
『生命(ゼーレ)の哲学』 岩渕輝 春秋社
  *19世紀にヨーロッパで活躍した“知の巨人”グスタフ・フェヒナーの生涯と彼の思想
   の変遷を辿るノンフィクション。現在では忘れられたに等しい人物の足跡を丹念に調
   べた本邦初の評伝だそうで、値段も高かったが満足感も高かった。
『海遊記』 仁木英之 文春文庫
  *中国を舞台にした仙人ファンタジー『僕僕先生』の作者による新しいシリーズ。副題
   は「義浄西征伝」とある。法顕・玄奘とならぶ天竺取経の3大スターであり、”海路”
   (海のシルクロード)を通って天竺入りした義浄を主人公とした一大冒険絵巻だ。
   本書では貧困ゆえに親から見捨てられた少年・張文明が慧智という僧侶に救われ仏門
   に入るところから、やがて衆生を救うために真の教えを求めて天竺へと向かい、波瀾
   万丈の冒険の後についにインドの地に足を踏みいれるところまでが描かれる。描き下
   ろしの短篇(サイドストーリー)もついてお買い得。途中には海賊との追いつ追われ
   つの逃亡劇や、死霊による怪異、そして海の魔物による危機が次々と描かれてスリル
   も満点。義浄という地味な(失礼!)キャラを使って立派なエンタテイメント小説に
   仕上げた力量はあいかわらず大したものだ。次巻以降は天竺での冒険と中国に帰るま
   での物語が続いていく気配。『僕僕先生』ともども、続きを追いかけなければいけな
   いシリーズが増えたようだ。
『ゴーレム』 マイリンク 白水uブックス
  *グスタフ・マイリンクによる幻想文学の有名な傑作が白水uブックス「永遠の本棚」
   のシリーズに加わった。(このシリーズは本当に良いシリーズ。)ひとことで言え
   ば、不完全な存在(ゴーレム)たる主人公ペルナートが様々なイニシエーションを
   経て完全なる存在(ヘルマフロデイート)へと至る錬金術的小説。前半は記憶を失
   いプラハの町を徘徊する主人公が夢野久作の『ドグラ・マグラ』を思わせるような
   悪夢の世界だが、後半はドストエフスキー『罪と罰』を経て急転直下、カフカの
   『審判』へと至る。カバラに基づいた幻想も見事な傑作。
『黙示録』 岡田温司 岩波新書
  *過去から様々な形でヨーロッパの思想に影響を与えてきた黙示録について、そのイ
   メージの形成と現代までつづく影響を考察した一冊。最終章では様々な映画や絵画
   に終末思想がいかに影を落としているかが、具体例で示されて大変に面白い。
   (取り上げられる映画は「原子怪獣現わる」「放射能X」「ゴジラ」「博士の異常
   な愛情」「サクリファイス」などなど。)
『書物愛[日本編]』 紀田順一郎/編 創元ライブラリ
  *本をテーマに、ミステリから文学の香り高いもの、蒐集家から古本業界のディープ
   な話題までバラエティに富んだ作品を収録した、いかにも編者らしいセンスに溢れた
   アンソロジー。もともとこの手の話は好きで昔から目につくと読んでいたので、本書
   の収録作も実は半分くらいは読んでいた。でも面白いものは何度読んでも面白いなあ
   (笑)。書物への愛には、ハードウェア/物体としての書籍に対するものと、ソフト
   ウェア/著作および読書という行為に対しての3つがあると思うが、古本ネタの物語
   はそれら全ての要素をバランスよく扱えるからこそ、昔から本好きの心を惹きつけて
   やまないのではないだろうか。初読・既読をとりまぜて、特に気に入ったものは夢野
   久作「悪魔祈祷書」/出久根達郎「楽しい厄日」/稲毛恍「嗤い声」/紀田順一郎
   「展覧会の客」あたりか。
『進化とはなにか』 今西錦司 講談社学術文庫
  *本邦における文化人類学の巨星であり、今に続くサル学の隆盛の礎を築いた人物によ
   る、進化論関連の論文を集めたもの...というと聞こえはいいが、正直いうと一種
   のトンデモ本的な疑似科学。(苦笑)昔から著者の「棲み分け理論」は噂だけは聞い
   ていたが、なかなか読むだけの気力がなかった。今回なぜ読んだかというと、『生命
   (ゼーレ)の哲学』でグスタフ・フェヒナーの思想に触れたから。おそらく共通する
   ところがあるのではないかと思って目を通したのだが、自分のみる限りやはり共通す
   る部分が多いように感じる。著者の思想そのものというより、そのように主張する
   著者自体がとても興味深かった。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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