2014年2月の読了本

 今月は残念。仕事が忙しくて本が全然読めなかった。自分のノルマ(目標)としている月10冊にも届かず。早く年度末が終わって余裕が出来るといいなあ。

『ピース』 ジーン・ウルフ 国書刊行会
  *この2年待ちに待ったウルフの新刊。期待に違わぬ素晴らしい出来だった。先般のプリ
   ースト『夢幻諸島から』に続いて幻惑される愉しさを存分に味わうことができた一冊。
   これだけの難物を仕掛けもろとも的確に日本語に移し替えるには、翻訳を担当された
   西崎憲氏と館野浩美氏は大変なご苦労だったろうと思う。その分こちらは愉しい思いを
   させてもらったわけだが。ある男性が自らの半生を物語る…という言葉では到底表現し
   きれないが、表面的にさらっと読んでも面白いし、所々に感じる違和感を手掛かりに
   語り手が隠している(と思われる)“真実”を推測するのもまた愉しい。
『脳には妙なクセがある』 池谷裕二 扶桑社新書
  *これまでの一連の著作と同様、脳研究の最前線のエピソードから面白いところをかい摘
   んで、エッセイ風にしたためた小文集。2012年に単行本として刊行されたものがもう
   新書になった。
『ビブリア古書堂の事件手帖5』 三上延 メディアワークス文庫
  *いつの間にか5巻まできた。そろそろ物語も佳境にはいってきた感じ。今回取り上げら
   れた本はブローディガン『愛のゆくえ』、雑誌『彷書月刊』、手塚治虫『ブラック・
   ジャック』、寺山修司『われに五月と』の4つ。ミステリとしては第二話の『ブラッ
   ク・ジャック』がいちばん好かったかな。
『機械探偵クリク・ロボット』 カミ ハヤカワ・ミステリ文庫
  *フランスの作家・カミによるユーモアミステリ。天才科学者ジュール・アルキメデス
   博士と機械探偵クリクが活躍する物語で、加納一朗氏の『透明少年』『怪盗ラレロ』
   といった一連のユーモアジュブナイルを思い出す作風だった。著者による挿絵も愉し
   くて、全部で2つの中篇しか書かれていないのがとても残念。今回の文庫版は2010年
   のハヤカワ・ポケット・ミステリ版に、特別付録としてカミのコント2篇を追加収録
   していてさらにお買い得となっている。
『かくれんぼ・毒の園 他五篇』 ソログープ 岩波文庫
  *19世紀末のロシア前期象徴主義を代表する詩人・作家である、フョードル・ソログー
   プの7作品を収録した短篇集。岩波文庫1937年刊の『かくれんぼ・白い母 他二篇』
   と1952年創元文庫刊の『毒の園 他』を底本にしており、文体にはいささか古風な印
   象も感じるが、本書の場合はそれが逆にいい味を出していると思う。いずれも子供達
   が主人公の物語なのだけれど、明るい話ではない。どことなく死の影がつきまとい、
   頽廃と幻想に彩られた作品ばかり。また哀しくもある。(日本でいえば小川未明の童
   話の雰囲気に近いかな。)巻末に収録された戯曲「死の勝利」は少し経路が変わって
   魔女と王の物語だが、これもまた好かった。収録作で他に気に入ったのは「かくれん
   ぼ」「小羊」「毒の園」あたりだろうか。(ところで「毒の園」は以前どこかで同じ
   ような設定の物語を読んだことがあるのだが思い出せない。最近こんなのが多い。/
   苦笑)
『痴愚神礼讃』 エラスムス 中公文庫
  *中世ヨーロッパの司教であるエラスムスが、当時の権力者や聖職者層の乱れを皮肉っ
   て書いた本。人の愚かさを司る女神(痴愚神)が、愚かさのもつ“功徳”とそれを実
   践する人々の様子を滔々と語る。ラテン語原典からの直接訳で、訳文もこなれていて
   とても読みやすい。たまに古典が無性に読みたくなるんだよね。
『ヴァージニア・ウルフ短篇集』 西崎憲/編訳 ちくま文庫
  *「20世紀のモダニズム文学を代表するイギリスの作家」ということだが、恥ずかしな
   がら初めて読んだ。解説によれば「意識の流れ(Stream of Consciousness)」
   の手法をもって、小説界に確信をもたらした作家とのこと。非常に濃密な文章が特徴
   で、本書は僅か200ページあまりの本なのに3倍ほどの厚さのものを読んだような感じ
   がした。まるで泥濘の中をすり足で進むような感覚で、例えばプルーンか何かを絞り
   煮詰めたエキスのような濃厚感もある。(どことなく甘美さとほろ苦さも少し。)そ
   して読後に残るのは、孤独と混乱と静謐と清浄感とでも言えばよいだろうか。
   視覚的ではなく、極めて言語的な方に振れている作家のような気がする。自分の印象
   ではレオノーラ・カリントンに似ているかなあ。そして、同じ「意識の流れ」を扱っ
   ていても、アンナ・カヴァンとは違う、とも…。自分が特に気に入ったのは次の作品。
   「青と緑」ふたつの色を巡って広がるイマジネーションの世界。硬質なファンタジー
        を思わせる。
   「乳母ラグトンのカーテン」カーテンに描かれた動物たちが動き出す。
   「サーチライト」アイヴィミー夫人の曾祖父が望遠鏡を覗く物語
   「月曜日あるいは火曜日」青鷺は飛び、色とりどりの断章が閃く。
   「キュー植物園」ある熱い日の花壇を通り過ぎる人々や生き物たちのスケッチ。
   「池の魅力」これもまた一つの池を巡る想念の断章。
   そしてラストの「書かれなかった長篇小説」は、列車(駅?)で出会ったひとりの女
   性を巡ってイメージされる数多くの物語が錯綜し、これもまた好い。他には「ラピン
   とラピノヴァ」(二人の男女の心の移り変わりを描く)や「堅固な対象」(ガラスな
   どを拾い集める男)といった、底意地が悪くてじわっと嫌な話もあるが、どうやら彼
   女はそれが持ち味でもあるらしい。ますます「食えない作家」だ。(褒めてます。)
『虹をつかむ男』 ジェイムズ・サーバー ハヤカワepi文庫
  *こちらはV・ウルフとは対照的でとても読みやすい。フレドリック・ブラウンやロバ
   ート・シェクリィ、あるいはロアルド・ダールやチャールズ・ボーモントのように、
   都会的でそれでいてヘンテコな洒落た話が詰まった短篇集。表題作や「空の歩道」
   「ツグミの巣ごもり」など、短いけれどピリッとしたスパイスの利いた掌編が持ち味
   で、“ユーモア・スケッチ”というのがふさわしい感じ。星新一のエッセイ『進化し
   た猿たち』で紹介されていたような、新聞のヒトコマ漫画の味に近いといえばいいの
   だろうか。あのエッセイを読んで感じたのは、サーバーもその一員である「異色作家
   たち」の作品に感じる印象と、結局のところ同じものだったというわけだ。収録作の
   なかでは、とりわけ「マクベス殺人事件」が(ミステリ好きの端くれとしては)大変
   に気に入った。ただし「ホテル・メトロポール午前二時」にはじまるラスト3篇は、
   ユーモアの成分が薄めで少し毛色が違う。ボーナストラックみたいなものかな。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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