『翻訳ミステリー大賞シンジケート名古屋読書会/第10回』

 さる2月15日に「翻訳ミステリー大賞シンジケート」主催の読書会に参加して大変愉しい思いをしてきたので、熱い余韻が冷めぬ間にレポートにまとめておきたい。文章がきれいにまとまっていないが、そのうち正式なレビューが公開されるはずなので、これは速報のようなものと思ってご容赦いただきたい。

 まずは『翻訳ミステリー大賞シンジケート読書会』についてのご説明から。これは東京や大阪、札幌など全国各地で開催されている本好きを対象にしたイベントの一種。“翻訳ミステリー○○読書会”(○○には各地の地名が入る)という名前で数か月に一度開かれている。(*)

   *…念のために「読書会」とは何か簡単に説明すると、予め決めた課題本を参加者全員
     で読んできて、互いにその本の感想を述べ合うというものだ。(よく勘違いされる
     が、決してその場に集まって無言で本を読み合う会ではない。/笑)
 
 名古屋は全国でも活動が活発な地区らしく、書評家の大矢博子氏を幹事にしてこれまで9回の実施を重ねてきた。今回は記念すべき10回目ということで、昨年関西から名古屋に引っ越してこられた翻訳家・古沢嘉通氏をゲストに迎えて、『夢幻諸島から』(C・プリースト著)を取り上げることに。古沢氏はミステリファンにはおなじみのマイクル・コナリーの作品も訳しておられるのだが、英国SF協会賞などを受賞したプリーストの代表作にして、ミステリとしても読める本作にあえてチャレンジすることになったとのこと。(ちなみに『夢幻諸島から』は、2014年度版のSFブックガイド「SFが読みたい!」の年間ベスト投票でも堂々の海外篇1位を獲得している。)
 しかし自分も含めて近隣のSF読みが結構参加したことで、ふたを開けてみれば普段より多い40名近い人が参加。まるでミステリ好きとSF好きのコラボ読書会のような感じになっていた。

 開催場所は名古屋駅前にある貸会議室。受付開始は14:55からだが、せっかくなので昼過ぎに家を出て駅前のジュンク堂で本を物色したあと、JR高島屋の上にある献血ルームで好い景色を眺めながら今年初の献血。無料のドリンクを飲みながら本を読んで時間まで過ごすことに。
 地図をみながら時間ほぼぴったりに会場について会計を済ませると、当日のシステムの説明があった。それによれば今回は人数が多いのでテーブルを3つに分け、前半の80分はグループ単位でのディスカッションを行い、ついで休憩ののち全員での意見交換を行うとのこと。予め振り分けられたテーブルのシマに行って荷物を置くと、別のテーブルにはSF関係の友人の顔もちらほら。どうやらSF関係者は適当に振り分けられたらしい。自分のテーブルのリーダー(進行役)は幹事の大矢氏ご本人だという話を聞いて俄然緊張するが、古くからの友人のY氏も同じテーブルだったので一安心。大矢氏による詳しい段取りの説明を受けている間に、強風のための電車遅延で到着が遅れたスタッフの方も無事に到着してレジュメも配られた。テキパキと手際よく進むのでみていて気持ちがいい。当日の段取りは概ね次のとおりだ。

 1.3つのテーブルでリーダーの司会により参加者の自己紹介。(事前の問い合わせ通りに
   準備されていた名札を胸に下げる。名札に書かれている名前は本名やニックネームなど
   さまざまなものが事前申請通りに書かれている。)
 2.自己紹介とともに、『夢幻諸島から』全体の感想と収録短篇(注:本書はガイドブック
   の体裁をした連作短篇集)のなかから、自分の印象にのこった島の物語(=短篇)を述
   べる。各自の感想はリーダーがホワイトボードに次々と板書されていく。
 3.一巡したところでフリーディスカッションに。謎と矛盾にみちた本書の中でとりわけ
   疑問に思った点について自由に意見を出し合うことで、自分では思いつかなかったよう
   な解釈が他の参加者の方から述べられる。そしてそれが触媒となってまた新たな意見が
   出され、ディスカッションは次第に熱を帯びたものになっていく。
 4.時間がきたら一旦ディスカッションを止めて、次いで「本書の次に読むとしたらどんな
   本がお薦めか?」というテーマで意見を出し合う。(予想もしなかった本の名前が出た
   りしてこれもまた愉しい。)以上でグループ討議は終了。ここまでで、いつの間にか
   1時間半以上も過ぎていたので驚いた。
 5.休憩の間に部屋を模様替え。各テーブルのホワイトボードを横一列に並べ、その前に全
   員が椅子を移動して車座になる。各グループのリーダーが順番にそれぞれのテーブルで
   出た意見(本書でいえば謎に対する仮説など)を紹介し、板書を見ながら参加者同士に
   よる意見交換を行う。
 6.最後に事前に募集した「推薦文コンテスト」の作品紹介と優秀者の表彰が行われて終了。

 ざっと書いただけでも、とてもうまい運営だったことがお分かりになると思う。正直いってこれまで参加した色々な読書会の中でもピカイチの進行だった。
 素晴らしいのは当日の段取りばかりではない。天候の都合で残念ながら配布が開始ギリギリになってしまったが、当日配られた全12ページのレジュメも素晴らしい出来だった。本来なら受け付け時に渡されて開始までに目を通せるように作られていたのだろうが、読書会終了後に改めて目を通すとこれがまた良い出来。著者プロフィールや邦訳作品紹介といった基本情報はもちろん、「夢幻諸島の旅行者タイプ別お勧めツアー」とか「登場人物一覧」(錯綜する物語なので読書会中もこのリストが有り難かった。)などが載っていて、眺めているだけでも本書を読んだ時の興奮と読書会の雰囲気が甦ってくるようだ。(自分が寄稿した小文も載っているがそれはまあご愛敬。/苦笑)イラストレーターのよしだ熊猫氏によるイメージイラストもあり、美しく見やすいレイアウトはさすが10回を数える老舗読書会の面目躍如といったところだろうか。うちの会社の若い奴にプレゼンテーション資料の見本として見せたいくらいだ。(笑)

 本書を読んでいない方には何のことか分からないが、せっかくなので当日のディスカッションで出た意見の中から、自分が特に印象に残ったものを以下に挙げておきたい。(おそらく後日詳細なレビューが発行されるとは思うが、とりあえずの備忘録として。)これは一般的なミステリファンの方の意見として割と代表的なものではないだろうか。少なくともプリーストのファンを自認する大方のSF読みの意見とは違っていると思う。大変に面白かった。
 ■ミステリファンは本書のように答えが明示されていない物語にも、何とかして整合性の取
  れた唯一の解を見つけ出そうとする。
 ■個々の短篇は面白い物も肌に合わないものもあり、全体を通すとデパートの物産展やおせち
  料理のお重、もしくは高級チョコの詰め合わせやバイキング料理のような雑多な印象。
 ■序章から最初のあたりが読みにくくて挫折。訳者の古沢氏のアドバイスに従って凶悪昆虫
  スライムが出てくる「大オーブラック」まで飛ばして初めて読み進むことができた。最後
  に序章に戻ったが矛盾だらけでやっぱりよく分からない。
 ■パントマイム芸人・コミサーを殺した犯人は誰か?というミステリーチックなところがとて
  も印象に残るが、結論がないのでフラストレーションが溜まる。
 ■印象に残ったエピソードおよび感想は、「不老不死の処理をおこなう島・コラゴ」「作家
  チェスター・カムストンと批評家エズラ・カウラーにまつわる島・ローザセイおよびピケ
  イ」「やたら多くのエピソードに顔を出しては女性に手を出す画家ドリッド・バーサース
  ト(出てくる意味が分からない)」「ラストに配置されたヨーとオイのエロチックな話
  ヤネット(とても異質)」「軍用の無人機が出てくるミークァ/トレム(ひとつの独立し
  た作品としてみても傑作)」「死せる塔/シーヴル(塔が不気味、象徴的に使われるガラ
  スの意味が分からない)」「ローザセイでカウラーが出会う煙のようなチェスターの亡霊
  (何の意味があるのか?)」「カウラーとその替え玉のダント・ウィラーの一連のエピソ
  ード(どちらが先に死んだのか?)」などなど。

 続いてディスカッションの中から出てきた仮説をいくつか。(作品中に解答はないので、このような解釈もできるという一例としてご紹介。)
 ■あちこちにの島に穴をあけては立ち入り禁止にするヨーとオイの物語は神話性が高い。
  実は古事記のイザナギ・イザナミのような「国産み(くにうみ)」の暗喩ではないのか。
 ■プリースト作品に多くでてくるガラスは、角度によって透明性と鏡面性をもつため、
  (同様によく登場する双子と同じく)両義性の象徴として使われている。
   ※これは古沢氏による参考コメント
 ■あちこちに顔を出すバーサーストは実は不死人だったのではないか?
 ■ローザセイの煙のような亡霊にカウラーが触れ、その後ウォルターと会った時に実際に血
  がついているのは、実はスライムに襲われたことの暗示ではないか。とすれば、カウラー
  こそが実は不死人であり、ウィラーとの死亡時期の矛盾も隠遁が理由ではないのか。

 読書会自体はこのようにとても充実した内容で終了時刻の18:00まで白熱したものになった。殆どの人はどうやら恒例となっているらしい2次会に参加するようで、そのまま近所のスペイン料理居酒屋へとなだれ込むことに。(自分も友人数名とともに参加。)まだまだ話し語り足りない諸々を(ここでは書けないような裏話も含めて/笑)、古沢氏やスタッフの方々とすることができた。いちおう2次会は2時間でお開きになったのだが、名残惜しい面々はいくつかのグループに分かれてそのまま3次会へ。我々も喫茶店で珈琲を飲みながらミステリとSF、黒岩涙香や江戸川乱歩、シャーロック・ホームズにスタニスワフ・レムといったジャンル横断の話に花をさかせ、閉店の22:00までおよそ7時間余りを本の話に終始するという、活字中毒者にとってはまるで夢のような時間を過ごすことが出来た。多くの新しい方と親交を深めたり友人と旧交を温めたりできたのも、さらに嬉しいことではあった。あまりに愉しかったので帰りの電車で駅を乗り過ごしてしまい、吹きさらしのホームで折り返しの電車を20分も待つ羽目になったのは笑い話。
 最後になるが、今回これほどまでに充実した経験が出来たのは、入念な準備と素晴らしい当日の進行をしてくださった大矢氏を始めとするスタッフの皆さん、そして不慣れなSFというジャンルにも果敢に挑み、深い読みと活発な意見交換をしてくださった常連参加者の皆さんのおかげということで、この場を借りて厚くお礼を申しあげたい。どうも有難うございました。

<追記>
 そんなこんなで初参戦した読書会ではあったが、結果からすると大成功。このままやみつきになってしまいそうな気配すらある(苦笑)。次回は5月、課題図書はチャンドラーの『長いお別れ』とのこと。ハードボイルドは殆ど読んだことが無いので若干不安もあるが、親切なスタッフのみなさんにお薦めされたこともあり、また参加してみようかと考えているところではある。

<追記2>
 ゆうべ急いで書いた記事だったので、見返すとあちこちに抜けがあった。本当は名古屋在住の推理作家・太田忠司氏が一般参加されていた話も書きたかったのだが、やはり慌てると宜しくないね。せめて会場で出た「次に読むのにお奨めの本」の中から、特に自分の印象に残ったものを挙げておくことにしよう。選考の基準は人それぞれで、「答えがない話」だとか「島めぐりの話」とか、「変な生き物が出てくる」等々。なるほどと思うのもあれば、ちょっとこじつけじゃないの?というのもありとても愉しかった。(本当はこれの何倍もあったのだが、とても全部は書きとめられなかった。)

 『アブサロム、アブサロム!』(ウィリアム・フォークナー)
 『紙葉の家』(マーク・Z・ダニエレブスキー)
 『フィッシュ・ストーリー』伊坂幸太郎
 『ゲド戦記』アーシュラ・K・ル=グイン
 『ヴァーミリオン・サンズ』J・G・バラード
 『アバラット』クライブ・パーカー
 『グラン・ヴァカンス』飛浩隆
 『ドリトル先生シリーズ』ヒュー・ロフティング
 『ムーミンシリーズ』トーベ・ヤンソン
 『高丘親王航海記』澁澤龍彦  etc.

 ちなみに自分が選んだのは『ミステリウム』『パラダイス・モーテル』(いずれもマイクル・マコーマック)や『酔郷譚』(倉橋由美子)、『十二国記』(小野不由美)といったあたり。もちろんプリーストの他の作品『限りなき夏』『奇術師』『双生児』なんかも出ていたのでご心配なく。(笑) 


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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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