2013年11月の読了本

 仕事が年末進行に入りなかなか思うように読めないですが、まあぼちぼちとやっております。

『予期せぬ結末2 トロイメライ』 チャールズ・ボーモント 扶桑社ミステリー
  *“異色作家短篇”の本邦初訳や未収録作だけを集めた「予期せぬ結末」シリーズの第2弾。
   今回はチャールズ・ボーモントで、前半は幻想系、後半はSF系の作品を収録。この人の
   作品をまとめて読んだのは初めてだが、ブラッドベリやマシスンもしくはF・ブラウンの
   ような味わいだね。本書を読む限りでは同じ“奇妙な味”に属すると言っても、前巻の
   コリアに比べるとだいぶ素直な話が多い感じがする。こういう本が高校生の頃に読めた
   ら良かったかな。不気味な盲目の男が怖い「とむらいの唄」/正統派のモンスター物
   「フリッチェン」/世界最後の森の物語「老人と森」/最期の時を迎えようとする男と
   神父「終油の秘蹟」あたりが好み。
『イスラムの神秘主義』 R.A.ニコルソン 平凡社ライブラリー
  *副題には「スーフィズム入門」とある。イスラム教系の神秘主義であるスーフィズムの概
   要についてまとめた本。くるくると回転する踊りのイメージしかなかったけど、もっと広
   い概念だった。本書によればスーフィズムとは、厳格な唯一神への絶対的帰依を要求する
   正統派のイスラム教とは合いいれない、もっと汎神論的かつ思弁的な信仰のようだ。たま
   には「お勉強」もしなくちゃね。(笑)
『ブラインドサイト(上・下)』 ピーター・ワッツ 創元SF文庫
  *「地球に突如現れた謎の探査機。人類は地球の存亡を賭けて太陽系外の深宇宙に一隻の宇
   宙船を送り込んだ。乗組員は吸血鬼/四重人格の言語学者/感覚器官の大半を機械化した
   生物学者/平和主義者の軍人、そして脳の半分を失い特殊な観察能力を得た男の5人…」
   本屋でたまたま見かけ、気をそそられる設定と帯の“現代ハードSFの最高到達点”という
   謳い文句に惹かれて久々の衝動買い。印象としてはグレッグ・イーガンやテッド・チャン
   といったあたりの作品をイメージさせる作風だった。異星生命体との接触の様子は、小松
   左京『さよならジュピター』(上巻の方)を彷彿とさせ迫力満点。秋の夜長の読書を満喫
   した。
   物語は異星の生命体とのコンタクトを軸に進むわけだが、そうなると頭に思い浮かぶのは
   レムやストルガツキーの諸作品。レムの場合は「知性とは何か?」という哲学的命題、
   ストルガツキーは「コミュニケーションの持つ政治性」がメインテーマになるのに対し、
   本書の場合は「意識」(自意識や自我と置き換えてもOK)がテーマとなっている。認知
   科学の知見を踏まえての問題提起もなかなかだった。「意識」を追及するのに異星の知性
   体まで出さなくても(どうせ出すなら「自我」なんてものじゃなく、知性そのものを追及
   するとか…)という気がしないでもないが、それなりに面白かったのでまあ良しとしよ
   う。(笑)
『「美妙な死体」の物語』 レオノーラ・カリントン 妖精文庫
  *今は無き月刊ペン社からでていた妖精文庫の一冊。同じく妖精文庫に収録の『耳らっぱ』
   の作者レオノーラ・カリントンによる作品集で、短篇集“「美妙な死体」の物語”と中篇
   「石の扉」を収録。前者はシュールでちょっと洒落たコントのような感じ。後者は物語と
   しての骨格はあって無きが如しだが、奔放なイメージで読ませる。(『耳らっぱ』より
   さらに話の筋は追いにくいかも。)
『怪奇小説日和』 西崎憲編訳 ちくま文庫
  *日本語の「こわい」という言葉には、“恐ろしい”という意味だけでなく、たとえば“気
   味が悪い”とか“変”といった意味も含んでいるように思う。自分のなかでは「怪奇」と
   いう言葉がまさそれ。(「恐怖」はもっと恐ろしさが先に立っているような…。)本書は
   そんな「怪奇」にぴったりな感じのアンソロジーだった。これに先立って出た『短篇小説
   日和』も不思議な話や不気味な話が満載だったが、本書は茶色や灰色のイメージで染まっ
   た「暗褐色の異色短篇集」とでもいうべき雰囲気がぴったりくる。本書を読んでからコッ
   パードがもっと読みたくて探しているんだけど『郵便局と蛇』が見つからないだよねえ、
   残念。
『トロイメライ』 池上永一 角川文庫
  *琉球時代の那覇を舞台にした作品集。「筑佐事(ちくさじ)/岡っ引き」の青年の武太
   (むた)を主人公にしたコージーミステリと言えなくもないが、さほど謎解きに重点が置
   かれているわけでは無い。三線を弾かせれば琉球一だが、普段はドジでオッチョコチョイ
   で人情に厚い…そんな武太が出会う様々な事件を通じて、おもしろ可笑しく時にホロリと
   させる人情噺と言った方が良いかも。女性であることを隠して女人禁制の首里城に仕官し
   た孫寧温の活躍を描く長篇『テンペスト』と同じ時代設定なので、前作の登場人物たちが
   入れ替わりゲスト出演するのも愉しい。第六夜(最終話)の「唄の浜」は著者のデビュー
   作にして第6回ファンタジーノベル大賞を受賞した『バガージマヌパナス』にも通じる雰
   囲気で好きだ。
『化鳥・三尺角』 泉鏡花 岩波文庫
  *どんな基準で選んだのかよく分からないが、怖い話が多めに収録されていたのが嬉しい。
   収録作は「化鳥」「清心庵」「三尺角」「木精(三尺角拾遺)」「朱日記」「第二菎蒻
   本」「革鞄の怪」「茸の舞姫」の8作品。人情噺の「三尺角」が、続篇の「木精」になっ
   た途端に怖い話になるのが好かった。
『記憶のしくみ(上)』 ラリー・R・スクワイア/エリック・R・カンデル 講談社ブルーバックス
  *まだ2009年に原著が刊行されたばかりの、記憶に関する最新研究を一般向けにまとめた
   科学解説本。分子生物学的なアプローチと心理学的なアプローチの組み合わせにより、
   過去30年余りの成果が俯瞰できる。今月は2巻組のうち上巻のみの刊行なので、12月に
   出る下巻が愉しみ。正月休みにでも読もうかな。
『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』 マックス・エルンスト 河出文庫
  *コラージュという手法の創始者であるエルンスト自身による、『百頭女』(1929)『慈善
   週間あるいは七大元素』(1934)とならぶコラージュ・ロマン3部作の2作目。(刊行は
   1930年)創作活動における自らの子供時代からの半生を書いた「M.E.の青春について
   の若干のデータ」と、シュルレアリスムにおけるコラージュについて書いた「ウィスキー
   海底への潜行」という2つのエッセイを付す。以前、愛知県美術館で開かれたエルンスト
   展に行った時に他の2冊は買ったのだが、この本だけは(主に予算の都合で/笑)買い漏
   らしていた。通俗な読み物の挿絵(銅版画)を使い、突拍子もなくシュールなイメージを
   具現化するエルンストの技は、まさにロートレアモンの「解剖台の上の、ミシンと雨傘の
   偶然の出会いのように美しい」という言葉を彷彿とさせる。物語の流れもつかみやすく、
   3部作の中では一番読みやすい本だった。
『9の扉』 北村薫 他 角川文庫
  *9人のミステリ作家によるリレー小説。ただしリレーといってもそれぞれの作品は独立し
   ていて、次の作家に「お題」を出して繋いでいくという趣向。一筋縄ではいかない人たち
   ばかりなので、前回の人の設定を巧く使って連作仕立てにしてみたりと読んでいて飽き
   ない。参加した作家は北村薫を始め、法月綸太郎/殊能将之/鳥飼否宇/麻耶雄嵩/竹本
   健治/貫井徳郎/歌野晶午/辻村深月という豪華な面々。個人的には早逝した殊能氏が
   最後に書いた作品「キラキラコウモリ」が収録されているのが感慨深い。話は結構ブラッ
   クなものが多くて、そうでなかったのは法月氏と辻村氏の2作品くらい。「9の黒い扉」
   といった方がいいかも知れないね(笑)。最後の辻村作品のラストが後味よく決まり、
   なおかつ最初の北村作品に繋がったのは気持ちよかった。アンソロジーとしても結構
   いい出来ではないかな。
『ボブ・ディラン』 湯浅学 岩波新書
  *ボブ・ディランの生い立ちからデビュー、そして現在に至るまでの音楽活動について綴っ
   たバイオグラフィー。あとがきに「ボブ・ディランとは、どのような活動をしてきたの
   か。それは何故なのか。それをわかるようにしたい。そう考えて書いた本だ」とあるよう
   に、なるべく私見を挟まず事実を中心に記述してあるのが好かった。(また当然のこと
   ではあるが)ディスコグラフィーにもなっているので、アルバムを探すときの参考にも
   なる。読んでいるうちに無性にディランの歌が聴きたくなってきて、CDラックを漁って
   「追憶のハイウェイ61」や「血の轍」を引っ張り出してしまった。著者が言う「ボブ・
   ディランがいなかったらロックはこうなっていなかった」というのは全くその通りであっ
   て、本書を読んで改めてディランの凄さと影響力の大きさを実感した。
『運命綺譚』 カーレン・ブリクセン ちくま文庫
  *デンマークの高名な物語作家による後期の作品集。ちなみに著者が英語で作品を発表する
   際の名前は「イサク・ディネセン(ディーネセン)」で、こちらの方がより知られている
   かも。物語の中に物語が混然と混じり、まるで豪奢なレースの織物を見るかのよう。比較
   的短い作品であってもまるで大長篇を読んだような充実感がある。短めの「水くぐる人」
   「指輪」と長めの「あらし」「不滅の物語」という、全部で4つの作品が収められている
   が、いずれもどこに連れて行かれるか全く展開が読めないという点では同じ。個人的には
   「あらし」と「不滅の物語」が長い分だけ”読みで”があったので好みかな。この前買っ
   ておいたイサク・ディネセン名義の『七つのゴシック物語』2冊も、読むのがとても愉し
   みになった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR