『ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展』 (名古屋市美術館)

 夏からずっと楽しみにしていた美術展『ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展』に行ってきた。1960年代初頭から4年余りの期間に亘り、芸術家の高松次郎(high)・赤瀬川原平(red)・中西夏之(center)の3人が結成していたグループ「ハイレッド・センター」の活動を中心に、“日本の熱い時代”を彩った前衛芸術を紹介する回顧展だ。行ってきたのは11月17日の日曜日。前日は仕事の関係でずっと立ちっ放しだったので疲れたのだが、どうしてもその日に観に行きたかった。なぜかというと、学芸員による解説会があるのはその日だけだったから。

 赤瀬川原平氏の本が(尾辻克彦名義の物も含めて)好きで昔から読んでいるのだが、とりわけ気に入っているのは『超芸術トマソン』と『東京ミキサー計画』の2冊(いずれもちくま文庫)。後者の『東京ミキサー計画』という本は、かつて氏を取り巻いていた若手芸術家たちが行っていた活動を記憶の彼方から蘇えらせて、当時の写真とともに書き綴ったもの。「読売アンデパンダン展」という無審査制の美術展への出品や、土方巽や小杉武久といった志を同じくする舞踏家や音楽家たちとの交流、そして模造千円札の制作により起訴されて有罪判決を受け、“芸術家”としての活動を縮小していくまでが生き生きと描かれている。
 それによると当時の彼らは美術館に大人しく飾られるような作品を作りあげるのではなく、そういう既存の芸術を否定する「反芸術」に取り組んでいたらしい。街に飛び出して一般の人々を巻き込む「ハプニング芸術」(今でいう「パフォーマンス」)を行ったり、観る人の常識に揺さぶりをかける不思議な作品を次々と生み出していたようだ。
 『東京ミキサー計画』や『反芸術アンパン』という氏の著作にはそれらの具体的な内容が克明に説明されていて、写真やイラストを何度も見返しては妄想を膨らませていた。ところが今回の展覧会にはそれらの実物が出展されるとのことではないか。これは行かねばならぬ ―― と固く心に決めていたというわけ。
 学芸員の方による解説を聞いたのはやはり良かった。先ほどの本はあくまでも赤瀬川氏の主観によるものであって、当事者ならではの臨場感はあっても客観的な判断には若干欠けるきらいがある。そこを補うのが当時の時代背景や美術史からみた評価であり、展示物を見る前にざっと頭に入れることで、本美術展をより一層愉しむことが出来たと思う。

 解説会はまずグループの名前の説明から入ったのだが、そこからしていきなり面白かった。ハイレッド・センターの基本コンセプトには「正体不明」というのがあったそうで、そもそも「ハイレッド・センター」という表記ひとつとっても正解は決まっていないとのこと。(ハイ・レッドセンターでもハイ・レッド・センターでもハイレッドセンターでもどれでもOKらしい。)
 今回の展示はハイレッド・センターおよびその前後の活動を追っていくものだそう。ハプニングやイベントによる芸術表現は物理的な作品としては存在しないので、展示はどうしても記録写真や印刷物が多くなる。そこで解説では例えば“前ハイレッド・センター期”にあたる「山手線のフェスティバル/通称“山手線事件”」というパフォーマンスの顛末などについて、関係者の裏話を交えて説明してくれていた(*)。
マルセル・デュシャンの「泉」のようなコンセプチュアル・アートは、作品の背景となるコンセプトが理解できないと面白みが半減してしまう。その意味では、わざわざこの日を選んで足を運んだのは正解だったようだ。

   *…それらが具体的にどんなものだったかはここでは省くが、写真を見ているだけでわく
     わくしてくる。もしも興味があれば前述の本を古本屋で探すか、もしくはこの美術展
     に足を運んで自分の目でご確認いただきたい。ひと言だけ付け加えるなら、山野浩一
     氏の不条理小説にも共通するような、“あの時代”に独特の空気がある感じがした。

 ちなみに今回の美術展の名前にある「直接行動」とは、(例えば右翼のテロ行為のように)違法も承知の上で直接的に結果を強く求める種類の社会活動のことだそう。深沢七郎の小説に端を発する「風流夢譚事件」といった右翼テロ事件や、60年安保の運動の挫折から左翼ゲリラが生まれた時代の空気を感じさせる言葉だ。
 そんな時代に彼らのような若手芸術家が行おうとしていたのは、美術館や画廊を飛び出して街に赴き、日常生活を送る不特定多数の人々を対象に彼らの心を直接「攪拌」(≒かき乱そう)という試み。まさしく「正体不明」の輩による、ゲリラ的なパフォーマンスだったというわけだ。(ちなみにこの「攪拌」という言葉は、当時の芸術家たちのキーワードになっていたみたい。『東京ミキサー計画』のミキサーもたぶん同じ意味で使われているのではないかな。)
 先ほども書いたが、展示はあくまで「直接行動」の記録(写真や資料類)がメイン。それでも赤瀬川氏の「ヴァギナのシーツ」や梱包芸術、中西夏之氏の「コンパクトオブジェ」の実物が展示してあり、見ることが出来たのはとても嬉しかった。ハイレッド・センター時代の“作品”では「シェルター計画」で作った等身大の全身写真や裏返しのカニ缶(宇宙の缶詰)、それに画廊を閉鎖する時に使った「閉鎖」「CLOSE」と書かれたステッカーなど。本で読んだだけの物が当時の雰囲気そのままに展示してあり、自分的には大満足だった。
 12月23日(月・祝)までやっているそうだから、前衛芸術に興味のある方(もしくは赤瀬川原平氏のファンの方は)一度足を運ばれてはいかがだろう。

<追記>
 今回は他の展示内容を確認せずに行ったのだが、常設展では企画展に合わせて(?)「現代の芸術/反芸術とパフォーマンス」というのがやっていた。更にルフィーノ・タマヨを中心とするメキシコの芸術家の絵画(ルソーやピカソを彷彿とさせるものあり)や、19~20世紀初頭にメキシコで活躍した民衆版画家ホセ・グアダルーペ・ポサダによる新聞版画も展示。後者では有名なカラペラ(骸骨)のシリーズが見られたのが望外の幸せだった。こちらの常設展も『ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展』と同じく12月23日までやっているそうなので是非是非。
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