「世界を変えた書物」展

 今回は予定していた本の感想を延期し、昨日行ってきた展示会の話をしたい。それは9月13日から29日まで名古屋市科学館で開かれている「世界を変えた書物」展という催し物。金沢工業大学が所蔵する、数多くの科学・工学系の稀覯書や初版本をまとめて100点ほど一挙に公開するものだ。
 会場は地下2階のイベントホール。企画展自体の入場は無料で、要るのは科学館への入館料(大人400円)だけというのもいい。名古屋市科学館は世界最大の規模とクオリティを誇るプラネタリウムがあり、休みともなれば子供連れで朝早くから長蛇の列となる。しかし今回は展示室だけの入館なので、横の自動販売機でとっととチケットを購入、並ばずに入ることが出来た。
 さっそくエレベーターで地下に降り、イベントホール入り口でパンフレットと記念の絵葉書をもらう。図柄はレントゲンの『新種の輻射線について』(1895-96年)に掲載された手のX線写真と、ボイルの『空気の弾性とその効果に関する物理-力学的な新実験』(1660年)に乗っている真空ポンプの図版。なんだかわくわくしてくる。会場内は写真撮影もOKなのもよかった。(ただし書籍の保存のためフラッシュはNG)
 
 パンフレットを見てみると、会場は4つのエリアに分かれている。まず最初は「知の壁」のエリア。ヨーロッパの伝統的な図書室を模したようなインテリアに、16世紀初頭から20世紀にかけての世界各国の建築書がずらりとならぶ。子供でも観て愉しめるように面白そうな図版のページが見開きで並べてある。建築は全然詳しくないのだけれど、ウィトルウィウス『建築十書』とかパラーディオ『建築四書』なんていう本は、建築史を学ぶ人にとっては有名なのかも知れないな、なんて思いながら先に進む。
 次のエリアは「知の小径」。まず目を引くのは、部屋の中央に鎮座するレオナルド・ダ・ヴィンチによる「巻き上げ機」など2体の復元模型。そして目を上げると正面の壁にはデュフィが1937年のパリ万博のために描いた巨大壁画「電気の精」(1953年)を基にしたリトグラフが。神話の神々や神殿の周りに、古代から現代(当時)にいたる科学者や発明家の姿がカラフルな色彩で配置された愉しい一品だ。

 そこを抜けるといよいよメイン会場である「知の森」広い会場内は13の小エリアに分けられ、それぞれ「古代の知の伝承」「光」「電気・磁気」といった名称が付けられている。
 実は前日に行かれた方から「平日にも関わらず結構混んでいた」という情報をもらっていたので、朝一番の地下鉄で開場と同時に入場。そのおかげもあってまだ空いている会場内をゆっくりと見て回ることが出来た。以下、自分が興味深かった展示品をいくつか抜粋してみたい。(なお展示品は全て初版だった。世界を変えた思想や発見を著者が初めて世に問うた本という意味で、初版の収集に拘っているわけだよね。)
<古代の知の伝承>
 ■エウクレイデス(ユークリッド)『原論(幾何学原本)』1482年
  ギリシア幾何学の成果をイタリアでまとめた本。中世・近世には教科書として使われた。
<ニュートン宇宙>
 ■コペルニクス『天球の回転について』1473-1543年
  それまでの「天動説」にかわり「地動説」モデルを確立した記念すべき本。
 ■ニュートン『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』1686年
  「慣性の法則」や「万有引力の法則」などが書かれた彼の主著。
<解析幾何>
 ■デカルト『方法序説』1637年
  4つの章からなり有名な「われ思う故、われあり」が掲載の他、空間座標の定義なども。
 ■ライプニッツ『極大と極小に関する新しい方法』1684年
  ニュートンと同時期に微分積分の概念を完成させた書。
<物質・元素>
 ■ブルンシュヴィヒ『真正蒸留法』1500年
  外科医による真空蒸留法の薬剤製造法。化学の始まりだが手彩色の挿絵がとても綺麗。
<電気・磁気>
 ■クーロン『電気と磁気についての研究』1785-1789年
  クーロン力の発見で有名な科学者による。静電気発生装置の図版など。
 ■オーム『数学的に取り扱ったガルヴァーニ電池』1827年
  ご存じオームの法則で有名なオームによる著書。
<飛行>
 ■リリエンタール『飛行術の基礎となる鳥の飛翔』1889年
  ライト兄弟に先立ってグライダーによる飛行の研究を行い、不幸にも事故死を遂げた人物。
 ■ゴダード『液体燃料推進ロケットの開発』1936年
  “ロケットの父”によるロケット推進の基本書。
<電磁波>
 ■マクスウェル『電磁波の力学的理論』1865年
  「マクスウェルの法則」で有名。電磁気学を確立した最大の功労者。
<原子・核>
 ■ラザフォード『放射性変換』1906年
  核分裂による物質の変化を示した本。
 ■シュレディンガー『波動力学についての四講』1928年
  量子力学の一部である「波動力学」についての本。著者はこの後、量子力学を確立。
 ■湯川秀樹『素粒子の相互作用について』1935年
  「中間子」についての論文。この研究で著者はノーベル賞を受賞した。
<アインシュタイン宇宙>
 ■アインシュタイン『一般相対性理論の基礎』1916年
  特殊相対性理論の発表で世界を震撼させた著者が、さらに対象を重力にまで広げたもの。

 ふう、ざっくりと挙げるつもりが多くなってしまった。この手の話題にあまり興味の無い方には申し訳ない。他には「力・重さ」「光」「無線・電話」「非ユークリッド幾何学」などの分野があり、ホイヘンスやヘルツ、ロバチェフスキーにリーマンといった綺羅星のような名前が並んでいるが、挙げているときりがないので省かせてもらった。
 大学が書籍収集の対象としている分野や年代は非常に広く、15,16世紀から20世紀までの多種多様な科学・工学系の書籍が展示されている。たとえば中世の本は大きくて飾り文字に彩られていたり、ドイツとイタリアでは書体が違っているなど一種独特の雰囲気がある。(映画『薔薇の名前』に出てきた教会の図書館の本のよう。)でも所詮は学術書なので、宗教書や文芸書とは違って全般に地味なイメージは否めないかな(苦笑)。
 年代が下ると論文形式が増えてさらに専門的な感じに。図版も数学的なグラフ等が増えるので、本そのものが好きか、もしくはラベル解説を読んで面白いと思う人の方がお薦め。書籍そのものというよりはその本が持つ歴史的意味を愛でながら鑑賞する方が良い気がする。

 以上、「知の森」に展示された数多くの貴重な本を目にして、ぼうっとしたまま向かうのが最後の「知の地層」のエリア。ここでは展示書物に書かれていた発明発見についての解説が映像により流されている。日に2回、本展示会の監修者である金沢工大の先生(*)による解題・紹介もあるようだ。(もっとも自分はそれを知らずに、その前に出てきてしまったので聴けなかったが。)

   *…金沢工業大学ライブラリーセンター館長の竺覚暁(ちく かくぎょう)教授

 以上、科学史だとか教科書でしか聞いたことの無い人の本を、直に目に触れるにはとても良い(そして滅多に無い貴重な)機会なので、もし興味があればいちど覗いてみるといいと思う。最後になるが、ぜひともどこかの博物館で人文・社会学系の「世界を変えた書物」展を開催してもらいたいものだなあ。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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