SF/ミステリ/ファンタジー

 先日、あるパーティで出版社の編集の方とお話をする機会があり、『折れた竜骨』という本(*)の話題になった。作品自体は文句なくミステリの傑作なのだが、その人が気にされていたのは、殺人事件の舞台になった離れ小島に建つ城はどうやって作られたのか?という点。(詳しくは本書を読んでいただくと分かるが、資材を運んだり作業者の寝泊りや食事の手配を考えると、実際には建てるのがかなり難しそうな感じ。)
 「社内で多くの人に訊いたけれど、誰ひとりとして設定を疑問に思っていなかったんだよね。」
 うーん、正直言って自分も全く疑問に思っていなかった。(^^;) 言われてみると確かにそうだよねえ。

   *…米澤穂信(よねざわほのぶ)氏による、12世紀末のヨーロッパを舞台にした歴史ミ
     ステリ。2011年に発表され、同年の第64回日本推理作家協会賞を受賞したほか、
     翌年の「ミステリが読みたい!」「本格ミステリ・ベスト10」といった、名だたる
     ミステリ・ランキングで1,2位を総なめにした。「歴史ミステリ」といっても舞台
     は魔法が存在する架空のヨーロッパ。物語はファンタジーとミステリを融合させた
     ものとなっている。他のジャンルとミステリの融合といえば、古くはギャレット
     『魔術師が多すぎる』〔ファンタジー×ミステリ〕やアシモフ『鋼鉄都市』『裸の太
     陽』〔SF×ミステリ〕などが思い浮かぶが、本書もそれと同趣向の作品といえる。

 この件、パーティが終わってからもしばらく考えていたのだが、おそらくジャンル小説の特徴によるものではないかと思われる。(なんて大げさなものでもないけれど。/笑)
 たとえばSF。これは別名「理系の文学」とも呼ばれるように、やたら「世界の成り立ち」を示す(もしくは示したがる)のが特徴。架空の理論をでっち上げては、その奇妙な論理で摩訶不思議な世界を作り上げたりもする。世界を統べる仕組みはなるべく精緻に組み立てられ、一見して破綻のないものが望ましい。作中で詳しく説明されるか、もしくは読み進むうち暗示されるのが良しとされる。
 従って仮にどんなに魅力的な舞台設定であっても、その物語の主眼が「世界そのものの成り立ち」を示す点に無く、あくまでそこを舞台にした“冒険の描写”にある場合、「冒険SF」という特別なサブジャンルとして扱われることになる。(今はどうだか知らないが、昔「冒険SF」はSF文学としての”格”がおちるイメージがあったような気がする。)
 一方ミステリの場合はまず確固としたルールがあり、その中でいかにウラをかくかが問題とされる。少なくとも『折れた竜骨』のような本格ミステリの場合はそうだ。いわば仕組みそのものではなく運用上の話。(「人は壁を通り抜けられない」とか「同時に2箇所の場所にはいられない」といった物理的なルールから、「わざわざ危険を冒してまで行う動機がない」などの心理的なものまで色々ある。)
 逆に言えば設定がどんなに奇妙なものであっても、いったん「約束事」として受容されてしまえば、その件については一切が不問とされる。(**)いや、むしろ約束事があるからこそ、それをかいくぐる愉しみがあるともいえる。それが『折れた竜骨』において、設定の奇妙さを誰も疑問に思わなかった理由ではないのだろうか。ある意味ではミステリファンの方が、物語の設定に従順ともいえるかも知れない。歌舞伎や文楽といった伝統芸能にも、見立てや黙認があって初めて成り立つ部分があるけど、ミステリもそれと似たようなものなのかな?
 ところがどっこい、SFファンの場合はそうはいかない。物語がどんなに面白くできていても、設定に納得のいかないところがあるとイライラしてしまう。そのあたりがSFファンの面倒くさい点ではあるかな。理屈っぽいというか(笑)。
 でも、えてしてこんな話ってあるよね。ある人は殆ど気にもしていないことが、ある人にとってはすごく気になることだったり。あるいは些細な事ではあるが互いに好みを譲らなかったり。(目玉焼きにかけるのはソースか塩か?みたいな。/笑)

  **…例えば山口雅也氏は『生ける屍の死』で、死んだ人間がゾンビとなって甦る世界で起
     こる殺人事件を描いた。また『キッド・ピストルズ』シリーズでは、「探偵士」とい
     う架空の職業が警察よりも権限をもつ、パラレルワールドの英国を舞台にしている。
     いずれも傑作。

 ところでファンタジー好きの人の場合はどうなのだろう。妖精物語や“剣と魔法”の物語はあまり読んでいないのだけれど、少なくとも幻想怪奇小説ファンは、設定に多少の齟齬があっても平気なような気がする。極論すれば整合性や論理は二の次で、むしろ作品世界の雰囲気や情緒をこそ重んじるところがあるから。(それにそもそも18~19世紀の幻想文学って、物語の整合性なんてあまり気にせず書かれているところが無きにしも非ずで...。)
 だからこそファンタジーの場合、人によって作品の好みが大きく分かれるのかもしれない。SFにおける「世界の成り立ちという論理」や、ミステリにおける「約束事を守ったうえでの運用ルール」といった、共通の「評価基準」がないから。
 こうしてみるとこれらはエンタメ系の小説ジャンルとして割と良く似た位置づけにはあるけれど、特徴がそれぞれ微妙に食い違っていて面白いね。
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視点が違えば・・・

この議題は面白いですね。ちなみに私はSF寄りでもなく、ミステリ寄りでもなさそうです。ファンタジーもたくさん読んでいるわけではありませんが、大好きです。で、思い返してみますと・・・

どうやらファンタジーでも、何か自分的に許し難い設定というのは存在するようです。私は論理的に物事を考えることが殆どない(汗)ので、感覚的に違和感を抱くだけなんですけれど。

思うに、世界観が統一されていれば些細なことは気にならなくて、全体の雰囲気に調和していないと感じる要素を見つけるとイラっとするんじゃないかと・・・(単純っていうか、まさに感覚的な問題ですね)。

今度、そういう場面に出くわしたら、じっくり原因究明してみますね。
案外、論理的に説明のつく理由があるかもしれませんし(笑)

彩月氷香さま

私の場合はミステリを読むときはミステリの文法、
SFを読むときはSFの文法になる感じですかね。
だから逆にSFミステリがちょっと苦手だったりします。
どっちのスタンスで読んだらいいか迷ってしまうので(笑)

ファンタジーは世界観の統一性や調和ですか。なるほど!
そういわれるとそんな気がしますねー。

今度ファンタジーを読むときには、その点を意識して読んでみます。
ありがとうございました(^^)
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舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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