2013年7月の読了本

 月初は順調だったので今月はだいぶ読めるかと思ったが、ふたを開けてみるといつもと変わらずの低空飛行。(最低目標の10冊はクリアしたが、本当は月に15冊以上は読みたいところ。)読書時間がとれずに冊数が伸びないのはやむなしとしても、ぶ厚めの学術書に取り掛かれないのはつらい。しかし愚痴っていても仕方ない。まだ本を読む元気があるだけでも、よしとしておこう。盆休みにはたくさん読める事を期待しつつ...。

『ジンボー』 アルジャナン・ブラックウッド 月刊ペン社
  *幻想小説ファンにはかつて憧れだった「妖精文庫」の一冊。今回、わけあってたくさん
   (しかも安く)手に入れることが出来たので、その中からひとつ読んでみた。昭和54年
   と古い本なので著者名が「アルジャーノン」ではなく「アルジャナン」になっているの
   はご愛嬌だ。中身は『銀河鉄道の夜』や『肩甲骨は翼のなごり』を思わせるように、
   ひとりの少年の冒険を描く幻想譚。主人公の“ジンボー”ことジェームズを『銀河鉄道
   の夜』のジョバンニに喩えるとすれば、彼を導くミス・レークはさしずめカンパネルラ
   といえるかも。子供が主人公の物語はとても好きだ。
『増補版 誤植読本』 高橋輝次/編著 ちくま文庫
  *「校正」とは著者の原稿とのつきあわせによって誤植を無くすための作業のこと。内容
   は誤字の修正から年号や地名の間違いといった単純なものから、造語や送り仮名など
   著者の意図を組まなくてはならない高度なものまで多岐に亘る。作家にとっては誤植は
   恐怖であり編集者にとっては恥になる“負”の存在。しかし詩人にとっては同じ誤植が
   異化作用を生じさせ、新たなインスピレーションの源泉になったりと非常に奥が深い
   もののようだ。
   本書は総勢53人の著述家や編集者たちによる様々な文章を集めたもの。いずれも校正と
   誤植にまつわるものばかりだ。きっと本好きならば、うんうんと頷きながら読むであろ
   うエピソードが満載で愉しい。
『聖母マリア崇拝の謎』 山形孝夫 河出ブックス
  *著者は宗教人類学の研究者。神と子と聖霊の三位一体を基本とするキリスト教の世界に
   おいて、“イエスの母”に過ぎないただの人間であるマリアが、なぜこれほどまでに
   信仰を集めるのか。本書によればその陰にはキリスト教成立にまで遡る母性原理と父性
   原理との葛藤があるようだ。歴史系の本では世の常識をひっくり返すようなのがいい。
   個人的には網野善彦/阿倍謹也/山形孝夫といったあたりの著作がお気に入りだが、
   本書も期待に違わず愉しかった。
『ヨハネスブルグの天使たち』 宮内悠介 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
  *いわゆる「新作SF」って久しぶりに読んだ気がする。DX9なる量産型アンドロイドを
   軸に、世界各地でおこる様々な紛争と「生きる」ということをテーマにした連作短篇集
   で、内容はどれも重い。「ジャララバードの兵士たち」や「北東京の子供たち」が特に
   好きだな。帯に「伊藤計劃が幻視したビジョンをJ・G・バラードの手法で書く」と
   あったから読んでみたのだが、バラードとはちょっと違った。(伊藤計劃はまだ1冊し
   か読んでいないのでよく分からない。)でもそのあたりが引き合いにだされるくらい
   だから、出来は決して悪くない。こういう物語が書き続けられるなら、日本SFを時々
   読んでみてもいいかな、なんて思ったりも。(時間と小遣いの許す限りでね。/笑)
『黄夫人の手』 大泉黒石 河出文庫
  *著者の大泉黒石(こくせき)という人物のことは全く知らなかった。本書の解説によれ
   ば大正から昭和にかけて活躍した作家とのこと。本書は著者初めての文庫化であり、
   著作の中から怪奇系の物語を集めたものとなっている。ゴーリキーや久生十蘭、内田
   百閒や坂口安吾に石川淳といったあたりの雰囲気。一時は一世を風靡した作家のよう
   だし、ぜひ他の著作も復刊してくれないだろうか。
『隠されていた宇宙(上・下)』 ブライアン・グリーン ハヤカワ文庫NF
  *〈数理を愉しむ〉シリーズの一冊。最新宇宙物理学が示す「多宇宙」の世界観を紹介。
   以前同じ著者の『エレガントな宇宙』を読んでなかなか面白かったので、文庫化される
   のを待っていた。本書にも前著と同様に超ひも理論やM理論といった話題もでてくるの
   だが、むしろ古典的な無限空間の理屈から導き出される「ランドスケープ多宇宙」など
   も含め、今では全部で9つにまで膨らんだ多宇宙の概念について語ったものと言った方
   がいい。科学解説書というよりは、思弁の書といった方が良いかも。
『万国博覧会の二十世紀』 海野弘 平凡社新書
  *19世紀から20世紀にかけて世界各地で開催された博覧会を回顧することで、「20世紀
   において万博とはいったい何だったのか」について考察した本。著者は建築系の方なの
   で企画から建設に関する話題が多く、個々の万博の具体的な展示内容についてあまり
   詳しく書かれていないのが個人的には少し残念。(でも興味の対象が著者と自分では
   違うから仕方ないね。)20世紀初頭までの万博を牽引したイギリスやフランスの様子に
   始まり、その後の中心となったアメリカ各地での開催、そして大阪やハノーヴァーと
   いった他の国々についてコンパクトにまとめてある。大阪万博の世代としてはどうして
   も「万博は世界のお祭り」というイメージが強いのだが、実は万博といえども(いや、
   むしろ万博だからこそか)戦争や冷戦といったその時々の世相を、如実に反映している
   というのが判って面白い。
『折れた竜骨(上・下)』 米澤穂信 創元推理文庫
  *第64回の日本推理作家協会賞を受賞し、「本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読み
   たい!」「このミステリーがすごい!」といったランキングでも軒並み 1位か2位を
   とったという、2012年を代表するミステリ。12世紀のヨーロッパを舞台にした本格的
   な推理とファンタジーが融合した物語とのこと。「ソロンの領主を殺したのは誰か?」
   というミステリとしての謎解きも、「呪われたデーン人の襲来」というファンタジーの
   部分も良く出来ている。期待して読んだのだけれどとても満足できた。続きを読みたい
   気もするけど難しいか。もし書かれても世界観だけが共通で、きっと全然違った話に
   なるんだろうな。
『文豪怪談傑作選 小川未明集』 ちくま文庫
  *東雅夫氏の編集による「文豪怪談傑作選」の1冊。トラウマの児童文学として有名な
   「赤いろうそくと人魚」の著者・小川未明の怪談を集めたもの。「未明は怖い」という
   噂を聞いていたのだが、実際読んでみたところ確かに怖かった。何がと言って、主人公
   である子供が次々と容赦なく不幸に陥っていくのが怖い。一番怖い話は子供が死ぬ話だ
   と常々思っているのだが、そういった意味では楳図かずおの『漂流教室』や『恐怖』
   『呪いの館』といった一連の恐怖マンガと同じ質を持っていると言えるのかも。
   大人向けの話も収録されているが、こちらは善人を不幸にした街の人々を不幸が訪れる
   という物語が多い。しかし善人が救われるわけでは無くて、勧善懲悪のうち「懲悪」だ
   けなので明るさはない。なお、登場人物たちが感じるのは直接的な恐怖では無くて漠と
   した不安なのだが、それを読んだ読者が作品自体に恐怖するという不思議な構図。
   以下、随筆「夜の喜び」から一部抜粋する。少し長くなるが、未明の執筆に対する姿勢
   がわかって、なかなか興味深い。
   「私は、死は人間最終の悲しみであり、悲しみの極点は死であると思い、いかなるもの
   も死を免れぬという考えから、むしろ死に懐き親しみたいという考えが生じた。」
   「夜と、死と、暗黒と、青白い月とを友として、そんな怖れを喜びにしたロマンチック
   の芸術を書きたいと思う。」
『ルワンダ中央銀行総裁日記』 服部正也 中公新書
  *国際通貨基金の要請に応じて、1965年からの6年間アフリカの小国ルワンダで中央銀行
   の総裁を務めた著者による回想記。お堅い実録ものかと思ったらそうではなくて、
   『ロビンソン・クルーソー』とか『坊ちゃん』といった雰囲気も漂う冒険と爽快なノン
   フィクション。私腹を肥やそうとする現地の人々や、理解の無い先進国の担当者との
   激しいぶつかり合いも実名を挙げて赤裸々に語られているが、どんな時も著者の「ルワ
   ンダの人々のために」という熱い思いが伝わってきて、読んでいて気分が良い。良書。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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