『<心理療法コレクション>Ⅰ~Ⅵ』 河合隼雄 岩波現代文庫

 ★『Ⅰ ユング心理学入門』
   *河合隼雄の第一作。ユング心理学の全体像を大変わかりやすく紹介。
 ★『Ⅱ カウンセリングの実際』
   *同じく初期の著作。自分が体験したカウンセリングの事例を用いて、
    心理療法とはどのようなものか具体的に説明。
 ★『Ⅲ 生と死の接点』
   *「老いと死」「思春期」など人生の重要な転機について、
    ユング心理学(元型)は勿論のこと、文化人類学(通過儀礼)や
    宗教学(神話)、昔話など様々な分野からの視点で思索を巡らした本。
 ★『Ⅳ 心理療法序説』
   *京都大学を定年で退官するにあたり、長年に亘る豊富なカウンセリングの
    経験を踏まえて書かれた心理療法の概要をまとめた本。
 ★『Ⅴ ユング心理学と仏教』
   *ユング心理学と仏教における思考方法の違いや共通の課題、関係について
    語ったアメリカにおける講演記録など。
 ★『Ⅵ 心理療法入門』
   *著者が監修した全八巻の『講座 心理療法』の各巻頭に掲載された
    概説を集めたもの。物語/イニシエーション/身体性など、
    様々な視点で捉えた説明がなされる。

 河合隼雄はユング心理学を日本に初めて紹介するとともに、日本におけるユング派の心理療法の第一人者でもあった。肩書は「臨床心理学者」という名前になっている。2007年に他界した彼の追悼の意味も兼ねて、同じく心理学者である息子の河合俊雄が、100冊を超える彼の膨大な著作の中から、彼の活動や考え方の変遷が分かる代表作を選んだコレクションである。さすが選びに選んだセレクションだけあってどれを読んでもハズレが無く、著者の活動と思索の全体像を一望できる素晴らしいシリーズだった。
 
 河合隼雄には3つの顔がある。ひとつはユング心理学を基にして人間の精神や人文科学系の話題について、学術的な考察を加えた“学者”としての顔。そしてもうひとつは自らが心理療法士として多くのカウンセリングを行った経験を次の療法士たちに伝えていこうとする“教育者”としての顔。そして最後が一般向けに書かれた生き方アドバイスなど“療法士”としての顔である。彼の本もそれら3つの目的に合わせて語り口や出版先を変えて出されている。
 本コレクションでいえば奇数巻の『Ⅰ ユング心理学入門』『Ⅲ 生と死の接点』『Ⅴ ユング心理学と仏教』の3冊が学術系に当たり、偶数巻の『Ⅱ カウンセリングの実態』『Ⅳ 心理療法序説』『Ⅵ 心理療法入門』が教育系にあたるだろう。ちなみに新潮文庫や講談社プラスα文庫などに多く収められている一般向けの著作は、今回は対象とされていない。自分の興味はどちらかといえば前者の方が強いが、後者についても今回せっかくなので読んでみたところ思いのほか面白かった。

 河合隼雄の著作は数が多いだけに、自分が好きなジャンルの学術系の著作であっても、中には“いまひとつ”面白みに欠ける(というか、自分が読む目的と本の主題が合っていない)著作があったりする。例を挙げれば、今まで聞いたこともないような外国の物語について心理学的に考察した本があったりするが、あまりにポイントを絞り過ぎて流石に「ホントかいな?」「牽強付会に過ぎるんじゃないの?」と感じたり、「こちらは別に専門家じゃないんだから」と興味が失せてしまうこともある。“生と死”とか“老い”とか、ある程度の普遍性を持ったテーマの方が“お気らく読者”としては興味を持って読むことができる。
 もちろん面白い本も数多く、本コレクション以外では『昔話と日本人の心』(岩波現代文庫)や『影の現象学』(講談社学術文庫)あたりがとても良かった。

 本コレクションに関して言うと、ユング心理学に興味はあってもどこから手をつけて良いかわからなかったので、『Ⅰ ユング心理学入門』はとても有難かった。実をいうと「錬金術」とか「共時性」とかいう言葉だけが漏れ聞こえ、正直いって尻込みしてしまっていた。
 おかげでその後レグルス文庫のユング著作などにも手を出すきっかけができたし、ル=グインの『ゲド戦記・第一巻 影との戦い』がユング心理学をそのまま物語に移し替えたものだということが良くわかった。(『影との戦い』は傑作。)
 『Ⅲ 生と死の接点』は元々が自分の興味ど真ん中の内容だし、『Ⅴ ユング心理学と仏教』も心理学の観点による仏教哲学の分析が新鮮だった。
 教育系の本は専門書が多くて高いので(笑)、今後はそれほど多く読むとは思えないが、少なくともどれも読んで損は無かったし、『Ⅳ 心理療法序説』は心理療法の概要を知る上で最適な本といっても良いだろう。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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