2013年5月の読了本

 今月は個人的に「物語強調月間」というイベントをやっていたので(笑)、いつもより小説の比率が高め。6月はノンフィクションを中心に読み進めようかな。

『ドン・キホーテ後篇(三)』 セルバンテス 岩波文庫
  *岩波文庫版全6巻の最終巻。長かった物語もこれで終わり。数か月に亘ってちびちびと
   読んできたが後篇の面白さはまた格別だった。なんでも臆せず読んでみるものだねえ。
『死に至る病』 キュルケゴール 岩波文庫
  *19世紀に書かれたキリスト教的哲学の書。近代的知性による精緻な分析と神への絶対的
   な信仰のギャップがなんだか変な感じ(失礼!)で、読んでいて愉しい。(「愉しい」
   なんていうと不謹慎かな?一応褒めているつもりです。/笑)
『近代妖異篇』 岡本綺堂 中公文庫
  *「岡本綺堂読物集」の第3巻となる短篇集で、怪異譚を集めた『青蛙堂鬼談』の補遺
   という位置づけ。綺堂の怪談は基本的に因果物ではなく、原因も何も分からぬ状態で
   ぽんと放り出される感じが好きだ。どれも概ねいい味を出しているが、特に気に入った
   のは「こま犬」「停車場の少女」「鐘が淵」、それに「寺町の竹藪」と「龍を見た話」
   といったところか。
『「伝説」はなぜ生まれたか』 小松和彦 角川書店
  *人類学的な手法を民俗学に展開する著者の久しぶりの著作。氏の本は好物なので新刊が
   出るとすぐ買って読んでいるのだが、本書も相変わらずキレがいい。始めに神話あるい
   は伝説を「語る」という行為についての考察があり、ついで具体的な研究事例として
   能登の「猿鬼伝説」、高知の「いざなぎ流の祭文」、戸隠の「九頭竜伝説」に関する
   文章が続く。
『狂人の部屋』 ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ
  *フランスの本格ミステリ作家アルテによる代表作の一冊。不可思議な状況の提示とその
   合理的な解決が本格ミステリの魅力といえるが、本書でもディクスン・カーばりの怪奇で
   不可思議な事件が描かれる。アルテは殊能将之氏が一押ししていた作家で、まだ未読作品
   が多いのでこれからも愉しめるな。
『ミッドナイト・ブルー』 ジョン・コリア 扶桑社ミステリー
  *井上雅彦氏による新しいアンソロジー「予期せぬ結末」シリーズの第1巻。今どきコリア
   の新刊が読めるとは思わなかった。これまで読んだことが無い単行本未収録の作品なども
   多く、良心的な編集といえるだろう。このシリーズはこれからも期待できそうだな。
『人間和声』 ブラックウッド 光文社古典新訳文庫
  *ジョン・サイレンスのシリーズなどで有名な、イギリスを代表する怪奇小説作家の一人、
   アルジャーノン・ブラックウッドによる本邦初紹介の長篇。本書は“怪奇”というより
   は、カバラ思想を核としたSFばりのアイデアが炸裂する奇想・幻想小説と言った方が
   いいかも。『ゲド戦記』でもおなじみの「真の名前」が登場するといえば、読んだ人に
   はどんな感じか何となく想像がつくかな。
『闇の奥』 コンラッド 光文社古典新訳文庫
  *のちの文學や映画に多大な影響をあたえた問題作。(有名なところではF・コッポラの
   映画『地獄の黙示録』などもそう。)古典新訳のシリーズは読みやすくて好いね。
『第四の館』 R・A・ラファティ 国書刊行会
  *まさかのラファアティ連続刊行に財布のヒモもつい緩みがち(笑)。本書は彼の4番目
   の長篇で初期の代表作と言われているものだ。昨年に刊行予定の発表があってからここ
   まで長かったが、本書の訳者である柳下毅一郎氏によって“サブテキスト”とされた
   『霊魂の城』(アビサの聖女テレサ著/聖母文庫)まで読んで備えた甲斐があった。
   本書は“笑い”の成分がかなり抑えられている分、いつものラファティ作品とは若干
   毛色が違っており、その代わり彼のもうひとつの特徴である“カッコよさ”が際立って
   いる。すべてを語りきってしまわず、読者に対してある種の「不親切さ」を持つことで
   現れるカッコよさとでも言えば良いか。今までに読んだことがないラファティだった。
   ところで唯一無二の作家と言われるラファティだが、実は自分の中では彼と共通する
   カッコよさを持つ作家がもう一人いる。それは『虎よ、虎よ!』や『ゴーレム100』等
   を書いたアルフレッド・ベスターという人物。こちらもラファティと同じで全てを語ら
   ないのだが、彼の場合は文体がスタイリッシュなせいもあってとにかくカッコいい。
   (読者に全てが提示されないのは、よくある「神の視点」を排する事で、ある特定方向
   /視点からの描写しか行わないからではなかろうか。そして勝手な推測だが、ベスター
   の場合それはテレビ番組の制作に携わったことで培われた、カメラワーク技術からきて
   いるのかも知れない…なんて考えてみたりも。)ラファティの場合は何なのだろう。
   三人称で語られてはいるのだが、いわゆる「神の視点」というものではない。かといっ
   て登場人物の視点でもない。例えるなら「隠された第三者」の視点で語られているよう
   に思える。本書を読んで、もっと別のラファティ作品も読んでみたくなったよ。
『カムイ・ユーカラ』 山本多助 平凡社ライブラリー
  *アイヌに伝わる説話を集めたもの。動物の神々が語る様々な物語や、英雄神を主人公と
   する「カムイ・ラッ・クル伝」などを収録。アメリカの先住民の神話のようでもあり、
   アフリカの神話のようでもあり...。
『怪しき我が家』東雅夫/編 MF文庫
  *総勢11名による、「家」をテーマにした怪談競作集。いわゆる“実話系”の怪談が中心
   のアンソロジーだが、内容は千差万別でバラエティに富んでいる。個人的な好みでいえ
   ば皆川博子「釘屋敷/水屋敷」、南條竹則「浅草の家」、東雅夫「凶宅奇聞」などが特
   に好き。しかし他の作品もなかなか愉しめた。宇佐美まこと「犬嫌い」や金子みずは
   「葦の原」などは『厭な話』のアンソロジーに入れてもおかしくないほど後味が悪い。
   (怪談なのでこれは褒め言葉)ちなみに読んだのは昨年の夏に行った「ふるさと怪談」
   のイベント会場で買った本。東雅夫氏と朱雀門出(すざくもん いずる)氏のサイン入り
   なのでポイントが高いぞ(笑)。
『終わり続ける世界のなかで』 粕谷知世 新潮社
  *著者は「太陽と死者の記録」(後に『クロニカ 太陽と死者の記録』と改題して刊行)
   で、第13回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した人物。ただし本書はファンタジーで
   はなくジャンル的にはいわゆる「文学」になる作品。主人公は1969年生まれの女性で、
   彼女の小学校時代から2000年までの人生を描いた物語だ。『ノストラダムスの大予言』
   によって質の悪い終末思想を刷り込まれた子供時代から、高校・大学を経て社会人とし
   て暮らす毎日。そしてその間に彼女に訪れる出会いや別れ。生きる意味に悩むひとりの
   女性の苦しみと心の救いを綴ったものとでも言えばいいかな。―― うーん、誤解されず
   に中身を上手く説明することが出来ない。例えば筋肉少女帯の音楽が好きな大人だった
   ら、きっと好きになるかも。好い話だった。我々もまた本書のヒロイン岡村伊吹のよう
   に、永遠に終わり続ける世界のなかで生き続けていくしかないのだよなあ。
『ブランビラ王女』 E.T.A.ホフマン ちくま文庫
  *ドイツを代表する幻想文学の大家ホフマンが、死の1年前に出版した最晩年の作品。
   舞台はイタリア。三流役者ジーリオ・ファーヴァとお針娘のジチアンタによる恋の駆け
   引きが繰り広げられる。ただしそこはホフマン、ただの恋愛話ではない。二人の話には
   さらに魔法をかけられた王女ブランビラとコルネリオ・キアッペリ王子の物語や、さら
   にはオフィオッホ王とリリス女王の寓話に大魔術師ヘルモートの暗躍など、様々なエピ
   ソードが絡んで読者を翻弄する。途中は正直いって「なんだこれ?」とも思ったところ
   もあるが、錯綜した物語はラスト50ページに至って突如その姿を変え、一挙にその全貌
   があきらかになる。というわけで自分は本来おバカが主人公の物語は好まないのだが、
   この本はおバカが主人公である必然があったので問題なし(笑)。周到に張り巡らされ
   た伏線に気が付けば、もういちど読み返したくなるというものだ。よく仕掛けられた
   傑作だと思う。種村季弘氏の翻訳もgood。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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