2013年4月の読了本

『死者たちの回廊』 小池寿子 平凡社ライブラリー
  *フランスとイタリアの教会の回廊に多く見られる壁画「死の舞踏」を始めとして、中世
   ヨーロッパに広まった死の思想を巡る紀行と考察。
『ユゴーの不思議な発明』 ブライアン・セルズニック アスペクト文庫
  *1年ほど前に『ヒューゴの不思議な発明』という題名で映画化されたから、もしかして
   劇場で観た人もいるかも知れない。帯によれば「アメリカでもっともすばらしい絵本に
   贈られる賞・コールデコット賞金賞受賞」とのこと。(絵本業界はよく知らないが。)
   題名からして、てっきりファンタジーだろうと思って読み始めたが全然違っていた。
   魔法は魔法でも“映画の魔法”というもの。映画(というよりキネマスコープといった
   方がぴったりくるかな?)が好きな読書人ならきっと気に入るに違いない。そんな物語
   となっている。映画は結局観ないで終わったのだけれど、こんな話だと知っていれば
   観にいっても良かったかな。
『西巷説百物語』 京極夏彦 角川文庫
  *直木賞も受賞した作者の代表作『巷説百物語シリーズ』の一冊。今回は舞台を江戸から
   上方に移し、これまでの「小股潜りの又市」に代わって狂言回しをつとめるのは「靄船
   (もやぶね)の林蔵」。本シリーズの最高作は2作目の『続巷説百物語』だと思ってい
   るくちだが、本作も負けず劣らずかなり愉しませてくれる。“京極”は久しぶりに読む
   とやっぱり嵌まるねえ。(笑)
『蛇の卵』 R・A・ラファティ 青心社
  *すれっからしのSFファンに愛されている作家はP・K・ディックやB・J・ベイリー、
   G・ウルフを始め何人もいるが、R・A・ラファティもそのひとり。本書はその作者の
   最晩年の長篇で、これまでの集大成のような作品となっている。連作短編のような作り
   で読みやすい前半もいいが、読む者を翻弄する後半のでたらめさ加減がかなりすごい。
   (褒め言葉です。/笑)
『マレー半島すちゃらか紀行』 若竹七海/加門七海/高野宣李 新潮文庫
  *ミステリ作家・若竹七海ら「3人の独身三十女」が旅するマレーシアの旅。つぎつぎと
   降りかかる旅先でのトラブルが前篇を貫くゆるさと相まっていい味を出している。
   この手の本は気分転換にいいね。
『ドン・キホーテ後篇(二)』 セルバンテス 岩波文庫
  *前後篇を合わせて全6巻のうちの5巻目。なんと本作では前篇の物語が作中で出版され
   ていてベストセラーになっているという設定。ドン・キホーテの奇行が周知となってい
   るのは読んでいても不思議な感じだ。ドン・キホーテとサンチョ・パンサの大ファンだ
   という公爵夫妻による歓待のエピソードを中心に話がすすむ。
『ナイトランド5号』
  *特集は「サイバーパンク/SFホラー」。電脳世界とクトゥルー神話が入り混じった
   短篇作品が4篇。エリザベス・ベア&サラ・モネット「ブージャム」がかなり好い。
   他にはロバート・ブロックのインタビューなど。増ページとなっていよいよ順調。
『世界の果ての庭』 西崎憲 創元SF文庫
  *第14回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品。副題に「ショート・ストーリー
   ズ」とあるように、複数の短篇が微妙に交差しながら語られる。読み解くことで面白い
   小説もあれば、感じることで愉しむ小説もあると思うが、本書の場合は明らかに後者だ
   ろうと思う。著者の西崎氏いわく「抽象画のような作品」とのお話だったが、なかなか
   どうして描写は具体的だし「抽象画」というよりはやはり「幻想画」と呼びたいかな。
   自分の感じだと、同じ著者の『ゆみに町ガイドブック』と『飛行士と東京の雨の森』の
   中間的な味わいの印象。
『霊魂の城』 アビラの聖女テレサ 聖母文庫
  *16世紀に生きたキリスト教の神秘家が書いた、神への信仰と祈りについての本。
   この時代に生きた人々の心の有りようがまざまざとわかって興味深い。
『大人のための残酷童話』 倉橋由美子 新潮文庫
  *古今東西の童話や小説、神話などを題材にしてエロチックで残酷な物語に仕上げた小品
   集。末尾につけられている人をくったような「教訓」が好い。題材はアンデルセンや
   グリムはもちろん谷崎の『春琴抄』に中島敦「名人伝」、日本昔話の「浦島太郎」や
   「猿蟹合戦」に今昔物語、さらにはギリシア神話やトルストイまで多岐に亘る。
『ジュリアとバズーカ』 アンナ・カヴァン 文遊社
  *昔、サンリオSF文庫で出た短篇集の復刊。発売の告知があってから実際の発売まで僅か
   2週間たらずしかなく、また予定外の散財となってしまった(苦笑)。しかし買って後悔
   はしていない。デビュー作『アライサム・ピース』と同様、薬物(ヘロイン)と離人症
   と不安とに苛まれる女性の孤独と幻想に満ちた断章群だが、前作が個人のいたたまれぬ
   程の悲痛な叫びだったとすれば、本書はそれが普遍的なレベルまで昇華されているよう。
   (読後も以前ほどの気分の落ち込みは無かった。)
   好きな収録作は多い。例えばアンリ・ルソーの絵画を思わせる「ある訪問」や“人形た
   ち”が不気味な「霧」、哀切の「メルセデス」に衝撃的ラストの「クラリータ」。
   「山の上高く」のヒロインは自動車の圧倒的な暴力に魅惑され、J・G・バラード『クラ
   ッシュ』の事故に取りつかれた男ヴォーンを思わせる。想像力の極北に近づく「失われ
   たものの間で」や、喪失感がつらい「縞馬」に連作小品の「タウン・ガーデン」「取り
   憑かれて」。そして圧倒的な絶望のラスト「ジュリアとバズーカ」まで、ページを繰る
   手を止めることが出来ず一気に読み切ってしまった。異なる世界/物語の中で形を変え
   永遠に苦しみ続けるヒロイン。孤独に屹立する冬の山に魅かれ、冷たく周囲を拒絶する
   彼女たちの生の否定と死への願望は、恐ろしくもあるが痛切に心をつかむ。
『夢の遠近法』 山尾悠子 国書刊行会
  *初期作品選。著者による自作解説を付す。収録作のうちページ数にして約6割強は以前
   読んだことがあるものだが、密度の濃い幻想は久しぶりに読んでも色あせることは無か
   った。再読した4作の中では「ムーンゲイト」「遠近法」が特に好い。(「遠近法」の
   狂気は筒井康隆著の傑作『驚愕の曠野』にも通じるものがある。)
   他には(思いのほか毒気の強い)「透明族に関するエスキス」や「眠れる美女」なども
   good。栞代わりに4篇のエッセイ(半分創作?)が付録として付くのも良いね。
『ロマネ・コンティ・一九三五年』 開高健 文春文庫
  *これまで本書を何度読み返しただろうか。自分にとっては折に触れて立ち返る、里程標
   のような本。「玉、砕ける」「飽満の種子」に始まり最後の「ロマネ・コンティ・一九
   三五年」まで6篇の収録作のすべてが珠玉。“充実した虚無”もしくは“乾ききった潤
   沢”とでもいうべき逆説こそが、彼の最大の魅力といえるのではないか。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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