2013年2月の読了本

 あまり大著は読めていないが、忙しいなりに好きな本を読めているのでまあこれで良しとしよう。ところで最近は新刊で話題作が多く出るので、そちらを追いかけるのも大変。一か月くらい読書バカンスが欲しいなあ。

『新しいウイルス入門』 武村政春 講談社ブルーバックス
  *ウイルスに関する最新の研究成果をコンパクトにまとめた解説書。ミミウイルスという
   光学顕微鏡で観察できるほど大きなウイルスや、そのミミウイルスに寄生するウイルス
   まで発見されているとは知らなかった。影物と無生物の垣根がどんどん曖昧になって
   いくのが面白い。
『三浦老人昔話』 岡本綺堂 中公文庫
  *『半七捕物帳』で有名な作者による、江戸を舞台にしたジャンル混在型の物語。
   (“物語”というより“読み物”と呼んだ方がしっくりくるかな。) 「鎧櫃の血」や
   「置いてけ堀」といった伝統的な怪談話から、「権十郎の芝居」「春色梅ごよみ」と
   いった人情話まで、江戸情緒豊かな話が満載。意外なことに中でも一番怖かったのは、
   特に怪異が出るわけでもない「下屋敷」という話。何の説明もなく淡々と進む物語が
   ぞくりと肝を冷やす。結局のところ、いつの世も一番怖いのは人の心という事なのかも
   しれない。
『三大陸周遊記 抄』 イブン・バットゥータ 中公文庫
  *イスラム世界を代表する14世紀の大旅行家の旅行記。原著は膨大な量になるそうで、
   本書はその中からの抄録とのこと。(それでも結構なボリュームだった。)彼が訪れた
   場所はメッカやイラク、イランといったアラブ地域は勿論のこと、ロシアやインド、
   さらには遥か彼方の中国やアフリカ奥地まで。足かけ25年にもおよぶ大旅行記となって
   いる。砂漠の民であるアラブの人々の生活信条は、ひとところに留まることなく常に
   移動し続けることだと人類学者の片倉ともこ氏も言っていたが、まさにそれを地で行く
   ものといえそう。
『やっとかめ探偵団』 清水義範 光文社文庫
  *数々のパスティーシュ作品で知られた著者によるコージーミステリ。舞台は著者が住む
   愛知県名古屋市で、そこで駄菓子屋「ことぶき屋」をいとなむ波川まつ尾(74歳)を
   探偵役にして、近所の年寄り仲間が不思議な事件の謎を解いていく。正直なところ、
   コージーミステリにはあまり興味が無かったのでスルーしていたのだが、先日ある方に
   「ミステリとしても結構良く出来ている」とお聞きし、慌てて古本屋を回って読んで
   みることに。結果、物語もさることながら、主人公が住む町が名古屋市中川区と非常に
   ローカルなのが気に入った。なんせ中川区といえば元々自分が住んでいたところなんで
   …(笑)。名古屋弁はもちろんのこと、あまりにもローカルなネタに驚きつつも満喫
   する事ができた。次巻がミステリとしてかなりいい出来とのことで、また見つけたら
   読んでみよう。
『書藪巡歴』 林望 新潮社
  *書名は「しょそうじゅんれき」と読む。著者は「イギリスはおいしい」などの軽妙で
   愉しいエッセイで世に知られた人だが、その本職は「書誌学」という学問を治めた研究
   者(だった)。本書は慶応大学の斯道文庫で研究に明け暮れた思い出をなんせ中心に、
   氏の専門である書誌学に関して存分に語ったエッセイ。本業とは違う余技の部分で有名
   になってしまったリンボウ先生だが、しかし『イギリスはおいしい』に始まる一連の
   エッセイが有名にならなかったら、『書誌学の回廊』や本書のような地味(失礼!)な
   本が世に出ることは無かったろうと考えると、ベストセラーにもある種の意味はあるの
   だと思えてくる。(自分はベストセラーをむしろ敬遠してしまうけどね。)
『イメージ』 ジョン・バージャー ちくま学芸文庫
  *副題は「視覚とメディア」。元はテレビ番組『Ways of Seeing(見る方法)』から
   うまれた本だそうで、古今の西洋美術を通じて視点や視覚イメージの変遷について論じ
   たもの。後半では現代の広告にまで言及。まさに視覚論のさきがけのような本らしい。
   「ものの見方」については興味があって以前から見かけると読んでいるのだが、本書は
   その中でもとっつきやすい入門書的な位置づけと言えそう。
『ドン・キホーテ 前篇(二)/(三)』 セルバンテス 岩波文庫
  *ドン・キホーテの言行を中心にした有名なエピソードが多い1巻よりも、彼が物語の中心
   から少し引いて“狂言回し”的な立場になった2巻の半ばあたりから俄然面白くなった。
   (その後は最後まで一気読み。)古本屋で続きを探していたのだが、先日とうとう我慢
   できなくなって後篇3冊を新刊でまとめ買いしてしまった。棚に積んである『レ・ミゼラ
   ブル』とどちらを先に読もうかな。今から楽しみ。
『最後のウィネーベーゴ』 コニー・ウイリス 河出文庫
  *現代のアメリカSF界を代表する女性作家の傑作集。日本で言えば誰に当たるだろう。
   高村薫とかだろうか。長い話が多いのでこれまで何となく敬遠していたのだが、文庫化
   されたのを機によんでみた。読後の印象としては理系が理想とする「端正」や「簡潔」
   と正反対の文体で「豊穣」や「饒舌」という言葉がぴったりな感じ。京極夏彦や森茉莉
   に近いかな。典型的な人文系のイメージ。ストーリー自体は比較的オーソドックスな
   SFになっていて面白いが、このような語り口に対しては好みが分かれそう。サービス
   精神旺盛なユーモアあふれる文章を、愉しいと思うかまだるっこしいと思うかが評価の
   分かれ目とみた。
   収録作品の中では、表題作の「最後のウィネベーゴ」が特に素晴らしかった。ペットを
   失うことの悲しみと種の絶滅をテーマに深い余韻を残して別格。他に気に入ったのは、
   “女性問題”を真正面から扱いつつユーモアたっぷりの「女王様でも」と、シェイクス
   ピアの大学講義をネタにした「からさわぎ」。
『ビブリア古書堂の事件手帖4』 三上延 メディアワークス文庫
  *今回は長篇。テーマが江戸川乱歩なので今までで一番面白く読めた。しかし有名になっ
   てしまったねえ、この本も。ドラマ化までされてしまって。
『立春大吉』 大坪砂男 創元推理文庫
  *全4巻からなる文庫版・大坪砂男全集の第1巻。この著者の作品は初めてなのだが、
   ひとつの文章(センテンス)が長いのが、作品に若干の読み難さと重厚感を与えている
   とみた。あっと驚くような奇抜なトリックは多くはないが、技巧と文章で読ませる。
   東野圭吾の『探偵ガリレオ』の元祖みたいな、警視庁鑑識課・技師の緒方三郎が探偵役
   を務めるシリーズが全て収録されているのも好印象。特に面白く感じたのは、表題作の
   「立春大吉」および鬼気迫るラストが印象的な「涅槃雪」、有楽町の水槽を舞台に人間
   消失事件を描いた「雪に消えた女」、幽霊の活躍を描いたユーモアあふれる作品「幽霊
   はお人好し」あたりか。第2巻の奇想&時代小説篇『天狗』も楽しみだ。
『乱調文学大辞典』 筒井康隆 講談社文庫
  *これまでアンブロース・ビアスの『悪魔の辞典』を始めとして様々な毒舌辞典が書かれ
   てきたが、本書は筒井御大の手による毒舌文学辞典。ただし40年以上前に書かれた文章
   なので、今となっては良く分からないギャグも多い。特に時事ネタをあつかった項目は
   予備知識がないと若い人には辛いのでは。(今ならさしずめ、しりあがり寿氏が朝日
   新聞に連載している時事マンガ『地球防衛家のヒトビト』を、何年後かに註釈なしで読
   むようなものか。)ただ大阪万博や高度経済成長期を覚えている人間にとっては、逆に
   当時の雰囲気が思い出されて妙に懐かしかったりもするのだ。(笑)
『ことばの発達の謎を解く』 今井むつみ ちくまプリマー新書
  *子供が言葉を習得していく過程を通じて、言語発達の仕組みを説明した認知科学の解説
   書。子供が全くの手さぐり状態から母国語を習得してく仕組みが不思議でならなかった
   が、本書を読んでだいぶ理解できた。一般向けに認知科学の成果を示す例として、読み
   やすい好著。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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