『新しいウイルス入門』 武村政春 講談社ブルーバックス

 読書で人文・社会学系の本が続くと、無性に自然科学系に手を出したくなる。でも専門的過ぎるのは値段も高いし内容も“お気らく読書”に似つかわしくないので、結局は手軽に読めるブルーバックスあたりを物色することに。しかしブルーバックスはすでに目ぼしいタイトルは読んでしまっていて、選ぶのがなかなか難しいのだ。最新科学のものは数年たつとすぐに内容が古くなって面白くなくなるしね。
 そんなわけで、本書はじぶんにとってちょうどいいタイミングで出てくれた一冊。今一番面白い科学分野は素粒子物理学と脳科学と分子生物学だと思っているくちなので、ウイルスの最新状況を俯瞰できるのはとても嬉しかった。ということで、さっそく中身について。

 「限りなく生物に近い物質」とよばれ、様々な疾病の原因として忌み嫌われるウイルス。(この本を読んだのはちょうどインフルエンザが会社で流行っている頃だったので、余計に“旬”な話題だった。/笑)本書はそんなウイルスに焦点を当てて、その種類や増殖のメカニズムについて紹介した一般読者向けの解説書となっている。前半の2/3はこれまでも読んだことのある話で、生物学のおさらいといった感じ(ただし知らない人には分かりやすくて良い内容だと思う)。すでに概要について知っている人にとっては、残りの1/3になったあたりからが俄然面白くなる。
 寡聞にして知らなかったのだが、1992年にイギリスで冷却塔から採取されたアメーバの中から発見され、「ミミウイルス」と名付けられた“巨大ウイルス”がある(いる?)そうだ。何と光学顕微鏡でも観察でき、さらにはこのウイルスに感染する「ヴァイロファージ」という小さなウイルスまで存在するというから驚き。(更に2011年には、もっと巨大な「メガウイルス」なるものも見つかっているとのこと。)
 また本書では様々な特徴をもつウイルスを紹介しているのだが、これがまた面白い。例えば、細胞核ではなく細胞質の仕組みを利用して増殖するため、細胞核を必要としないウイルスである「ワクチニアウイルス」だとか、生物と同じ2本鎖のDNAを持つ「ポックスウイルス」というものまで。「ワクチニアウイルス」が細胞質内で増えるときには、まるで核膜のような組織を生成して塊(ウイルス工場)を作るそうで、掲載されている写真を見るとまるで細胞核が二つあるようにも見えて不思議な感じ。やはりこの手の本はビジュアルが多い方がいいよね。(その意味でも気楽な読書には専門書より解説書の方が向いている。)

 本書の「新しい」ところは、これらのウイルスの構造や巧妙な増殖の仕組みや、ゲノム解析によって得られた生物との類似点などを総合して、「生物」というものの再定義にもなりかねない壮大なビジョンを示すところ。なんせ「真核生物の細胞核はウイルスが起源である」という仮説まで紹介しているのだから。(なお生物の再定義の夢を語るにあたっては、レオ・レオーニの『並行植物』を例にとるなど幻想文学好きには堪らないサービスまで。/笑)
 まだ学術的にコンセンサスが取れているわけではないのだけれど、本書を読んでいると将来的には「真核生物/真正細菌/古細菌」という生物の大きな3つのドメイン(分類枠組み)以外に、「ウイルス」という新しいドメインが認められるような気さえしてくる。うーん、正直いって最近の生物学がこれ程までにスリリングだとは知らなかった。まさに「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもの。素粒子物理学の世界でもヒッグス粒子やM理論がいよいよ普通に語られる時代になってきたようだし、奇想を売り物にしている小説家の人は、うかうかしてられないよね。(笑)

<追記>
 本書は章の終わりに幾つかのコラムが挿入されているが、それらも滅法面白かった。タバコモザイクウイルスの内部にある中空構造を利用して、均一なサイズのナノワイヤーを工業的に作り出す研究だとか、食品添加物(!)としてバクテリアに寄生するウイルスである「バクテリオファージ」がアメリカで認可されたとか。(なんでもハムソーセージの中に、食中毒を起こすリステリア菌に感染するタイプのバクテリオファージを添加するとのこと。)一体誰がそんなことを思いつくんだろうか。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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