2013年1月の読了本

『美術で読み解く新約聖書の真実』 秦剛平 ちくま学芸文庫
  *著者がどういう経歴の人か良く分からないのだが、文を読む限りではかなりエキセント
   リック。(美術大学の先生ってこういうタイプが多いのかな?内容は「宗教画の解説」
   ではなくて、宗教画に基づいて「イエスの生涯」に関する独自の仮説を開陳したもの。
   一応の説明はなされるのだが、歴史学的や文献学的にちゃんとした考証がなされている
   わけではなく、芸術家の感性によるものが大きいとみた。(題名にあるように「読み解
   いている」わけではない。)書きぶりもオヤジギャグと私見が満載でかなり好き勝手
   な感じだし、本書は「愉しい読み物」として読むのがいいのではよさそう。学芸文庫の
   一冊として出るのがふさわしいかどうかはまた別の話(笑)。文庫オリジナルだそうだ
   から、きっと編集の人も困ったことだろう(笑)。気楽に読む分には面白いから別に
   いいんだけどね。
『虎よ、虎よ!』 ベスター ハヤカワ文庫
  *何十年ぶりかで読み返したけどやっぱり愉しい! 荒唐無稽で絢爛豪華、たっぷりの
   冒険と悪趣味とアイデアを詰め込んだ贅沢なSF小説。
『ドン・キホーテ 前篇(一)』 セルバンテス 岩波文庫
  *いつかは読みたいと思っていたが、新年会がスペイン居酒屋だったのを機会に手を出し
   た。(我ながらなんちゅう安直な理由。/苦笑)前後篇を合わせて全部で6冊の大部だ
   が、これからゆるりと読んでいこう。
『僕僕先生 さびしい女神』 仁木英之 新潮文庫
  *中国の神仙が活躍する物語は昔から好きだ。『列仙伝・神仙伝』とか『捜神記』とか。
   最近はシリーズ本を殆ど追っかけていないのだが、本書は出るのを楽しみにしている数
   少ない1冊。
『幻想文学入門』 東雅夫/編著 ちくま文庫
  *全三巻からなる、文庫版オリジナルアンソロジー<世界幻想文学大全>の第一巻。本書
   は幻想文学に関する解説/評論を集めたもので、後に続く小説集の『怪奇小説精華』と
   『幻想小説神髄』の露払いをする役目。収録されている執筆者は次のとおりだ。
   (敬称略)澁澤龍彦/平井呈一/紀田順一郎/中井英夫/倉橋由美子/ノディエ/小泉
   八雲/ラヴクラフト/カイヨワ。
   特にラヴクラフトやカイヨワの文章がこれだけまとまって読めるのは貴重。幻想怪奇な
   物語のファンとしては、最近になって俄かに活気づいた出版状況はとっても有り難い。
『聖杯と剣』 リーアン・アイスラー 法政大学出版局
  *「ジェンダー論の基本図書」本とのこと。題名からはアーサー王伝説か何かを連想して
   しまうが、そうではなく協調型社会(聖杯)から支配型社会(剣)への転換と、それに
   伴い性差にによる差別が進行した過程について考察したもの。副題は「われらの歴史、
   われらの未来」。
『「紙の本」はかく語りき』 古田博司 ちくま文庫
  *冊子「ちくま」誌に「珍本通読」という名で連載された文章を編集しなおして、書き下
   ろしを加えた本。中身は色々な本についての感想や紹介だが、本の選び方や読み方の
   スタンスが自分に似ているところがあって共感できる。取り上げられている本は自分の
   守備範囲とは全く違い、これからもおそらく手に取る事は無さそうな本ばかり。でも
   それだから却って、著者のブラブラ散歩いや逍遥におつきあいして、「へえーっ」「ほ
   おーっ」と声をあげるような気楽さで付き合えるというわけ。全く違う世界の話だから
   自分からすると例えば明治や大正に書かれた随筆を読んでいるのと変わらないかも。
   (取り上げられている本は、それよりもっと古い時代のものが多いしね。)自分の中で
   は寺田寅彦氏やリンボウ先生(林望氏)の印象に近いかな。後半は由良君美氏とか。
『怪奇小説精華』 東雅夫/編著 ちくま文庫
  *<世界幻想文学大全>の小説篇。かつて本邦に紹介された怪奇小説の名作を選りすぐっ
   て、当時の名訳そのままで収録。未読や既読が入り混じっているが、特に気に入ったの
   は次の作品。(カッコ内は訳者名)
   ハインリヒ・フォン・クライスト「ロカルノの女乞食」(種村季弘)/エドワード・ブ
   ルワー・リットン「幽霊屋敷」(平井呈一訳)/W・W・ジェイコブズ(倉阪鬼一郎)
   ハンス・ハインツ・エーヴェルス(前川道介訳)「蜘蛛」/ジャン・レイ(森茂太郎)
   「闇の路地」。
   えらく細かな話で恐縮だが、「蜘蛛」に出てくる妖女の名前が、同書にも掲載されてい
   るゴーチエの短篇「クラリモンド」に出てくる妖女と同名なのに初めて気が付いたのは
   今更ながら収穫だった。
『欧州のエネルギーシフト』脇阪紀行 岩波新書
  *著者は朝日新聞の論説委員。EU諸国を中心にした欧州の発電事情に関するルポルター
   ジュで、話題の中心は原子力発電からの依存脱却と再生可能エネルギーへの取り組みに
   ついて。ひとことで欧州といっても国により事情は異なり、例えばスウェーデンでは
   水力発電が中心だし、デンマークでは風力発電に力を注ぐ。集約型の大きな発電施設
   ばかりでなく、コージェネレーションによる分散型発電の社会システムなども紹介。
   著者の書き方に少しバイアスがかかっている感じもあるが、直接現場を歩いて集めた
   関係者の声は貴重。色んな国の良いところはどんどん取り入れればいいんだよねえ。
   ホント。
『山頭火句集』 種田山頭火 ちくま文庫
  *村上護/編 昭和初期に活躍した漂泊の歌人、種田山頭火の句に小崎侃の版画、それに
   随筆を合わせた作品集。やっぱり好いなあ、山頭火。べたべたとした情緒を廃して、
   一瞬を切り取った素描が続く。今でいえば、ツイッターに投稿された風景写真のような
   感じか。でもそれでいて山頭火の心象が痛いほど伝わってくるのはさすが。気に入った
   作品をざっと書き出してみる。(やはり旅先で詠んだ句の方が好きだな。)
    「分け入っても分け入っても青い山」
    「うしろすがたのしぐれてゆくか(後姿の時雨て行くか)」
    「物乞ふもなくなり山には雲」
    「今日の道のたんぽぽの咲いた」
    「ふくろうはふくろうでわたしはわたしでねむれない」
    「百舌鳥のさけぶやその葉のちるや」
    「空へ若竹のなやみなし」
    「ひとりの火をつくる」
    「炎天のレールまっすぐ」
    「なかなか死ねない彼岸花さく」
    「ついてくる犬よおまへも宿なしか」
    「もりもりもりあがる雲へ歩む」
   思わず笑ったのは「ながい毛がしらが」。哀しい!これは哀しすぎるぞ。(笑)
   併録された随筆もなかなかに良い。句の生まれた背景が本人によって開陳されているの
   もだが、文章にぐっとくるものがある。気に入ったのはたとえば次のようなフレーズ。
   「余白といへば、私の生活は余白的だ」「私は水の如く湧き、水の如く流れ、水の如く
   詠ひたい。」あるいは「道は前にある、まつすぐに行かう、まつすぐに行かう」…
   文章のひとつひとつがまるで輝いているかのようだ。
『裸婦の中の裸婦』 澁澤龍彦/巌谷國士 文春文庫
  *西洋の芸術作品に取り上げられた裸婦について紹介した気楽なエッセイ。全10回のうち
   後半の3回分は、癌のために入院した澁澤に代わって巌谷が引き継いだため、本として
   は共著となっている。(作品自体は澁澤の選定によるもの。)ひと言でいえば平凡社ラ
   イブラリーの『フローラ逍遥』を裸婦でやったようなものといえるかも。バルチュス
   「スカーフを持つ裸婦」やヴァロットン「女と海」など、取り上げられている作品も、
   いかにも澁澤好みでシュールだったり無機質だったり不思議だったり。また絵画ばかり
   ではなく、両性具有のフルマフロディトスの大理石像や、四谷シモンによる球体関節の
   「少女の人形」なども紹介。
『アサイラム・ピース』 アンナ・カヴァン 国書刊行会
  *『氷』や『ジュリアとバズーカ』といった作品で一部読者に熱狂的なファンを持つ著者
   の第一作品集。アサイラム/asylumとは「精神病院」「避難所」「保護施設」という
   意味で、読後感はかなり重い。「絶対的な負の力」とでも言えば良いのか、ここまで圧
   倒的に「負であること」に価値を持つ本も珍しい。よくある自虐的なねちねちとした
   独白ではなく、突き放した客観的な描写が却って心に刺さってくる。本書が持つ”マイ
   ナス”の絶対基準は、これから生きていく上でいつか役立つときが来そうな気がする。
『宇宙になぜ我々が存在するのか』 村山斉 講談社ブルーバックス
  *素粒子物理学の理論研究の若手リーダーが一般読者向けに書いた素粒子物理学の解説書。
   最新のトピックスをふんだんに散りばめて、今の宇宙がどのようにして出来たかについ
   て語っている。中でも驚いたのは本書の平易さ。とても専門家が書いたとは思えない程
   文章がこなれている。素人にも理解できる書き方ではあるが、「最新書粒子論入門」と
   銘打ってあるだけあって、ヒッグスやLHC、超ひも理論やインフレーション理論など、
   最新トピックスにも事欠かない。「どこかで聞いたことあるよなー」という程度の話に
   ついて、全体を体系立てて分かりやすく説明するにはセンスがいるが、この著者は充分
   にセンスあるとおもうよ。いや本当に。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

こんばんは。
『虎よ、虎よ!』がちょうど最近気になってました。
なにかの縁と思って買ってみますね。

慧さま

こんばんは。

昔はSFをたくさん読んだのですが、
『虎よ、虎よ!』はその中でもかなり好きな部類に入ります。
ご趣味に合うといいですけど(^^)。

少し古い感じもありますけど、
そこも味のひとつぐらいに思って、
アメコミでも読んでいるような気持で読んでみてください。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR