2012年12月の読了本

『製鉄天使』 桜庭一樹 創元推理文庫
  *推理作家協会賞を受賞した『赤朽葉家の伝説』の中から生まれたスピンアウト小説。
   『赤朽葉…』は鳥取で製鉄業を営む一族の、女性3代にわたる物語。その2代目に当た
   る赤朽葉毛毬は中国地方の暴走族(レディース)の頂点を極めた存在だが、彼女のエピ
   ソードをベースにしてファンタジー色も加え少しライトノベル風味も加えたのが本書。
   (登場人物の名前も微妙に変えてある。解説で大森望氏も書いているように、)前作が
   小説としての「リアルっぽさ」を追求したのに対して、こちらは更なる「フィクション
   らしさ」を追求した感じ。京極夏彦などもそうだが、一気読みできる本を書けるという
   のは、それだけで大した才能だと思うよ。
『本にだって雄と雌があります』 小田雅久仁 新潮社
  *デビュー作『増大派に告ぐ』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した著者が、満を持
   して放つ力作ファンタジー。「書物と書物を不用意に並べると交わってみたこともない
   新しい本がこの世に生まれる」というアイデアも面白いし、装丁もユーモアあふれる
   文体も相まって、最初のうちは軽い話かと思っていたが、なかなかどうして。
   実は『百年の孤独』と同じように、政治学者・深井與次郎を中心に深井家6代にわたる
   歴史を描いた物語でもある。ファンタジーとしての味付けもどちらかと言えば魔術的
   リアリズムの雰囲気に近い。笑いありジンとくるところありの、読み応えある良質な
   エンタメ小説だった。書物と「物語の魔法」を愛する全ての人にお薦めする。
『イスラーム教 「異端」と「正統」の思想史』 菊地達也 講談社選書メチエ
  *スンナ派とシーア派の成り立ちを中心にして、イスラム教が宗教としての体裁を整える
   経緯を考察。キリスト教の歴史を知ることが現代のヨーロッパ社会を理解する上で必要
   不可欠なのと同様に、現代のイスラム社会を深く知るには格好の本。
『フランクを始末するには』 アントニー・マン 創元推理文庫
  *特に気に入ったのは「マイロとおれ」「フランクを始末するには」。「豚」の不気味な
   夫妻や「契約」「凶弾に倒れて」の後味の悪さもなかなか良い。(これは“奇妙な味”
   の短篇に対しては褒め言葉ととって頂こう。)
『逆光のなかの中世』 阿部謹也 日本エディタースクール出版部
  *様々な雑誌に発表されたものを集めた、バラエティに富んだエッセイ集。阿部氏が結構
   SF好きだったことがわかって意外だった。
『珠玉』 開高健 文春文庫
  *癌の手術後に小康状態の中で書かれた著者の”白鳥の歌”。ときどき無性に読み返した
   くなるのだよなあ。
『知の考古学』 ミシェル・フーコー 河出文庫
  *ポストモダン思想を代表する思想家の「最重要著作」という、帯の惹句もあながち嘘で
   はない。フーコーがやろうとしていた事、並びにその方法が余すところなく披露される。
『書国探検記』 種村季弘 ちくま学芸文庫
  *書物を偏愛する人の本はそれだけでハズレがない気がする(笑)。冗談はさておき、
   本書はドイツ文学研究の泰斗による方のおらないエッセイ集。なんで「学芸文庫」の方
   から出されたのかな?
『地底大陸』 蘭郁二郎 桃源社
  *著者名は「らん いくじろう」と読む。海野十三(うんのじゅうざ)などと同じく、戦前
   から戦中に活躍した探偵&科学小説系の作家。本書はS46年に桃源社からでた復刊企画
   「大ロマンの復活シリーズ」の一冊で、第1部は大人向けの科学小説の中短篇、第2部は
   子供向けの長篇科学小説である表題作、そして第3部は変格探偵小説の長篇『夢鬼』と
   短篇「魔像」を収録する。1部と2部は発表時の軍国主義的な時代背景もあり流石に古さ
   は否めない(笑)。子供の頃に見ていた「テレビマンガ」の雰囲気を思い出しながら、
   懐かしく読んでいた。第3部はいずれも大乱歩や夢野久作を彷彿とさせる作風で、他の
   小説とのギャップにちょっと驚き。実はこの本、先日実家に行ったときに発掘してきた
   のだが、何故こんな本が実家にあったのかは不明。小学生の頃に隣に住んでいた若夫婦
   に押井春浪『海底軍艦』をもらった覚えがあるので、その時一緒に貰ったのだろうか?
『アラビア・ノート』 片倉もとこ ちくま学芸文庫
  *1960年代後半に著者が実施した、ベドウィン(砂漠のアラブの民)への住込み調査から
   生まれたフィールドノート。今から50年近く前のことであって、おそらく宮沢常一著
   『忘れられた日本人』ならぬ『忘れられたアラブ人』なのだろう。以前読んだ著者の
   『イスラームの日常世界』などで知った、ムスリムたちの価値観や生活信条にもとづく
   日常生活が活写される。
『丸かじり劇場メモリアルBOX』 東海林さだお 文春文庫
  *東海林さだお氏のエッセイは、たまに発作的に読みたくなるのだ。本書は『丸かじりシ
   リーズ』の既刊本6冊からの傑作選。680ページもあるが、あっという間に読めてしまう
   軽さと、「あるある」&「細部へのこだわり」で気張らない愉しい読み物に仕上がって
   いると思う。(なーんて小難しく言う必要は全然ないんだけど。/笑)
『ナイトランド創刊第4号』
  *今回の特集はオカルト探偵物。ホジスンの往年の名作「カーナッキ・シリーズ」を復活
   させた作品を始め、愉しい作品が4篇。年間定期購読者の特典として、表紙イラストの
   カードセットが貰えたのも好かった。
『同時代ゲーム』 大江健三郎 新潮文庫
  *大江健三郎が神話的な題材でひとつの村の創生から消滅までを描いた作品。概要だけ聞
   くと『百年の孤独』のような感じもするが読後感はかなり違う。「国家」「森と再生」
   などがテーマかな。
『ニュー・アトランティス』 ベーコン 岩波文庫
  *16世紀イギリスの“知の巨人”が書いた未完のユートピア小説。今の眼から見て理想的
   な社会システムかどうかはさておき、当時の人が自分らに欠けていると感じていたもの
   や、あったら良いと夢想した様々なアイデアがわかって面白い。  
『巨匠とマルガリータ』 ブルガーコフ 河出書房新社
  *池澤夏樹個人編集の「世界文学全集・第5巻」。露作家のブルガーコフは『悪魔物語・
   運命の卵』も『犬の心臓』も読んだけど、最高傑作と言われる本書だけは未読だった。
   だって分厚いうえにハードカバーなんだもの(笑)。年末年始のまとまった休みを利用
   して今回やっと読了したが、これまでまった甲斐があった。『ファウスト』に出てくる
   メフィストフェレスを思わせる魅力的な悪魔ヴォランドが登場し、モスクワの街を舞台
   にロシア版百鬼夜行が繰り広げられる。今年読んだ本のなかでもかなりの上位に位置す
   る一冊。年の最後にこんな面白い本が読めて良かった。

【中入り】
 今日で2012年もおしまい。日本はもちろん激動の時代を迎えているが、活字の世界にも電子書籍という黒船が訪れて泰平の眠りが覚まされんとしている様子。一読者としては、面白い本が一冊でも読めるようになれば、どんな媒体であっても有り難いのであるが。
 さて今年一年、お気楽&気ままな拙ブログにお付き合い頂きまして、まことに有難うございました。来る2013年が皆様にとって良い年となりますよう、お祈り申し上げます。これからも宜しければお付き合いください。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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