My Choice/2012年印象に残った本

 今年一年の印象をひと言でいえば、良いことも悪いことも沢山あった波瀾万丈の年だった。まず年明け早々に庭で転んで、メガネを壊し手首の骨にヒビがはいるという流血の惨事。春には無事に大学に合格した息子が下宿を始めたかと思えば、自転車で転んで太ももの骨を折る大ケガ。慌てて飛んで行った晩には、祖母が亡くなったと聞きとんぼ返り。職場でも仕事内容ががらりと変わり、忙しくなって本を読む時間が取れなくなったりと、公私ともども大変だった(苦笑)。来年はぜひとも良い事だけが沢山あるよう、そして本をたくさん読めるよう期待したい。
さて、そんなわけで、今年の締めくくりとして恒例の「印象に残った本」をざっと挙げてみよう。

<新刊部門> ―今年出版された本―
『贈与の経済学』 桜井英治 中公新書
  *中世日本の社会経済を題材にして、「古代=贈与/近代=市場」という一元的な図式で
   は計り知れない実態を紹介。目から鱗が落ちる好著。
『完全言語の探求』 U・エーコ 平凡社ライブラリー
  *『薔薇の名前』や『フーコーの振り子』といったミステリでも有名な言語学者が、欧州
   における「完全言語」または「普遍言語」に対する探求の歴史をひも解いていく。
   まさに完全言語探求の百科全書。
『ラピスラズリ』 山尾悠子 ちくま文庫
  *著者は日本には珍しい、硬質な幻想を紡ぎだす幻想作家。本書は彼女が2003年に発表
   した連作短編集の文庫化だが、久しぶりに読んだらやっぱり好かった。
『完本 酔郷譚』 倉橋由美子 河出文庫
  *『スミヤキストQの冒険』しか読んでいなかったので、「なかなかヘビーな幻想小説を
   書く人」という印象しかなかったのだが、本書をよんでまったく変わった。一杯の魔酒
   に導かれて異界を訪れる主人公と彼を取り巻く人々の作り出す雰囲気は、まさに大人の
   ための幻想譚。
『孕むことば』 鴻巣友季子 中公文庫
  *翻訳家の著者が、初めての子供の成長とともに感じた、言葉についての様々な思いを綴
   った本。子供の大けがや祖母の葬儀と重なって特に印象深い一冊となった。
『みみずく偏書記』 由良君美 ちくま文庫
  *著者は澁澤龍彦や種村季弘とならぶ碩学だったそうだが、不勉強でこの本を読むまで
   全く知らなかった。何気なく読んでみたらあまりの面白さにびっくり。専攻はロマン派
   文学だそうだが、氏の考察の領域はボーダーレス。是非ともこれから再評価されて欲し
   い人だ。
『飛行士と東京の雨の森』 西崎憲 筑摩書房
  *ページの間から音楽が聞こえてくる、ジャンル分類不能な名短篇集。今年の収穫の
   ひとつ。
『天体による永遠』 ブランキ 岩波文庫
  *19世紀フランスの革命家による「永遠」についての奇想の書。宇宙について子供の頃に
   夢想したことがある人なら堪らない一冊になるのではないか。
『青蛙堂鬼談』 岡本綺堂 中公文庫
  *百物語の形式をとった古き良き怪談集。昔から有名な本でぜひ読みたかったのだが、
   中公文庫の一冊としてめでたく復刊された。本書といい『酔郷譚』といい、今年は幻想
   怪奇のジャンルに好いものが多かった。

<既刊部門> ―古本・絶版とりまぜて今年自分が読んだ本―
『身体感覚で「論語」を読み直す』 安田登 春秋社
  *能楽師であり漢字研究者でもある著者が、孔子の時代に使われていた漢字の成り立ちに
   遡ることで、『論語』の真の意味するところを考察した本。学術系では初めてとなる
   「100点満点」をつけさせてもらった。
『民族とナショナリズム』 ゲルナー 岩波書店
  *ナショナリズム研究の基本文献として『想像の共同体』(B・アンダーソン)と揃って
   取り上げられることが多い本。『想像…』が社会学的な見地からナショナリズム発生の
   メカニズムを考察したものだとすれば、本書は哲学・原理的な見地から考察したもの。
『行動経済学』 友野典男 光文社新書
  *アメリカで発達した従来の経済学が、人間をモデル化/単純化することで数式化に成功
   した反面、現実の経済活動との乖離が問題になってきたのに対し、人間本来の心理学的
   な反応をもとに経済活動を考察しようという一派が「行動経済学」。本書はその新たな
   経済学の一般向け入門書。
『忘れられた日本人』 宮本常一 岩波文庫
  *日本民俗学におけるフィールドワークの巨人の代表作。戦中から戦後に日本全国を股に
   かけて歩き、失われつつあった風俗の記憶を土地の古老に聞き取りした貴重な記録。
   これがまた滅法面白い、まさに今では「失われた」日本文化であり日本人といえる。
『巨匠とマルガリータ』 ブルガーコフ 河出書房新社
  *モスクワを狂乱に陥れる悪魔ヴォランド。彼ら一行と作家”巨匠”ならびにその愛人
   マルガリータが織りなす蠱惑的な物語。ロシア作家ブルガーコフの代表作。

 今年は本を読む時間がなかなかとれず、新刊を追いかけるのがやっとだったような印象があったが、こうしてみるとそうでもないようだね。フィクション全般を見た時には、自分がこよなく愛する幻想怪奇のジャンルに活気があったような気がする。2013年もこの調子で沢山でてくれると嬉しいなあ。
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はじめまして

舞狂小鬼さん、初めまして。
ここに挙げられている本の中では、「ラピスラズリ」しか読んだことがなかったのですが(山尾悠子大好きです)、幻想小説がお好きという事で、こだわりのあるラインナップ、すごく参考になりました!
特に「巨匠とマルガリータ」はぜひ読んでみたいです。

また遊びにきます~。


RE:はじめまして

イザクさん

はじめまして。
ご訪問ならびにコメントありがとうございます。

山尾悠子ファンの方でしたか。お仲間がいて嬉しいです(^^)。
私は小説では幻想/怪奇/SF/ファンタジーといった、
不思議系の話が大好きなのです。

またお話できるといいですね。
いつでもお越しください~。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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