2012年11月の読了本

『怪異考/化物の進化』 寺田寅彦 中公文庫
  *著者は言わずと知れた物理学者にして漱石門下の随筆家。本書は著者の数多くの文章の
   中から、ふるさと高知に伝わる怪異の考察や子供のころの神秘体験など、不可思議な
   出来事について書いたものばかりを集めた文庫オリジナル。先に出た『地震雑感/津浪
   と人間』と同じく『寺田寅彦随筆選集』の一冊だが、好みの題材ばかりなのでなんだか
   お買い得な一冊だった。
『やし酒飲み』 エイモス・チュツオーラ 岩波文庫
  *ナイジェリア作家の著者が52年に発表した代表作。ひとことで言えば「神話的」という
   のがぴったりくる作品で、人類学とか神話学に興味がある人や、技巧を廃した「物語の
   根源」みたいなものに惹かれる人ならきっと面白い。現代の作家が書いたとは思えない
   ような、まさに“アフリカ的”とでもいうべき作者不詳の伝承の香りが漂ってくる。
   ただし「香り」自体はアフリカらしさが強くても、物語の芯の部分については世界中の
   神話に共通するもの。(ローカリティを突き詰めると普遍に至るという話を、本書にお
   いても確認することができた。)
   たとえば本書において生者と死者の住む世界を厳密に分かち、それらが別個に成立して
   いるという世界観は、日本神話のイザナギ・イザナミやオルフェウスの物語を始めとし
   て世界中に見られるものだ。他に特徴的だったのは、人界から離れた森の中(=異界)
   に住むものは、味方になってくれるモノ(者・物)と敵意をもって害を加えてくるモノ
   の二つに明確に分けられるという点。森が「常に恐ろしいところ」と位置付けられて
   いるのも、なんだか印象的だった。
『大阪アースダイバー』 中沢新一 講談社
  *前著『アースダイバー』は東京を題材にして歴史の古層を掘り下げたが、本書では舞台
   を大阪に移して同様の試みを実施。『週刊現代』に連載されたものなので若干の「筆の
   軽さ」は否めないが、途中の怪しげなところを何とかギリギリ踏みとどまって最後には
   上手く着地した感じ。関西といえば避けては通れない同和問題についても、逃げずに
   ちゃんと触れているところは偉い。
『虫の生活』 ヴィクトル・ペレーヴィン 群像社
  *『宇宙飛行士オモン・ラー』に続いて2冊目のペレーヴィン。人間と虫の存在が入り混
   じり、時間と空間とプロットとか複雑に入れ子構造になったメタフィクションっぽい
   連作短編集。14の短篇にエピローグ(エントモピローグ)を加えた全15篇からなる。
   前作もそうだったが、著者の作品は普段読みなれているSFやファンタジーとは一線を
   画す、独特の雰囲気がある。魔術的リアリズムとはまた一味違う不可思議な作品世界が
   繰り広げられ、ロシア・ファンタスチカとはこういうものか…と感じ入った次第。
『化石の分子生物学』 更科功 講談社現代新書
  *副題は「生命進化の謎を解く」となっている。要は化石やはく製、琥珀の中の昆虫など
   “新鮮でない生物痕跡“から遺伝子解析をする、古今東西の研究者による試みについて
   紹介した本だ。著者は正直に書くことを心がけているそうだが、そのせいで大体が失敗
   事例なのが面白い(笑)。話題はあちこちに飛んで少しまとまりに欠けるきらいはある
   が、気軽に読める科学読み物として良いのではなかろうか。ブルーバックスからの刊行
   でないところも興味深い。
『粋で野暮天』 出久根達郎 文春文庫
  *著者お得意の古本エッセイ。ネタが古本だけに刊行後どれだけ経っても内容が色あせな
   い。(当たり前か/笑)
   ちなみにこの本は、10月に開催された「BOOK MARK NAGOYA 2012」というイベント
   の「一箱古本市」で買ったもの。色んな人が持ち寄った古本を眺めているだけでも愉し
   くて、また来年もあればぜひ行きたいものだ。
『青蛙堂鬼談』 岡本綺堂 中公文庫
  *日本最初の捕り物帳を書いた著者による怪談話の傑作。(岡本綺堂は東西の怪奇小説に
   対しても造詣が深いのだ。)本書はながらく入手困難だったのだが、このたびめでたく
   復刊された。
『超解読! はじめてのフッサール「現象学の理念」』 竹田青嗣 講談社現代新書
  *自分が日本の哲学者の中で一番好きな竹田青嗣氏が、自らの哲学の根本に置く現象学。
   本書はその現象学の開祖フッサールの主著を、一般読者にも分かり易しくひも解いた物。
   久しぶりに氏の現象学講義に接することが出来て懐かしくも嬉しかった。
『昔には帰れない』 R・A・ラファティ ハヤカワ文庫
  *唯一無二の作家ラファティの短篇集。本当ならもっと前に刊行されているはずだったの
   だが、なぜか延び延びになってやきもきさせられた。(別の出版社からもあと2冊出る
   予定なので、楽しみにして待とう。)
   中身については折り紙つき。へんてこりんな話が好きな人間としては、長いこと待った
   甲斐があった。まずはヒューゴ賞受賞作「素顔のユリーマ」で幕開け。愚鈍であるが故
   満足に何もできない主人公アルバートが、自分の代わりに様々なことをしてくれる驚異
   的なマシンの数々を発明するという、いかにもラファティらしい作品だ。
   本書は2部構成になっていて、第一部は訳者のひとりである伊藤典夫氏による“シンプル
   な小品”を集めたパート。たしかにラファティにしては比較的あっさりして判りやすい
   作品が多い気がする。次の第二部にはもうひとりの訳者・朝倉久志氏によるものも交え、
   ラファティが本領を発揮したひと癖もふた癖もある作品が並ぶ。「ユリーマ」以外で気
   に入ったのは、第一部からはブラックで怖い「パイン・キャッスル」と表題作の「昔に
   は帰れない」。第二部からは“ドィーク=ドクター”がエイリアンの診察をする「忘れ
   た偽足」や世界の“祝祭”の日を描いた「すべての陸地ふたたび溢れいづるとき」が面
   白い。中でも“失われた歴史”についての比類なき作品である「行間からはみだすものを
   読め」は最高に気に入った。
   作品によってがらりと作風が変わるのもラファティらしいが、どことなくジョン・スラ
   デックを思わせるような作品もあるというのは初めて知った。まさに変幻自在で、フラ
   ンク・ザッパのような作家といえるかも。
『日本文化論』 梅原猛 講談社学術文庫
  *1976年に刊行された古い本で、富山大学で行われた講演を書き起こしたもの。内容的に
   はいつもの梅原節で首肯できるところも多いのだが、それより本書を読んでいて思った
   のは中身よりも別の事。それは「”国家”を政治の主体や主題にすえる時代は終わった
   のではないか」ということだ。日本を含め今の国際社会を吹き荒れる、悪しきナショナ
   リズムの風を目にするにつけ、そんなことを考えてしまう。
『なんらかの事情』 岸本佐知子 筑摩書房
  *翻訳家の方のエッセイはどれも面白いが、岸本氏は鴻巣友季子氏と並んで自分が最も気に
   入っている方。本書は『気になる部分』『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞受賞)に
   続く3作目で、前作からなんと6年ぶりとのこと。これだけ面白いのだからもっとペース
   を上げて出していただけると嬉しいが、如何せん本業の傍らの執筆なので致し方ない。
   相変わらずの虚実入り乱れた不思議な話や爆笑必至の話が盛り沢山でとても愉しかった。
『堤中納言物語』 岩波文庫
  *平安時代の貴族の日常生活を、断章スケッチとして切り取った短篇集。全部で10の物語
   が収録されているが、思ったより「読み応え」があった。なんせ風習やものの考え方が
   今とは全然違う上、書かれている多くの話が当時の色恋沙汰。恋愛話にはもともと興味
   が無いのできついのだ(笑)。自分が特に気に入ったのは「あしながおじさん」めいた
   “ちょっといい話”の「貝合(かいあわせ)」と、現代風の考え方がとても魅力的な
   (当時の)異端児を描いて有名な「虫めづる姫君」の2篇あたりかな。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR