2012年8月の読了本

 公私ともどもドタバタが収まらず、更新がすこし遅れ気味になっております。しかし本読みは自分にとって呼吸や食事と同じ。やめることはございませんのでご心配なく。これからものんびりお気らくにやっていきますので、今後ともお付き合いのほどを宜しくお願いします。
 では早速8月の読了本について。

『慈善週間または七大元素』 エルンスト 河出文庫
  *シュールリアリズムの画家であるマックス・エルンストが製作した3冊の「コラージュ
   小説」のラスト。ストーリーはあって無きがごとしだが、不思議なイメージが横溢する
   ゴキゲンな1冊。
『ゆたかな社会』 ガルブレイス 岩波現代文庫
  *著者はカナダ出身でアメリカで活躍した経済学の大御所。経済学で考える「ゆたかさ」
   ―すなわち好不況や経済格差の不平等の解消について、これまでどのような考察がなさ
   れてきたかを俯瞰した本。
『書斎のポ・ト・フ』 開高健/谷沢永一/向井敏 ちくま文庫
  *博覧強記の3人による自由奔放な文学談義。筑摩はこういう古い本を発掘しては文庫化
   してくれるから嬉しいね。(その代り、売れないと絶版になるのも早いけど。/苦笑)
『日本幻想文学集成 泉鏡花』 国書刊行会
  *編者は歌人であり幻想小説も手掛ける須永朝彦氏。鏡花が言うところの怪異の2種類で
   ある「鬼神力」と「観音力」のうち、後者を中心に編んだアンソロジーになっている。
   同じく鏡花のアンソロジーで知られる東雅夫氏のセレクションとも違っていて面白い。
   他では読めないものばかりを集めたとのことで、さすがは『日本幻想文学史』を書かれ
   た著者ならでは。存分に愉しむことが出来た。収録作はどれも秀作なのだが、敢えて
   その中から特に気に入ったものを選ぶとすれば、「処方秘箋」「二世の契」「貴婦人」
   「伯爵の釵(かんざし)」「光藍(こうらん)」あたりか。いや素晴らしい。
『古本屋探偵登場』 紀田順一郎 文春文庫
  *活字好きの先達として昔から敬愛する著者が、古本をテーマに書いたミステリシリーズ
   の記念すべき第一作。古本屋探偵・須藤康平が活躍するこのシリーズは、すごく好きな
   のだがひとつだけ問題が。それは何かというと、出てくる「書痴」たちがあまりにも
   世間離れし過ぎて鬼気迫るものがあり、愛書家に対するイメージがかなり悪くなる事。
   (しかもどうやら現実にいるらしいから余計に...。/苦笑)。とくに第2話の
   「書鬼」に登場する矢口老人はすさまじい。
『地下鉄のザジ』 レーモン・クノー 中公文庫
  *著者は実験的な作品で知られるフランスの作家。訳はボーヴォワール『第二の性』を
   初めて日本に紹介した仏文学者の生田耕作氏によるもの。ボーヴォワールを読んだ時に
   も思ったことだが、残念ながら如何せん訳が古い。これは今こそ新訳で読むべきだよな
   あ。(光文社の古典新訳文庫あたりに期待したいね。)
   内容は全編ギャグで、エスプリというよりも天真爛漫な女の子に翻弄される大人たちの
   ドタバタ。ラストにはまるで『耳らっぱ』を思わせるようなシュールなシーンが突然に
   登場して、なんだか不思議な小説だった。流石は奇妙な小説として名高い『はまむぎ』
   の作者だけはあるね。(『はまむぎ』は高くて読んでないけど。^^;)
『今日の芸術』 岡本太郎 知恵の森文庫
  *「太陽の塔」や「明日の神話」などで広く知られる芸術家の著者が、1954年に書いた
   非常に真っ当な芸術論。当時はベストセラーになったそうだが、なるほど、氏の誠実で
   熱い思いが伝わってくる文章。決してエキセントリックな本じゃないよ。(笑)
『はじめての民俗学』 宮田登 ちくま学芸文庫
  *元は「ちくまプリマーブックス」から出された本。原題は『怖さはどこからくるのか』
   といい、このたび改題のうえ文庫化された。尤もこの人の場合、題名どおりにきっちり
   考察された本は見たことがない(笑)。テーマがあちこちにとび、結論もないまま何と
   なく終わるものが殆どなので、本書も民俗学の入門書と思って読むとまた肩すかしを
   食うことに。こちらも気楽に読んでいくことにする。
   中身は色々だが、どれも自分好みの話題。例えば柳田国男が「民俗学」という言葉で
   構想していたのが、今でいう文化人類学に相当する“世界的民俗学”だったとは知らな
   かった。また日々の生活を「ハレ(晴れ)」と「ケ(褻)」に分けるのでなく、第3の
   軸として「ケガレ(穢れ)」をおいた一節は斬新だった。(ケガレは日常だけでなく
   非日常にもかかわる概念で、いわゆる「聖」の一種でもあるとの由。その場合、ハレは
   “浄”の属性をもった聖でありケガレは“不浄”な聖となる。)
   題名通り「怖さ」について書かれた文章ももちろんある。思うに小松和彦氏らによる
   妖怪文化研究が生き生きとして優れた研究になっているのは、現代にも「異界」を信ず
   る人が相当数いるからに違いないのではないだろうか。
   (以上、とりとめのない感想で申し訳ない。)
『「カルト宗教」取材したらこうだった』 藤倉喜郎 宝島社新書
  *「ほぼ日刊カルト新聞」というウェブサイトを運営する著者が初めて書いた、カルトな
   団体との丁々発止のやりとりの記録。怖いものみたさもあって、おっかなびっくり読ん
   でみたが、これは良書。堅苦しくないし、本として普通に面白い。多くの人が読むと
   いいんじゃないかな。
『忘れられた日本人』 宮本常一 岩波文庫
  *日本民俗学の泰斗による代表作。今では忘れられてしまった古い日本の習俗を、村々の
   古老に聞き歩いて集めた貴重な記録。
『倉橋由美子の怪奇掌編』 倉橋由美子 新潮文庫
  *同じ著者による河出文庫『完本 酔郷譚』が気に入って、古本屋で旧著を大量に買い漁
   ってきたうちの1冊。独特のムードが相変わらず好い。特に自分好みの作品としては、
   骨になる奇病に罹った子供の話「事故」や、『酔郷譚』を思わせる「幽霊屋敷」、それ
   に(かなり怖い)「鬼女の面」あたりか。
『私は幽霊を見た』 東雅夫/編 MF文庫
  *「現代怪談実話傑作選」という副題が示すように、古くは泉鏡花が熱心に行った百物語
   にもつうじる「怪談文芸」の傑作選。名だたる著述家たちが自らの怖い体験を語った
   文章を集めたアンソロジー。
『屍者の帝国』 伊藤計劃/円城塔 河出書房新社
  *惜しくも若くして逝った盟友の構想を、『道化師の蝶』で芥川賞を受賞した円城塔が
   完成させたSF巨編。フランケンシュタインを題材に、死者の甦りが日常的となった
   世界を描く。テーマはまさしく伊藤計劃のものだが、作品としてはしっかり円城塔の
   テイストが堪能でき、近年読んだ奇想小説の中でもかなりの傑作。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
カテゴリ
プロフィール

舞狂小鬼

Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

最新トラックバック
FC2カウンター
最新コメント
リンク
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR