『私は幽霊を見た』 東雅夫/編 MF文庫

 副題には「現代怪談実話傑作選」とある。たとえば前にベストセラーになった『新耳袋』などをイメージしてもらえばいい。古くは泉鏡花が熱心に行った「百物語」にも通じる怪談文芸のアンソロジーで、エッセイとも小説とも言い難いちょっと変わったタイプの本だ。
執筆者の顔ぶれがなかなかすごい。ざっと名前を挙げてみると、阿川弘之/火野葦平/佐藤春夫/三浦朱門/遠藤周作/柴田錬三郎といった名だたる作家たちの他、民俗学者の池田彌三郎や詩人・フランス文学者の平野威馬雄といった“お化け好き”、それに徳川夢声や稲川淳二などの芸能人や超常現象研究家の中岡俊哉まで非常に多彩。(中には石原慎太郎の思い出話という変わり種まで。)これら様々な人たちが自ら体験したり当事者から直接聞いた、23篇の“怖くて不思議な話”がぎっしりと詰まっている。
 時代は戦中戦後の混乱期から昭和後期が中心だから、自分にとっては親から聞いたり子供のころに過ごした時代の息吹が感じられて妙に懐かしい。「実話」とあることからわかるように、作家が書いた文章であっても必ずしも「文学」にまで昇華されているわけではなく、もっと生々しい感が強い。普段はこの手の文芸ジャンルをさほど読むわけではないのだが、本書は中身が“古い”ところが気に入った。今の時代をリアルタイムで評価できるようなモノサシはあいにく持ち合わせていないのだが、これくらい前の話になれば一歩引いたところで眺めることが出来る。当時は気づきもしなかったものが、実はその時代独特の意識だった事がわかったりして何とも面白い。(*)

   *…たしか荒俣宏氏も「新刊は生々しくて読めない、数年寝かしてしっとりしたところ
     で読む」という類の話を、『ブックライフ自由自在』か何かで書いていたのでは
     なかったか。

 冒頭に収録された平山蘆江によるエッセイ「怖い・凄い・不気味な」は特に気に入った。エッセイの棹尾を飾る「さてもさても人生には夢がほしい。淋しく暗く怖ろしい夢ほど恋しい。」という文章が、本書のような文芸の目指す方向を端的に示しているようで好ましい。まるで大乱歩の「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」を彷彿とさせるようではないかな?
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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