『みみずく偏書記』 由良君美 ちくま文庫

 いやあ、びっくりした。こんな凄い人がいたなんて今まで全然知らなかった。まだまだこれから、新しい事に出会うチャンスがあるなんて、嬉しくなってくる。(などと自分の不勉強を棚に上げて能天気に喜ぶ。/笑)
 昔から紀田順一郎や出久根達郎ら、いわゆる“読書の達人”たちの本が好きで、本屋で新刊を見かけると読んでいる。(鴻巣友季子や岸本佐知子ら翻訳家の書いたエッセイを、好んで読むのも同じ理由から。)本書を新刊棚で見かけた時も、「みみずく」という響きと「偏書」とわざわざ断っているところに引っ掛かりを感じて、まったく予備知識なしで購入した。扉の見返しにある著者近影をみて「言われて見ればたしかにミミズクに似た風貌だなあ」と思った程度の印象(失礼)。
 従ってさほど読みたいわけでもなく、買ってからも何となくひと月ほど放っておいたのだが、ある日、ふと軽めのエッセイでも読みたくなった。そこで「そういえば…」と積読本の中から引っ張り出して読み始めたところ、いきなり冒頭の「書狼に徹して書物漁り―当分」でびっくり。ついで柳田国男とオスカー・ワイルドの関係やラヴジョイの観念史学会の話で唸らされ、ウィリアム・ブレイクや偽書「フランケンシュタイン日記」で完全にノックアウト。あとは居住まいを正して最後まで一気読みだった。
 何と言っても、本書でとりあげている著者/著作も渋い。気に入ったのを思いつくままざっと挙げてみると、「白樺の玩具箱を蹴かえした小男-郡虎彦讃美」「夢野久作の父の文学的足跡―この父なくしてこの子なし」「メスメリズム断想(*)」などなど。
 とくに素晴らしいのは自らの読書体験を綴った一連のエッセイ。「消えた三つの至福の部屋」をはじめとして、「ニュー・スクール、バーク、スロチャワー」や「CROSS-MODALな書誌を」などは圧巻。まさしく学際的な研究がもつワクワク感を如実に示してくれる。(もっとも、著者はこの「学際的」という言葉は好きでないそうで、本書では代わりに“CROSS-MODL”という言葉を使っている。)

  *…「動物磁気説」という如何わしさ満載の疑似科学で有名なメスメルと、その著作の
    本邦への紹介を巡る話。

 本書はこれまで聞いたこともない名前が続々と出てきて大変に「刺激的」。『オーデン わが読書』という本についての書評の中に―「それにしても、これは辛い行為である。読者の学力などは問題にせず、いきなり対象の本質に切り込み、(中略)知的宇宙の地図の中の等高線に、どんな対象も作図しおおせてしまう」という文章があるが、まるで本書自身のためにあるような言葉だ。(笑)
 でも心配はご無用。次のような言葉も出てくる。マイケル・オーショットという人の言葉らしいが、「そもそも人文系の学問を、知識を蓄えるためにするのは邪道」だそうだ。たとえ自分が知らない人の話だろうが、たとえ読んだ後忘れてしまおうが、そんなこと構わないから、読書の瞬間をただ驚きとともに愉しめばいいのだと思うよ。そうすれば「知識として大脳を富ませてくれるというより、知識以前の漠たる形で意識下に沈む事柄の方が多い。そうでないと読書はどうも愉しくない」という境地にたどり着けるから。(この意見には全面的に賛成! ただ自分の場合は沈みっぱなしで、二度と浮かび上がってこないことが多そうだが。/苦笑)
 「これだけ多様な対象である、どの読者の興味にも、どれかは必ず引っかかってくるだろう」という心強い言葉も出てくるが、これもまた事実。まさしく「全人間的関心の領野にわたる読書」であると言える。(**)
 他にも随所に、つい記録しておきたくなる文章が。たとえば“諷刺”とは「現状を笑う立場」であり、“幻想”とは「現実から一歩離れなければ成立しない虚偽の構築」、そして“ユートピア”は「現実にないリアリティの様相をもつ描写であり可能性の唄」だとか、これら“諷刺/幻想/ユートピア”の3者がつくる三角形こそが、現実を超越するための想像力の根拠なのではあるまいかという仮説とか。(この著者の主張には個人的には大変賛同できる。)

  **…以上の引用はすべて『オーデン わが読書』の書評文から。

 いやしかし、こんな凄い人を“探書アンテナ”から完全に取りこぼしていたなんて、勿体ないことだ。一読して、山口昌男の『道化の民俗学』や澁澤龍彦の『黒魔術の手帖』に、初めて出会った時のことを思い出した。(いい年したオッサンがちょっと感激してしまったヨ。)
 ネットで著者のことを調べてみたら、澁澤龍彦や種村季弘と並び称される「脱領域」の知性と書いてあって妙に納得。本職は「コールリッジを中心とした英国ロマン派文学」の研究とのことだが、ベースにあるのは哲学であり、はたまた幻想文学への造詣も深いとのこと。いわゆる「碩学」というのは、このような人のことを言うのだろうね。著作はあまり多くなくて、今では入手困難なものが殆どのようだ。本書を読み終えた直後に、平凡社ライブラリーから『椿説泰西浪曼派英米文学談義』が復刊されたので、さっそく買ってきた。勿体ないから少しずつ読んでいくことにしよう。

<追記>
 初めにも書いたけど、幾つになってもこういう体験が味わえるからこそ、読書はやめられないのだよね。明日からも自信をもって言わせてもらおう。「趣味は読書」と(^^)。
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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