本を愉しむ

 少し前になるが、ミシュラン2つ星のフレンチレストランで、フルコースのディナーをご相伴にあずかる機会があった。食文化を研究している大学の先生や、京都の老舗料亭の若主人にご一緒して、オーナーシェフ自らが料理のコンセプトを語るのを聞くなんて、もちろん生まれて初めて。おそらくこんな機会はこれから一生ないだろうし(笑)、せいぜい楽しませていただいた。
 さすが皆さん話題が豊富。3時間もの長丁場ということで、話すことが無くなったらどうしようと心配していたのだが(なんせ小心者なので/笑)、幸いにして退屈することなど全く無かった。ただし困ったのは、自分がこういう席で話せる話題があまりないこと。普段から良いもの食べつけてないと、こういうところでツケが回ってくるわけだ(笑)。とりあえずはひたすら聞き役に回ることに。
 一通り食事も終わりコースがデザートに差し掛かったころ、話題がワインとチーズの「マリアージュ」(*)の話になった。そこでふと思いついて、自分のフィールドである本の話題を振ってみることに。
 それは何かというと「本と本のマリアージュ」と「本と音楽のマリアージュ」。前者は複数の本を併読すると、個々の本が思わぬ広がりをもつ場合があるという事。そして後者は読書の際のBGMが、時に本の面白さを増幅させる効果を生むという話だ。(結構ウケたのでほっとした。/笑)
 ディナーの席ではあくまでも軽い話題の提供だったので、それ以上深い話はしなかったのだが、実は「本と本」もしくは「本と音楽」の組み合わせは、以前からちょっと気にしていたこと。そこで今回はもう少し詳しく触れてみたい。

   *…マリアージュとは仏語で「結婚」のこと。2つのものを食べ合わせることで、
     それぞれを単独に味わうよりも芳醇な香りや味を楽しめるという意味。

 まずは「本と本」の組み合わせについて。前にも一度書いたことがあるかも知れないが、普段から3~5冊の本を並行して読むことにしている。小説を読み続けるのに疲れたらエッセイを読み、学術書に飽きたらまた別の本というように、いろいろなジャンルの本を併読することで、常に新鮮な気持ちで読書を愉しむことが出来るというわけだ。
 ところがそのうち、全く違う種類の本がまるで共振しあうかのように、互いに繋がりを持ちはじめることがあるのに気が付いた。(先ほどのディナーの際には、それをとっさに「マリアージュ」に例えてみたというわけ。)わざと意識して読む本を組み合わせてみてもダメで、むしろ予期しなかった組み合わせの方が、突然の驚きをもたらしてくれることが多いようだ。
 比較的最近の例でいえば、A・ネグリ/M・ハートによる『マルチチュード』という本を読んでいた時の事。この本は、国際社会を取り巻く「新しい潮流」に関する、政治社会系の固めの本なのだが、それを読んでいる途中で何気なく大好きなJ・G・バラードの新作長篇『千年紀の民』を読み始めた。すると驚いたことに、両者が前提とする問題意識やテーマが見事にシンクロ(**)しているのだ。ユングならさしずめ「シンクロシニティ(共時性)」というところではないか。(^^)

  **…しかも調べてみたところ、ネグリらによる『マルチチュード』の前著である
     『<帝国>』が欧州でベストセラーになったのは、バラードが『千年紀の民』を
     書く数年前。そこで「バラードは『<帝国>』を読んで『千年紀の民』を書いた
     のか?」という仮説を当ブログで披露したら、なんと翻訳者の増田まもる氏ご本人
     からも自説へのご賛同をいただくという余禄まで。とっても嬉しかった。

 次は「本と音楽」について。本を読むときのBGMについては、高校生の頃から割と意識して選んでいる。ボーカル付きの曲だと歌詞が邪魔で本に集中できない場合があるので、インストゥルメンタルを流すことが多い。読書に意外と合うのが、少し古めの映画音楽。それもなるべく意表を突いたものの方が、上手くハマった時に気分がいい。(***)
 イメージ的に言うと、映画『2011年宇宙の旅』で「ツァラトゥストラはかく語りき」とか「美しく青きドナウ」が、宇宙空間の場面にぴったり合っていたときの感激。あるいはベトナム戦争をテーマにした『地獄の黙示録』で、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」やドアーズの「ジ・エンド」が効果的に使われていたようなものだ。
 (かなり昔になるが、)実際に自分が経験した例を挙げてみると、冒険作家アリステア・マクリーン原作でテロに襲われた豪華客船の物語を映画化した『黄金のランデヴー』のテーマ曲が、SF作家A・C・クラークの『渇きの海』というサスペンスSF(月面観光船の遭難と救出劇を描いたもの)のBGMにぴったりだったというのがある。(ちょっと古すぎるか。/苦笑)
 比較的最近のケースなら、先ほども出てきたJ・G・バラードの『殺す』という中篇作品を、キング・クリムゾンの『太陽と戦慄 part1』という曲をかけながら読んだところ、見事にマッチしてより一層愉しめた事とか。(これも古い?)

 ***…最近のはロックやポップスがテーマソングに使われることも多くなり、昔ながらの
     いかにも「映画音楽」という曲が減ってしまったのがちょっと残念。

 うーんと。古い譬えしか思いつかないので(笑)、少し視点を変えてみよう。
 実は先日、愛知県美術館で開催中の「マックス・エルンスト展」に行ってきた。この人は知る人ぞ知るシュールリアリズム系の画家。小説だけでなく絵画でも奇想系が好きな自分としては、これだけでも充分に愉しめたのだが、実は活字好きとして秘かにもうひとつのイベントも企画していた。それは何かというと、M・エルンストが制作した“コラージュ小説”(?)の本を買って読むというもの。
 コラージュ作品といっても大判の画集ではない。『百頭女』『慈善週間』『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』という3つの作品があり、どれも河出文庫から出ている。展覧会の余韻に浸りつつさっそく『百頭女』を購入し、電車の中でページを繰りつつ帰るのが堪らなく心地いいひと時だった。これも広い意味では「本と絵画のマリアージュ」と言えるのではないかな。
 その日はさらに欲張って、もう一つのイベントも企画していた。実は展覧会の後にそのまま、同じ会場内で開かれていた名古屋フィルハーモニー交響楽団(名フィル)の、ファミリーコンサートにも出かけてきたのだ。ひょんなことからチケットを譲って頂く機会があり、演奏曲目もよく調べずに出かけたわけだが、何とプログラムの特集が自分好みの「真夏のホラー・ミュージック」。サン=サーンスの交響詩『死の舞踏』や、グノー『操り人形の葬送行進曲』などを堪能することが出来た。
 特に『死の舞踏』という題名は、自分が好きなマーヴィン・ピークという作家の作品名でもあったので、ピーク独特の作品世界を思い出しながらオーケストラを聴くという、大変に贅沢な時間を過ごすことが。これも広い意味では「本と音楽のマリアージュ」といえるのかも。

 以上、いろいろ書いてきたけれど「本と本のマリアージュ」とか「本と音楽のマリアージュ」とか言うのは要するに、「読書という体験そのものを愉しむ」ということなのだと思う。“本の中身”だけでなく、“本を読むという行為自体”を愉しむ姿勢で常に接していれば、併読している本や音楽ばかりでなく、自分の身の回りのありとあらゆることが、より豊かな読書を味わうきっかけになるという事なのかもしれないね。
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こんばんは。

エルンスト展、羨ましいですねー!
エルンストはシュルリアリストのなかでもクールというか、ストイックなイメージがあって、ぼくもかなり好きです。

慧さま

エルンスト面白かったですー(^^)。

ものすごく色んな作風を持っている人ですね。
デカルコマニーとかグラッタージュの技法を駆使した、
「森」のシリーズなどが特に気に入りました。

ロプロプとかいう謎の怪鳥もコンセプトが面白いし、
彫刻はどれもユニークで笑えてきますし、
個人的にはかなり満足できた展覧会でした。

だのに、なぜか会場はガラガラ。
さびしかったです。
もっとみんなが見に行けば良いのに!と思いました。

ありがとうございます!

私の我がままなオーダーに応えて下さってありがとうございます。
「シンクロシニティ(共時性)」の件、とても共感いたします。

音楽と本、絵画と本、などのマリアージュに関しては人それぞれ、センスや体験で違ってくるんだろうなぁと思うと面白いですね。可能性が広がりますね。
お題で本を提示して、「これに合うと思う音楽を教えて下さい」と募集しても楽しそうですが、答えが集まるかどうか・・・無理っぽいかなぁ。

私自身は音楽も本も「ながら」が不可な人間だったりするのです、実は(⌒-⌒; )

彩月氷香さま

こちらこそありがとうございました。
おかげさまで結構いろいろな昔のことを思い出せて楽しかったです。

「本と本」または「本と音楽」の組み合わせで、
具体的にどんなものが好かったかについては、
だいぶ忘れてしまっていましたが(汗)。
(その時にメモを残しておけばよかったです。/笑)

本も音楽も嗜好性が強いですから、
自分で試行錯誤して会うものを見つけるしかないかも。
せっかくどなたかに「お奨め」を教えていただいても、
それが自分の趣味に合わないとちょっと気まずくなりそうなので、
募集はやめておきます。(小心者なので。/笑)

そうですか、彩月さんは「ながら」は苦手なんですね。
でも、ブログで拝見した「英国月間」などは、
色んな出会いがあっていかにも楽しそうじゃないですか。
あれも一種の「マリアージュ」かもしれませんね(^^)。

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Author:舞狂小鬼
サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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