『よいこの君主論』 架神恭介/辰巳一世 ちくま文庫

 以前マキアヴェリの『君主論』を読んだ時から、いつか読んでやろうと楽しみにしていた本。裏表紙の説明には「マキャベリの名著『君主論』を武器にクラス制覇へと乗り出した小学五年生のひろしくん。だが、彼の前に権力への野望を持つ恐るべき子供たちが立ち塞がる!『君主論』はひろしくんを覇王へと導くことができるのか?」とある。『君主論』が名著かどうかには異論があるとしても、なかなか面白そうな本でしょ。(笑)
 読んで感心したのは、本書が単なる原著のパロディというだけでなく、巷にあふれるビジネス書のパロディにもなっているという点。この『よいこの君主論』という本自体も、(読もうと思えば)帝王学の分かりやすい指南書として使えるわけだから、セルフパロディになっているとも言えるだろう。
 古典作品から都合のいいところだけを切り取ったノウハウ本だとか、「マンガで読破○○」の類を飛ばし読みしてそれで読んだ気になるというのは、以前から「どうだかなー」と思っていた。(読書を楽しみのためでなく何かの手段としてしか考えていない人は、それで構わないのだろうが、それでは何だか寂しくないかね。)
しかしそれを正面切って批判するのではなく、思いきり茶化してしまおうという本書のようなスタンスは、自分も見習いたいもの。

 というわけで、本書をとことん楽しむにはまず原著を読むに越したことはないのだが、まあとりあえずここでは、本書のもとになった『君主論』の内容について軽くおさらいするくらいにしておこう。
 『君主論』が書かれたのは15世紀のイタリアはフィレンツェ。当時権勢をふるったメディチ家に仕えていた書記官のマキャベリが、若党首のロレンツォ・デ・メディチに捧げた書だ。内容はといえば、列強の周辺諸国からフィレンツェが侵略・蹂躙されないために、君主が心得ておくべきノウハウとでもいったもの。「君主が目指すべき理想の姿とは?」みたいな机上論ではなくて、「国家において最も重要なのは軍事であり、君主は軍事(防衛と侵略)のことだけ考えていればいい」という著者の主張が盛りだくさん。様々な君主のタイプや防衛と侵略の方法別に(*)、マキャベリなりの判断が下されている。まさにホッブスの『リヴァイアサン』を地で行くような時代の産物といえる。

   *…君主のタイプというのは例えば親から領地を受け継いだ世襲君主。もしくは臣下が
     クーデターを起こして新たな君主になる場合や、大国による傀儡国のやとわれ君主
     など。防衛と侵略に関しては自国軍と傭兵、他国の支援軍のメリットとデメリット
     が比較される。他国を占領した場合の統治の方法なども事細かく説明あり。

 さて、それでは本書の内容について。
 物語の舞台は目立(めだち)小学校の5年3組。主人公の「ひろしくん」という生徒を軸に、「りょうこちゃん」や「まなぶくん」といったひと癖もふた癖もある面々が、リーダーの座を巡って覇権を争う様子が描かれる。
そして各章の最後には「ふくろう先生」が「たろうくん」と「はなこちゃん」という2人の生徒に向けて、「ひろしくん」たちのとった作戦の出来不出来に関する解説をするという「入れ子」の構造。要するに子ども向けの学習読み物の体裁になっているというわけ。
 具体的には、「世襲君主」になぞらえた有力な兄貴をもったダメな弟の哀れな末路だとか、、もしくは「征服した他国領土が征服者の風習と異なる場合」の支配の難しさを、女子グループを仲間に加えて自壊した男子グループのエピソードで語るなど、『君主論』の内容に合わせてとても分かりやすい(笑)喩えがなされている。リーダー/君主としては、平民/グループメンバーから怖がられる統治は良いが、恨みを買うような統治はいけないとか、はたまたリーダーたるもの常に不測の事態(優しい担任が産休で突然休むなど)に対する備えを怠らないこととか、笑いながら読み終えることができた。
 先ほども述べたように下手くそなビジネス書を読んでいると、原著の内容を無批判に(まるで金科玉条のようにして)奉ることへの気恥ずかしさが先に立つ。しかし本書においては「子どもの読み物」という体裁のおかげで、気恥ずかしさは笑いへと昇華されているため、読んでいてさほど抵抗はない。(イラストがちょっと恥ずかしいくらいか。/笑)
 今ちょっとネットで調べてみたら、やはり本書はビジネス書としても推薦されているようだ。ま、確かにスカスカの抜書き本を読むよりは、本書の方が遥かに役に立ちそう。(少なくとも頭には入りやすい。)
 ただ自分としてはそんな読み方は嫌だなあ。そんな目的で読書をしたって勿体ないし詰まらない。著者らの意図とはもしかいたら違っているかも知れないが、自分としては本書を「君主論をネタにしたパロディ」として読む事を、もしくは「君主論をわかりやすい喩えで説明した、若干毛色の変わった解説書」として読む事を是非ともお勧めしたいな。

<追記>
 本書のようなパロディではなくて、『君主論』の世界観に真面目取り組んだ物語としては、ジョージ・R・R・マーティンのファンタジー大作『氷と炎の歌』のシリーズあたりが頭に浮かんでくるな。いろんなタイプの小君主や陰謀と裏切りが入り乱れ、まるでマキャベリズムの見本市のような人間不信の世界が描かれる。すごく面白いんだけれども、その代りすごく心が痛むよ。(^^;)
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サラリーマンオヤジです。本から雑誌、はては新聞・電車の広告まで、活字と名がつけば何でも読む活字中毒です。息をするように本を読んで、会話するように文を書きたい。

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